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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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SS 大掃除

 ディアナとアイセルは、女神像の前に跪き、祈っていた。

 少しでも、セレーネ様の力を取り戻せるように。


 (どうか、バルドが無事でありますように)

 ディアナは、こう願った。


「くううう〜、いい汗をかいたなー」

「おお!やっぱカイルとのやり合いはそこそこ楽しいな!」

「いうんじゃねえか。魔族様には及ばねえが、俺もレオードにそこそこ鍛えられているぜ」


 静かな祈りの時間を、無粋にも割って入ったのは、外で鍛錬していたレオードとカイルだった。

 その声を聞いて、ディアナはすぐ立ち上がった。


「お2人とも、お疲れ様です。飲み物でも持って来ましょうか?」

「いいよ。自分で取りに行くから、皇女さんは祈りを続けな」

「それよりディアナ、外は小雨が降っていたから、体は濡れているんだ。乾かしてくれないか?」


 レオードは甘えるように屈み、少し濡れた髪をディアナに見せる。

「大変!すぐタオルを——」

「何ということだ!」


 ディアナの声を遮り、アイセルは険しくレオードとカイルを睨んでいた。


「何という不敬極まりない!汚れた靴と装いで、神聖なる祈りの場を汚すなんて!」

 アイセルは珍しく、鬼気迫る形相をしていた。

 相当怒っているようだ。


 彼は、レオードの方に迫った。

「なっ、なんだ——」

「君、今来た道をみなさい」

 言われた通り2人が踏んだ道を見ると、そこには濡れた泥がついた、黒い足跡がはっきりとついていた。


 カイルはそれを見て、少しばつが悪そうにするが、レオードは意味わからない様子で首を傾げた。

「それがどうした?雨が降ったからそうなるに決まっているだろう」

「どうしたではない!セレーネ様の聖なる聖堂に、このような汚れは許さない!」


 アイセルの怒鳴りはそう簡単には終わりそうになく、ディアナは隣で右往左往していた。

「ア、アイセル、そのくらいで——」

「そもそも君たち、セレーネ様への敬意が足りない!祈りも適当に済ましていた。もっとディアナのように誠心誠意祈るべき——」


 激怒するアイセルは、今までの不満を次々と引き出した。

 その怒鳴りを聞いて、奥から人が出て来た。


「どうしたのですか?声が奥まで届きましたか?」

 デビトとセロは、手に数冊の本を持ちながら、聖堂の様子を伺った。

 そしてステラとライアンも、ぞろぞろと出てきた。


 ディアナは彼らに、駆け寄った。

「あの、実は——」

 ディアナは、経緯を簡潔に説明した。


 デビトは汚された床の様子と、不服そうに頬を膨らませるレオード、隣で申し訳そうに苦笑いしているカイルを順に眺めた。


「なるほど、把握しました。丁度いい機会です」

 デビトは魔法を使い、聖堂の片隅に置かれていた数本の箒を引き寄せ、レオードとカイルの前に移動した。


「ここで一度、大掃除をしましょうか」


 全員がデビトの呼びかけにより、祈り場に集められた。

 セロは急ぎ持っていた本を図書室に戻し、他の掃除道具を持って来た。


「ここでしばらく滞在する以上、生活に必要な場所だけは整えましたが、そろそろこの聖堂全体をきれいにすべきだと思います」

「その通り!」

 デビトの言葉に同調するように、アイセルは腰に手を当て、仁王立ちする。


 アイセルは純粋に聖堂をきれいにしたいと考えているようだが、デビトは何やら意味深な笑みを浮かべている。


 その意味深な笑みに気づいたテオは、早速彼に問いかけた。

「デビト、お前は何を企んでいる」

「さあ、何のことでしょうか?私はただ、お掃除をしようとしただけですよ」


 デビトのあからさまな誤魔化しに、テオの疑念はますます深まった。

 しかしテオが追及を続けようとしたところを止めたのは、他でもないディアナだった。


「やりましょう!私も頑張ります!」

 ディアナの一声に、さっきまで不満そうだったテオとレオードはすぐ表情を変えた。

「危険なことはするなよ。俺に言え」

「ディアナがそういうなら、俺もやる!」


 その変わり身の早さに呆れつつ、人間陣もやる気を出していた。

「私も頑張る!」

「おお。この人数ならすぐ終わるだろう」

「ふむ。これも魔族を観察するチャンスだね」


 なお、ダーウィンは怪我人のため、自室で待機することになった。


 全員やる気を示したところで、大掃除するための役割分担が行われた。


 部屋掃除:ステラ、セロ、ライアン

 廊下掃除:レオード、カイル

 棚整理:デビト、テオ

 祈り場(女神像):ディアナ、アイセル


「なんだ、この担当分けは!ディアナが女神像担当なのはともかく、なぜ俺は同じ担当じゃない!」

 テオはいかにも納得していないかのように、アイセルを詰める。

 しかしアイセルは怯まなかった。

 それどころか、いかにも当然だと言わんばかりに、顔が引き締まっていた。


「セレーネ様を讃える像に触れていいのは僕とディアナだけ。そこは譲らない」

「知るか!俺は——」

「テオ様!私、頑張りますので、心配しないでください!」

「くっ……」


 まだまだ不満そうなテオだが、ディアナにやる気と期待に満ちた表情を向けられ、何も言えなくなった。


 テオは、渋々と振り分けられた役割を果たすことにした。


 全員がそれぞれ振り分けられた作業を始めた。


 ディアナは雑巾を水に浸し、それを力強く絞る。

 そしてそれを手に、女神像を見上げる。


 その像はとても高く、ディアナの身長の二倍くらいあった。

「これをどうすれば——」

「ディアナは低いところを拭いて。高いところは僕が拭くから」


 同じく雑巾を手にしているアイセルは、もう片手にハシゴを持っていた。

「そのハシゴ、どうしたの?」

「そこらへんにおいてあったよ」


 アイセルはハシゴを立て、俊敏に登り、あっという間に女神像の頭に手が届く位置に着いた。

 アイセルは、慎重に像に雑巾を当て、埃を払っていく。

 (私も手の届く範囲で頑張ろう!)

 力をくれたセレーネに感謝の意を込めつつ、ディアナは像を拭き始めた。


 一時間ほど経ち、ディアナとアイセルはすんなり、女神像の拭き掃除を終えた。

 石で造られた像が、何気にピカピカして見えた。


「早く終わったけど、アイセルはどうするの?」

「僕はここのベンチも拭いておくよ。ディアナは他のところ、見に行きたいでしょう?」


 さすがアイセルである。像を拭き終わった途端、他の場所が気になってうずうずしているディアナに気づいている様子だった。


「手伝わなくていいの?」

「いいよ。すぐ終わらせて、像を眺めているね」


 アイセルの言葉に甘え、ディアナは聖堂の奥へ進んだ。

 廊下に入り、まず目に入ったのは、ピカピカと磨き上げられた窓だった。

「すごい……跡一つ残っていない」


 廊下に沿って進むと、バタバタと走る音が聞こえた。

「オラオラオラオラ!」

 レオードは走りながら、床の雑巾掛けをしていた。

 それをものすごい速さで、何回も往復していた。


 そして壁際には、壁を拭いているカイルがいた。

「おお、皇女さん。そっちは終わったか?」

「はい。なので、何か手伝えることがあればと……ここの窓はカイルさんが拭いたんですか」

「そうだ。よく磨いているだろう」

 カイルは自慢気に歯を出して笑う。


「さすがです!カイルさんはなんでもできるのですね!」

「よせ、照れるんじゃねぇか」

 心の中で、カイルへの尊敬度が上がり続けるディアナであった。


「ここは力仕事が多いから、俺らに任せて皇女さんは他のどこをあたりな」


 カイルに言われ、ディアナは奥にある倉庫に入った。

 そこではデビトとテオが魔法を使って、置かれた物の仕分けをしていた。

 色んなものが宙に浮かぶ光景はなかなか圧巻だ。


 「おや、ディアナ様。そちらの作業はお済みですか?」

 「はい……何か手伝えることはありますか?」

 「大丈夫ですよ。魔法で効率よく片付け——」


 デビトが笑顔で断りを入れようとする時、背後から誰かがディアナに抱き着いた。

 「ひゃっ!」

 「……疲れた、だるい、癒せ」

 テオは頭をディアナの肩に当て、クリクリと甘えてきた。

 

 「えっ!?」

 恥ずかしさと困惑が一気に押し寄せてきて、ディアナはあたふたしていた。


 「やれやれ。少し働いただけでこのざまですか?魔王の名が聞いて呆れますね」

 「うっせ。お前散々こき使いやがって。繊細な魔力操作ができないってお前が一番知ってんだろ」

 「ええ。これを機に鍛えて差し上げていますので、大人しく言う通りにしなさい」


 そう言って、デビトは無情にテオをディアナから引き離した。

 ディアナは密かに思った。

(多分、テオ様に強く出られるのは世界中探してもデビトさんだけね)


 「こういうことで、これは魔王様の鍛錬も兼ねているので、ディアナ様は遠慮なく他の者を手伝ってあげてください」

 黒い笑顔を浮かべながら手を振るデビトと、明らかに不機嫌なオーラを漂わせるテオを背に、ディアナは倉庫から出た。


 そして最後にたどり着いたのは——混沌と化した部屋だった。


 二つのベッドが中央に並べられ、その向かいに物置棚が置かれ、救急道具や置物などが並べられている、普通の寝室だったはずなのだ。

 しかし今では床に物が溢れ、シーツが乱れ、カーテンがなぜか外れ、備え付けのテーブルや椅子は横に転がっていた。

 

 ディアナは部屋の前で、呆然で立ち尽くしていた。

 「これは……」


 「ディアナ、助けて~~」

 中から涙目のステラが出てきて、ディアナに助けを乞うように抱き着いた。

 セロはなぜかテーブルを盾にするように、その後ろに隠れていた。


 そしてその中央に堂々と立っていたのか、ライアンだった。

 「あれー、おかしいな……これはシーツを綺麗にする魔法なのにな……なぜ逆に黒ずんでしまったんだ?」

 彼は悠々と手を顎に当てながら、目の前にある黒ずんでいるシーツを眺めている。

 一体何をどうしたらこうなるのだろうかと、思わずにはいられなかった。


 「ライアン様、もうおやめください!僕たちが片づけますので、それ以上魔法はー」

 「大丈夫さ。さっきは少し失敗しただけ。魔法を使った方が効率がいいはずなんだ。今度こそ——」

 

 ライアンが魔法を使おうと再び手を上げる瞬間、ステラは駆け出し、腕を掴んだ。

 「もういいから!ライアンさんは何もしないでー!」


 察するに、ライアンは魔法で作業を効率化したいところ、失敗続きで逆に部屋を見るも無惨な有様にさせてしまったようだ。

 「ウェインがいない今、家事に使う魔法を検証するいい機会なんだ!止めないでおくれ」

 「もういいから!」


 セロは申し訳なさそうに、ディアナの前で俯いた。

 「見苦しいものをお見せして申し訳ありません。他の部屋は僕と聖女が片づけましたが、この部屋だけはライアンさんがどうしてもと……」

 言いよどむ彼を見て、ディアナは思わず同情してしまう。

 

 「……私も手伝います。セロくんはライアンさんを抑えててくれますか?」

 「承知いたしました」

 セロは言われた通りになんとかライアンを部屋から引っ張り出し、ディアナとステラは素早く部屋の片づけを行った。


 (魔法で家事するのは難しいのね……だからテオ様があんなに疲れたのかな)

 ディアナは改めて、魔法を使いこなしていたテオとデビトの凄さを改めて実感した。


 そして肝に銘じた——ライアンに家事をさせてはいかないと。

魔法研究者筆頭であるライアンは、その弟子兼助手である10代少年ウェインによって、家事全般を禁じられているのだ

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