わたくしと七人の男の子と王子サマ3
トントントンと最初よりはリズミカルになった包丁の音が響きます。
まな板の上に置かれた食材は、畑で育てた野菜にございます。
玉葱と人参とじゃがいもを使い、ことこととシチューを作るのですが、野菜の煮込み時間を長くしてじゃがいもがとける位がわたくしの好みです。
畑の野菜は収穫しても翌日にはまた生えているので、毎日好きな食材を選べます。
森に生えている木の実も同じですし、わたくしが本で読んだ世界より世の中はとても便利でございます。
「しろちゃん、しろちゃん。そっちはどう?」
「はい、こちらは万全に作業を進めております。そちらは如何ですか、ハッピーさん」
「僕のほうもきっちり進んでるよ!うん、幸せぇ」
男の子の中でも一番幼い顔立ちのハッピーさんは、円らな瞳を細めてほにゃりと微笑みました。
ふわふわの癖毛と女の子のように愛らしい顔立ちに、白くて細い腕や足が強調されるオーバーオールは彼にとても似合っております。
前髪をリボンで結んでいらっしゃるのですが、それがまたコケティッシュで可愛らしいです。
グランビーさんは女男と言ってよく喧嘩を吹っかけているのですけれど、中間はドクさんやドーピーさんが話しかけてきてくださるためにいつも見れなくて、気がつけばグランビーさんは床の上で寝ていらっしゃいます。
風邪を引くといけないのでベッドまでお運びしようかと思いましたが、固い床の上が好きだとみなさんから教えていただけて、今では床の上で眠っているときには毛布を掛けて差し上げるようにしております。
たまに背中に複数の足跡がついているのを見受けますが、トイレに行く途中で不可抗力で当たってしまうらしいのです。
時折トイレと正反対の場所で寝ているのにも関わらず足跡がついておりますが、きっとみなさん子供なので寝ぼけてしまうのでしょうね。
床で寝た翌朝の起床時にはグランビーさんの気分はかなり苛立っておりますが、ぐっすり寝た後にも拘らずあの状況なので、もしかして悪夢を見ているのではないかと心配になります。
今日お帰りになってから確認をとることにしましょうと心に決めて、もう一人お手伝いをしてくださる方に視線を向けました。
「バッシュフルさんは如何ですか?何かお手伝いしましょうか?」
「ふん。君なんかに手伝いされたくないし。どうせ仕事が遅いんだから、自分の仕事だけさっさとやれば、馬鹿!」
「はい。差し出がましいことを申し上げまして、すみませんでした」
「前みたいに怪我したりとかしないでよ。トマトを入れてないのに赤いシチューなんて、僕は嫌だからね!」
「通訳すると、怪我が心配だから気をつけてね、だって!バッシュはしろちゃんが怪我したら一番大慌てだもんね」
「余計なこと言わずに黙っててよ、幸せ馬鹿!」
にこにこと愛らしい笑顔を浮かべて指を立てたハッピーさんの、襟首を両手で掴んだバッシュフルさんは、切れ上がった眦を鋭く細めて紫紺色の瞳を剣呑に光らせました。
ドクさんやスリーピーさんとはまた違った雰囲気の綺麗なお顔立ちですが、片目を長く伸ばした前髪で隠したバッシュフルさんは、迫力美人という言葉が似合いそうです。
さらさらの薄紫の髪を襟足を越えるくらいのショートカットにされて、所作も一つ一つが品がございます。
言葉遣いだけは少し荒々しいですが、慣れてしまえばグランビーさんと同じくらい表現が個性的なだけで、とてもお優しいです。
以前料理で怪我したときも、『馬鹿なんじゃないの!?』、『どうしてこんなことが出来ないの!』などとお怒りでしたが、手当てをする手つきはとても労わりに満ちているものでした。
指先をほんの少し切っただけでしたのでお手伝いを続けようとしたのですが、『そんな重傷で動く気なの!?僕が代わってあげるから、さっさと目障りな傷を治してよね!女の子なんだから、少しは気にしなよ!』と、とても心配していただきました。
料理は毎日のわたくしの仕事ですのに、傷が完全に消えるまでの一週間の間朝昼晩と当番を代わってくださって、言葉など必要ないくらい大切にしてくださります。
「あはは!今日もバッシュは元気で、しろちゃんも可愛くて、二人と一緒で僕幸せ」
「うるさい、黙れ!もう余計なこと言うな!」
「どうして?僕はバッシュがツンデレでも大好きだよ」
「大好きって言うな、馬鹿!」
「ふふふふふ」
ハッピーさんの言葉に顔を真っ赤に染め上げたバッシュフルさんはとても可愛くて、胸の奥から温かい何かが込み上げます。
素直に頷かないだけで、バッシュフルさんは決してハッピーさんの言葉を嫌悪してるわけではございません。
毎日こうしたやりとりをなさるお二人ですが、慣れてしまうほど一緒に行動されてます。
少しだけ個性的な好意の表現をなさるバッシュフルさんを、ハッピーさんは大好きです。
そして毎日後をついて回るハッピーさんを、バッシュフルさんも大好きなのです。
がっくんがっくんと首を揺さぶられながらこちらを見たハッピーさんが、悪戯っぽい笑みを浮かべてウィンクしたのは、きっと口にしない方がよろしいのでしょう。
『美味しくなってくださいませ』と、ハッピーさんに教えていただいた魔法の呪文を唱えながら、シチューの鍋をかき混ぜます。
みなさんがお帰りになる頃には、このシチューは特別に美味しく仕上がっていることでしょう。
*ハッピー・・・いつも笑顔で朗らかな空気の男の子。顔立ちは女の子と見紛う程愛くるしいが、にこにこしたままどぎついことも平気でやらかす。善悪の境目が曖昧で、グランビーが強制的な眠りに落とされる八割は彼の仕業だったりする。バッシュフルに懐いている。成人モードでは身長172cmで、ワイヤーソーや暗器を得意とする。
*バッシュフル・・・口は悪いが意外と優しいツンデレな男の子。つり上がり気味な瞳や尖った雰囲気のお陰できつく見えるが、実際はハッピーの行為を止めるストッパー役となってる場合が多い。ナイフや弓などの武器を扱う。成人モードでは175cm。




