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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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SS セロの受難

 セロは今、非常に困った状況に陥っている。


「おい、軟弱者!今日こそ俺とやり合おうぜ!」

「いやです。お断りします。近づかないでください」


「少年、吾と剣技を磨かないか?」

「遠慮いたします」


「……召使い、ディアナはやらんぞ」

「ディアナ様のお相手なんて、僕にはおこがましいです」


 そう。

 セロくんの身体能力の高さが知れ渡った日から、レオードとダーウィンに絡まれ、テオに敵視され、睨まれるようになったのだ。

 そのせいでセロは、心が休まらない時間が続いている。


「モテモテですね、セロ」

「からかうのはおやめください、デビト様」


 セロはデビトと2人で、図書室で作戦に使えそうな書物を探している。

 セロは深々と、ため息を吐く。

 (僕はただ、言われた通り剣を振るっただけなのに)

 そもそもセロは、剣や武器を扱う機会はあまりなかった。

 しかし戦いの中で矛や剣を手に取ると、体は反射的に動いたのだ。

 これがいわゆる、才能というものかもしれない。


「僕は剣より、絵を描きたいけどな」

 セロは小さく呟いた。


 しかしこの古びた聖堂に絵をかける道具があるわけもなかった。

 いっそ一度魔王城に戻り、道具を持ち出したいと思うけど、セロに大掛かりの魔法は使えず、テオやデビトにお願いできるほど厚かましくもない。

 そのせいで、ストレスだけが溜まっていった。


「はあ……」

「そんなにいやでしたら、一度付き合ってあげたらどうですか?案外、すんなり満足されるかもしれませんよ」

 デビトさんは手にした本をパラパラとめくりながら、他人事のように提案する。


 それに対し、セロは半信半疑だった。

「そうですかね……レオード様はしつこく付き纏いそうですが」

「確かに、あの犬は諦めが悪いですからね」

 

 そんな時、外から足音が響いた。

 たった今噂に上がったレオードかもしれないと思い、セロは身構える。


 やがて図書室の前に足音が止まり、扉が開かれた。

 そこにいたのは、ダーウィンの方だった。

 未だ傷が完治しておらず、彼は杖で体を支えながら、1人で行動していた。


「っ!」

 反射的に、セロはデビトの背に隠れた。


「セロ少年はいるか?」

「どうなさいましたか?」


 デビトはセロに盾代わりにされたことを、機嫌を損ねることはなく、逆にどこか楽しんでいるようにニヤニヤしていた。


「今度こそ、少年の剣術を見たいと思ってな」

「左様ですか。うちのセロを気に入ってくれて嬉しい限りです」

「ああ。まさか魔族の中で、あのような素質を持つ者に出会えるとは。ぜひこの目で、剣術の頂を見届けたい」


 ダーウィンは目をキラキラさせながら、熱く語った。

 それを聞いて、デビトはさらに意味深な笑顔を浮かべた。

 

 彼は、後ろに隠れているセロの襟を掴み、前へ押し出した。

 「——えっ」

 「ここは手が足りているので、どうぞ好きなだけこき使ってあげてください」

 「かたじけない」


 生き生きとしているダーウィンとは対照的に、あっさり売られてしまったセロは、呆気に取られていた。

 そしたら、デビトが耳打ちしてきた。

 

 「一回付き合ってあげたら引いてくれると思いますよ。適当に合わせつつ、ディアナ様の父君を探っておいてくださいね」


 セロに返事する隙も与えず、デビトは彼の背を推し、セロの肩はダーウィンに掴まれた。

 「では、行こう!」

 「~~~!」

 セロは愉快な笑みを浮かべるデビトを見つめながら、ダーウィンに引っ張られ、声にならない悲鳴が脳内に響いた。

 

(デビト様、絶対面白がっているだけでしょう!!!)

 ダーウィンの探りなどともっともらしい理由を口にしながらも、デビトの笑みがすべてを語っていた。

 セロは常々思っていた——デビトはディアナ以外の者にはすこぶる腹黒いのだと。


 聖堂の外に連れ出されたセロは、ダーウィンの剣を持たされた。

 「あの……この剣、僕が持ってもいいでしょうか……」

 「遠慮するな。才ある者に使われ、その剣も喜ぶはずだ」

 ダーウィンは勝手に納得したかのようにうんうんと頷いている。

 その横目で、セロは密かに思っていた。

(今あの神の力は宿っていないようだけど……突然何かのビームが出ることはないよね)


 何気に切られた時の事を気にしていたのである。


 (痛いのは嫌だな……ディアナ様の手も煩わせたくないし)

 「では、早速振ってみろ」


 ダーウィンに促され、セロは適当にそれらしく振ってみせた。

 「こう……でしょうか」

 剣が真っ直ぐ振り下ろされ、風を切る声が響いた。


 「うむ。やはりそなたは才あるな。素人にもかかわらず、力の入れ方も姿勢もよく出来ている。何か格闘技でも習っていたではないか?」

 「いえ、魔族に人間の生み出した格闘技は必要ないので……」


 魔族は格闘技を習わなくても、人間を遥かに超える力を出せる。体がそう作られているのだ。

 何なら、相手を殴る前に、魔法を使えば事足りる。

 獲物を痛めつけたくて、わざと暴力を振るう魔族も少なくないが、そこに技術は必要ない。


 「そうか……ならやはりこれは才能なのだな」

 「は……」

 実はセロには、自分の身体能力の高さに心当たりがあるのだ。

(ディアナ様にもまだ明かしていないけど……)


 セロは密かに、遠い過去に思いをはせる。

 あの、忘れてしまいたい過去を。


 「しかし、そなたの剣から、強くなろうとする意志を感じないな」

 ダーウィンは不可解と言わんばかり、手を顎に当てる。


 「理解できないな。そんなに才があるというのに、なぜ強くなろうとしない?そなたなら、その身体能力で他の魔族に勝ることもできたというのに」

 あの魔王との勝負を言っているのだろうと、セロは思った。

 そして、それは人間の考えだとも、思った。

 

 「体が強くとも、魔法をろくに使えないようであれば、格上な魔族の前では赤子同然です」

 もしあの手合わせで、魔法の使用が封じられていなければ、セロは一秒経たずに、テオの魔法によって粉々にされていたのだろう。

 テオだけではなく、デビトも……多分レオードやアイセルにもすぐ殺されてしまう。

 それほど、セロと他の魔族との力の差は歴然なのだ。


 「そうか……魔族の世界は一筋縄ではいかぬのだな」

 セロの表情から何かを察したのか、ダーウィンはそれ以上追求しなかった。

 しかし、次の言葉に、セロはギョッと動きを止めた。

 

 「しかし、今は違うであろう?」

 「……どういう意味でしょうか?」

 「そなたの力は魔族に通用しなくても、アステリア様には通用する。そなたら魔族はあの忌子を大切にしているのであろう?そなたの力なら、他の魔族より忌子を守れるのではないか?」

 「ディアナ様、を……」


 セロは自分の手を見つめ出した。

(確かに……あの神の鎖は魔族の魔力を封じるものだった。でも魔力の少ない僕には、あんまり関係なかった)

 その時、確かにセロも鎖に巻きつかれていたけど、あくまで動きが一時封じられただけで、時間をかければセロは容易く抜けられたのだろう。


 「あなたの言う通りかもしれません……しかし、なぜこれを僕に?」

 まるで、アステリアを倒すヒントを与えているかのような行動。


 セロは、そしてデビトは、この人間の王をどう扱うべきか測りかねていた。

 彼の目的は魔族たちと同じか、それともディアナに仇なす存在か、彼をこのまま放っておいてもいいのか。

 だから、デビトはセロに探れと命令したのかもしれない。


 ダーウィンはしばらく考えた。

 「そうだな……そなたらが警戒しているのは、吾があの忌子に何かをするではないかということだろう?」

 あまりにも的を射っている言葉に、セロは深く息を吸い込む。

 「心配するな。吾は魔族に守られているあいつを堂々と襲うほど、考えなしではない。そなたの力を育てようとした理由は……そうだな、保険だと言っておこう」

 「保険?」


 セロは戸惑いながら、ダーウィンの言葉を繰り返す。

 「そうだ。アステリア様がバルドを使って吾を刺したということは、俺はもう用済みなのであろう。しかしこの国には、まだ統べる者が必要だ」

 

 ダーウィンの目の奥に、強くて固い意志が宿った。

 「アステリア様の目的がわからない今、もし彼女がこの国に害を及ぼす存在であれば、吾は王として、責任を負わないとならない……例え、神殺しをすることになっても」


 セロは理解した、この人間は魔族と違って、未来のことを考えて行動している。

 そして理想のために、セロを、魔族を利用しようとしている。


 「そういうことでしたか」

 セロは納得したように呟く。

「そなたのような原石を逃したくないという個人的な考えも入っているがな。どうだ?真面目に訓練する気になったか?」

「……考えておきます」


 いまいち決めかねているセロに対し、「よく考えるといい」とダーウィンは快く見送った。


 図書室に戻る道筋の中、セロはさっきの問いかけを脳に巡らせていた。

 (今まで、ディアナ様を守る役目は僕にはないと思っていた……人間相手ならまだしも、魔族相手だと、僕は何の力にもならない……だけどもし、僕にしかできないことがあれば——)


 ぐるぐると思い詰めていると、前からセロに向かって走って来た人の姿があった。

「セロくん!見てください、さっき図書室でデビトさんから画集をもらいました!セロくんのご褒美にって——」


 ディアナの笑顔は、セロの中で光り輝いていた。

 胸の奥がじんわりと温かくなる。


 (あなたに手を握られ、僕の絵が好きだと、あなたが心からの笑顔を向けてくれたあの日から……僕の世界は色付き始めたんだ)


 セロは思わず、その光に触れるように、ディアナの頬へそっと手を伸ばした。

 頬に手を添えられたディアナは、戸惑いながら、首を傾げた。


「セロくん?」

「……」


 セロは眩しいものを見たかのように目を細める。

 (僕はもう、この光なしでは生きられない。この光を守るためならば、僕は——)

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