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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
第四章~新な世界に~

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村の異変

「おお、ばあちゃん。相変わらずいい野菜が揃っているな!」

「やだ。嬉しいこと言ってくれるじゃないの。カイルちゃんには安くしちゃおうかね」

「まじか! いつも世話になるなー」


 村の中心にある屋台で、カイルが野菜売りのおばあさんと歓談していると、近くで騒ぎが起きた。


「お願いです! どうか、この子を——」

「何度も申し上げましたが、私にできることはありません。残念ですが、どうかお引き取りください——」


 騒ぎに気づき、カイルの後ろに立つフードを被った人物が、小声で耳打ちした。


「カイル、あれは——」

「ああ、穏やかじゃないな」


 おばあさんも騒ぎに気づき、そちらへ目を向けた。


「あらやだ。まだ子供が、病気になったのね。お気の毒に」

「ばあちゃん、何か知っているのか?」


 事情を知っていそうなおばあさんに、カイルは尋ねた。


「最近、病気になる子どもが多いのよ。しかも、お医者さんに診てもらっても、何の病気かわからないんだって。こんな小さな村にはお医者さんが一人しかいないから、その人がダメだって言ったら、もうどうすることもできないわ。かわいそうに」


「そうか……それは気の毒だな。他の町や王族に助けを求めないのか?」


「まだ子どもしか病気になっていないから、近くの町も『ただの伝染病だろう』って、まともに取り合ってくれないのよ。ましてや王族なんて、こんな辺境の村に来てくれるわけないわ」


「……そうか」


 カイルは騒ぎの起きている方を見つめた。


「どうしたもんかな」


——————


 作戦会議から一週間が経った。


 デビトさんが何を考えているのかわからないまま、みんなはそれぞれ、自分のできることに励んでいた。


 セロくんは最近、なぜか自分からお父様に剣の稽古をお願いするようになり、お父様もまんざらでもない様子で、セロくんの稽古を見ていた。

 この数日で、お父様は杖なしでも歩けるようになり、たまにセロくんと打ち合っているらしい。

 そしてテオ様も、セロくんとお父様に負けたことが相当悔しかったらしく、時々その打ち合いに混ざっていた。


 ステラとライアンさんは、最近よく二人で部屋に部屋に籠っている。

 一体、何をしているのだろうか。


 そして私とアイセルは、女神像の前のベンチに座り、力を使う練習をしていた。

 アイセル曰く、セレーネ様に見守られているようで、気合いが入るらしい。


 練習といっても、力の応用方法を探ることに近い。

 今は、対象に触れずに力を使えるかどうかを試していた。


「体内にある力を、僕に向かって飛ばすイメージをしてみて」

「……」


 私は体内の力を感じ、それを手元へ集める。

 そして、テオ様が魔力を放出した時の姿を思い浮かべた。

 しかし、どれだけ想像しても、せいぜい手が光るだけで、その光が手から離れることはなかった。


「……ダメみたい」

 顔には出さないようにしたけれど、がっかりした気持ちは声色に表れてしまっていた。


 アイセルは顎に手を当てる。

「触れずに使えたら便利だと思ったんだけどね……この力は飛ばせないのか、それともコツを掴めていないだけなのか」


 実際、戦いになれば、私は四六時中テオ様に触れていることはできない。

 だからこそ、魔法のようにあらかじめ力を付与するか、あるいは触れなくても力を使えるようになった方がいいと考えた。

 でも、現実はそううまくいかないらしい。


「はあ……」

 思わずため息がこぼれた、その時だった。

 聖堂の扉が開く音がした。


 私とアイセルが同時に振り向くと、食材の入った紙袋を抱えたカイルさんと、フードを被ったレオードさんが戻ってきた。


「帰ってきたぜ」

「ただいま!」


 私は立ち上がった。


「どうだった?」

「王城の動きはなし。まだ国王が消えたことも、俺らのことも騒ぎになっていないらしい。まあ、ここは辺境の村だから、まだ情報が届いていないだけかもしれないがな」

「うまそうな肉が買えたぜ! ディアナもたくさん食え!」


 カイルさんが報告している横で、レオードさんは誇らしげに買ってきた食材を戦利品のように掲げた。


 カイルさんは持ち前の社交性を活かし、定期的に村へ出て、食材の調達を兼ねて情報収集をしていた。

 レオードさんは機動力と戦闘力がともに高いため、いざという時の護衛役として同行している。

 もちろん村へ降りる時は、魔法で黒に近い灰色の髪を薄く変え、さらにフードを被っている。

 万が一にも騒ぎにならないように。

 自分である程度魔法が使える点でも、レオードさんは適任だった。


「だが、気になったことが一つあってな——」

 カイルさんは少し迷うように続けた。


「偶然かもしれないが、この村で子どもの間に病気が流行っているらしい。しかも、何の病気なのか医者にもわからないそうだ」

「それは心配ですね……村のお医者さんでも?」

「医者でもわからないらしい。大きな町へ行けば、もっといい医者に診てもらえると思うんだが……」


 カイルさんの言い淀む様子から、この村の人たちはあまり外へ出たがらないことがうかがえた。


 無理もない。

 ここは辺境の村で、町へ出るだけでも数日かかる。

 それに、ここに住む人たちは決して裕福ではない。

 運よく大きな町へ行けたとしても、きちんとした医者に診てもらえるとは限らない。

 村で流行病が発生すれば、それは致命的だ。


(私たちに何かできることはあるかな……)


 残念ながら、ここに医療の知識がある人はいない。

 ステラの聖女の力があれば、どうにかできるかもしれない。

 けれど、その力も今は奪われている。


 (せめて、子供たちの無事を祈ろう)


「ま、とりあえず俺たちはやれることをするだけだ。皇女さん、あんまり抱え込むなよ」

「うん……わかりました」


 カイルさんにさりげなく励まされ、私は気持ちを切り替えて、再び練習に戻ることにした。

 カイルさんが食材を持って台所へ向かうのを見届け、私はアイセルの方へ振り返る。


「アイセル、さっきの続きを——」


「汚い犬が、ぼ・く・のディアナに気安く近づかないでくれないかな」

「お前こそ、ただの使い魔が何を勘違いしているんだ? ディアナはオ・レ・を撫でるのが好きなんだ。つまり、オ・レ・が好きなんだ」

「それは君が狼の姿の時だけでしょう。それなら猫の僕で十分だから、君は自分の主人に撫でてもらえば?」


 いつの間にか、二人はまた言い争いを始めていた。

 いつものこととはいえ、どうして顔を合わせるたびに喧嘩になるのか、私にはわからない。

 でも最近は、その止め方が少しわかってきた。


「二人とも」

 私の呼びかけに、二人は同時にこちらを向く。


 私はわざと頬を膨らませ、拗ねたような表情を作った。

「これ以上喧嘩をしたら、しばらく口を聞きませんよ」


 二人はぴたりと口を閉ざし、慌てて何度も頷いた。

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