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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
第四章~新な世界に~

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信仰とは

時間はSSの前に遡ります

 バルドの救出、そして王城奪還に向けて、私たちは作戦を考えた。


「まず前提として、今の我々では、神相手に手も足も出ません。はっきり言って、雑魚です」

 デビトさんは、ズバリと言い放った。


 その言葉を聞いて、テオ様は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 相当悔しかったらしい。


「特に我々魔族は、あの神の鎖に巻きつかれれば、魔法を封じられ、身動きが取れなくなります。そうなれば詰みです」


 しかし、アステリアと直接対峙していなかったにもかかわらず、デビトさんはあの短い時間の中で、客観的に実力差を分析していた。

 さすがとしか言いようがない。


「よって、我々にできることはただ一つ——実力差を縮めることです」


 デビトさんの案に、まずカイルさんが手を挙げた。

「だけどよ、どうやって縮めるんだ? お前ら魔族ですら敵わないっていうなら、俺ら人間が敵うはずねぇし」

「そうでもありませんよ。今ある情報からすると、あの神が使えるのは、魔法を封じ込める鎖、人間の洗脳、空間移動……そして推測ですが、その神の力は、人間には害を及ぼせない可能性があります」


 デビトさんは、部屋の隅に座っているお父様へ一瞬視線を向けた。

 手当てをしていたカイルさんとライアンさんの報告によると、お父様の傷は驚くほど早く塞がったらしい。ただし痛みは残っているため、傷に負荷をかけないよう杖をついて移動している。

 剣に貫かれた人間が、一日でほぼ回復するなど、どう考えても異常だ。

 だからこそ、その原因はアステリアの力にあると考えられた。


「しかし、あちらの方が手駒が多いのは事実です。いざ我々が封じられてしまえば、人間だけで太刀打ちすることはできません。そこで——」

 

 デビトさんは私の背後へ回り、私の両肩に手を置いた。

 思わず、体が固まる。


「我々も、神を仲間につけるべきかと」


 私は、その言葉を頭の中で反芻した。

(神を仲間につける……セレーネ様のことを言っているのだわ)


 しかし、セレーネ様はアイセルの話によると、ひどく弱っている。

 残された言葉は、「祈って」の一言だけだった。


「いつまで手を置いている」

 隣でテオ様が、不機嫌そうにデビトさんの手を払いのけた。


「やれやれ。やはり心が狭いですね」

「うるせぇ。さっさと進めろ」


 デビトさんは肩をすくめながら、元の位置へ戻った。


 私は思ったことを口にする。

「だけど、セレーネ様は弱っています。祈りを捧げれば力を取り戻せると言われましたが、どれほど時間がかかるのか……」


 私はアイセルへ視線を向けた。

「神の力は、祈りの量と質に比例する。心から神を信仰し、祈れば強い力になる。でも、一人や二人の祈りじゃ、どれだけ質が良くても百年かかっても足りないよ」


 アイセルは、暗に他の人にも心から祈ってほしいと訴えているようだった。

 しかし、デビトさんの狙いは別のところにあった。


「それは、向こうの神にも言えることです。彼女が強いのは、国中に信者がいるから。つまり我々は、信者を増やしつつ、あちらの信者を減らせばいい」


 その瞬間、テオ様とレオードさんも、不敵な笑みを浮かべた。

「……なるほどな」

「面白そうじゃねぇか」


 私を含め、人間陣は困惑していた。

「何? どういうこと?」

「そなたら、まさか——」

 お父様だけは、なぜか顔を青ざめさせていた。


 デビトさんは、口角を高く吊り上げる。

「——あの神の信者を、奪ってしまいましょう」


 その笑みは、まさに悪魔の笑みだった。

 あまりにも妖しく、恍惚としたその笑みに、背筋がぞくりと震える。


 お父様はテーブルを力強く叩いた。

「できるわけない! この国の民は、誰もが星を深く信仰し、心から神を信じているのだぞ!」

 彼は憤慨し、あり得ないと言わんばかりに言い放った。


 しかし、デビトさんの笑みは深まるばかりだった。


「本当にそうでしょうか?」

「……何が言いたい?」


 問い返されたお父様は、わずかに狼狽えたようだった。


 デビトさんはすぐには答えず、ステラたちへ視線を向ける。


「では、ここにいる人間たちに聞いてみましょう。まずはライアン。正直にお答えください。あなたは以前、神をどう考えていましたか?」


 名指しされたライアンさんは、一瞬目を見開いたが、ためらいながら答えた。

「……研究者は、実験で証明された事象以外……いえ、証明されていたとしても、すべてを疑います。神も例外ではありません」


 満足そうに頷いたデビトさんは、今度はカイルさんを見る。

「カイル、あなたはどうですか?」


 カイルさんは少し間を置いてから答えた。

「正直、習わしで祈る時間以外、神のことを考えることはほとんどない。本当に信じているのかと聞かれると……はっきり『はい』とは言えねぇな」

「結構です。ありがとうございます」


 最後に、デビトさんはステラへ視線を向けた。

「聖女であるあなたはどうですか? 神を疑ったことは、一度もありませんでしたか?」


 ステラは緊張したように身構え、恐る恐る口を開く。

「私は聖女だから、誰よりも真摯に神を信じてきた……と思う。でも——」

 一瞬、彼女は私と目が合った。

「ディアナが酷い目に遭うたび、私は思ってしまうの……神は、何もしてくれないって」


 言い終えたステラは、後ろめたそうに俯いた。

 まるで、神を信じ切れない自分を責めているようだった。


(ステラ……)


 誰よりも神を身近に感じているステラでさえ、神を疑ってしまう。

 そして、その原因は私にある。

 心の奥から、申し訳なさが込み上げた。


 デビトさんはその答えを聞き、お父様を見る。

「これを聞いても、国民全員が神を心から信じていると言えますか?」

「……ここには三人しかいない。何とも言えんな」

「そうですか」

 お父様の煮え切らない態度に、デビトさんは機嫌を損ねることなく、むしろ愉快そうに微笑んだ。


「では、この私が断言し、証明して差し上げましょう。人間の信仰が、どれほど脆く、崩れやすいものなのかを」


 そう言い放つデビトさんは、これまで見たことがないほど楽しそうだった。

 私は呆然とその姿を見つめていると、テオ様は呆れたようにため息をついた。


「悪い癖が出ているぞ。で? どうやって証明するんだ?」

 デビトさんは笑みを少し抑え、一つ咳払いをした。


「失礼しました。少々興奮しすぎてしまいましたね。……そうですね。少し仕掛けをしますので、しばらくお待ちいただけますか?」

 普段通りの穏やかな笑顔に戻ったものの、その瞳だけは隠し切れないほど楽しそうに輝いていた。


「さてさて、久々に楽しめそうです」

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