あたしと泉のストーカー
「あなたが落としたのは、金色の僕ですか」
「それとも銀色の私でしょうか」
「それとも銅色の俺か?」
「一切合財誰も落としてません」
運悪く蹴飛ばした石ころに反応した泉の精霊達が現れたのを見て、眉間に皺を刻むと心底嫌だと渋面を作る。
気にしたら負けだと商売道具の斧を木に向かって振り続け、無心になるべくリズムよく動いた。
額から労働の証の汗が流れ落ちて目に入るが、それを拭う暇さえ与えない。
ほんの少しの油断がいかなる結果をもたらすか、あたしは誰より身につまされている。
「ねえ、聞いてますか?」
「聞こえて無視しているんですよ、兄さん」
「無駄な抵抗だけど、その無駄な部分が可愛いんだよなー」
暢気な声にいらっときた。
斧の柄を握る手に力がこもり、血管の筋が浮き上がる。
それを見て、落ち着け、落ち着けと心の中で数字を数え始める。
「ほら、見て兄弟。あの脚線美。短いズボンから覗くすらりとした足は本当に美しい」
「それよりも胸ですよ、胸。掌に握りこんでさらに余りそうな大きさに、艶と張り。私の理想です」
「俺は尻がいいと思うけどな。大きくて揉み応え有りそうだし、安産型だ」
ぶちり、と堪忍袋の緒が切れた。
一心不乱に木に向かって叩き付けていた斧を強く握り、右の踵を基点に身体を回転させる。
十分スピードの乗ったところで手を離したそれは、きゅるきゅると回転しながら一直線に飛んでいった。
「失せろ、くされ妖精ども!」
しかし渾身の一撃は、残念ながら泉をアメンボのように移動した妖精どもにするりとかわされる。
『ド畜生!』と女にあるまじき叫びを上げ、地面に倒れ伏すと思い切り拳で叩いた。
この後の展開は良く知っている。
「さあさあ、大義名分が出来ましたよ。お仕事の時間です」
「はい兄さん」
「今日は俺からでもいいか?」
「いや、こういうものは年功序列と決まっている。兄さんからが適役でしょう」
「うん。じゃあ、やるよ」
「くるんじゃない!」
「駄目だよ、僕たちも仕事だから」
にっこりと輝かしい笑顔を浮かべた金髪の美青年は、あたしにむけて指を降ると瞬く間に移動させた。
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか?」
「それともこの銀の斧ですか?」
「それとも、この銅の斧ですか?」
「───っ、何度も言うが、あたしが落としたのは鉄の斧!それ以外はいらない!」
「正直に答えたあなたには金の私、銀の次男、銅の三男、全て差し上げましょう」
「いらないよ!あたしが欲しいのは商売道具で、変態ストーカー野郎じゃない!」
全力の否定は中々伝わらず、泉の上から不思議の力を使い、持ち主を引き寄せる妖精たちに、鳥肌が立つ。
あたしは色々とトラウマがあって美形は嫌いだ。
最近になってそれにストーカーと変態もプラスされた。
抗い難い力で踏ん張っても踏ん張っても縮まる距離に、どうしてこうなったと遠くを見る。
運命のあの日、新しい仕事場として選んだ先で木を切っていたあたしは、運悪く斧を近くの泉に落とした。
商売道具なのにと本気で落ち込んでいたところ、三人の泉の妖精が出てきてあたしに金の斧、銀の斧、銅の斧を見せてどれが持ち物か聞かれ、正直に答えたところ、正直者には自分を差し上げますとにじり寄って来た。
変態の出現に、返してくれるつもりだったらしく現れた仕事用具の鉄の斧だけを手にとって逃げたのだが、何故か翌日もその泉に無意識に足を向けていた。
絶対に近付かないつもりだったのに、どうしてと呆然としていると、蹴った石ころが泉に落ちてそれに反応した昨日の要請三人が現れた。
曰く『一目ぼれしました。婿に貰ってください』とのこと。
絶対に認められるかと拒否したものの、気が付けば身体には呪いが掛かっていてこの泉近辺じゃなければ仕事が出来ないし、更にここに来たら石ころを蹴り飛ばして泉に合図すると言う呪詛もプラスされていた。
最悪だ。
元々美形は嫌いなのに、それに変態とストーカーを合わせればどうすればいいか判らない。
それでも食べていくためには働かないわけには行かず、毎日を色んな意味で必死に生きてる。
「あなたが欲しいのは金の僕ですか?」
「それとも銀の私ですか?」
「それとも銅の俺なのか?」
今日も泉の妖精三兄弟はすこぶるご機嫌でいらっしゃる。
落としてもいないのに勝手に所有物になろうとしている鬱陶しいやからを前に、痛みを訴える頭をどうすればいいのか、深々と眉間に皺を刻んだ。
*あたし・・・森できこりをしている肉体労働少女。実用的な筋肉に、小麦色の肌をした健康的で魅力的な体つきをしている。笑うと可愛いのだが、基本は渋い表情をしている。男世界で生きてきた所為か、結構勝気でずばずばいう性格。最近の悩みはストーカー変態の泉の妖精。
*金色の妖精・・・金髪碧眼の美青年。少し柔らかめな癖毛で、優しげな王子様のイメージ。足フェチで自分好みの脚線美の主人公に一目ぼれ。この泉付近でで仕事をすると言う呪いをさり気無くかけた。イケズな反応もクスクス笑って流すタイプ。
*銀の妖精・・・ストレートの銀髪と切れ長の瞳が冷たく見えるが、兄に負けず劣らずの綺麗系の美青年。ストイックな物腰と違い、胸が大好きで、理想の形と艶と張り、更に大きさを持つ主人公に一目ぼれ。泉に着いたら小石を蹴ると言う呪いを掛けたのは彼。
*銅の妖精・・・活発な性格で銅色の髪を短くした明るい活発系の美青年。彼の好みは尻で大きさ、張りともに理想であり揉み心地良さそうな主人公に一目ぼれ。危険がない限り毎日泉に来る呪いをかけたのは彼。
*幼馴染・・・主人公の幼馴染で村一番の美形で金持ち。貧乏できこり一家をしている主人公を幼い頃から虐め通し、彼女を美形苦手体質にした。しかし本音は子供の頃ありがちな、好きな子ほど苛めたくなると言うあれで、今では関係の修復に悩みながら毎日を過ごすも、長年の習慣がこちらにも身に染み付いていて、ツンデレになっている。




