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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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私たちの答え

 テオ様とセロくんの勝負は、10分も経たずに終わった。

 結果は圧勝だった。


 最初こそお互いに拮抗しながら、テオ様が激しく打ち込み、セロくんがそれを受け止めるように剣を交えていたけど、数分もすると力の差が現れ始めた。


 やがて、力強すぎる一撃に耐えきれず、剣が弾き飛ばされてしまった。

 

 勝者は——セロくんだった。


「えーと……これでいいでしょうか……」

「くそっ!この俺が負けるなど!」


 セロくんは戸惑いながら立ち尽くしていた。

 それとは対照的に、テオ様は悔しそうに壁に拳を叩きつけていた。

 それだけで、聖堂全体が揺れた気がする。


 この結果を見て、誰もが一瞬呆然としていた。

 やがて我に返ったように、それぞれが反応を見せた。


「おお!すげぇじゃないか、軟弱者!このまま俺ともやろうぜ!」

「えっ、いやです。抱きついて来ないでください」

「まあ、いい暇つぶしにはなったね」


「なかなかいい勝負を見せてもらった!見てるこっちもやりたくなったわ」

「確かに見応えはありましたね。魔法なしの魔族の身体能力も観察できて、僕としてもとても有意義な時間でした」

「この吾の思った通りだな。この少年には才がある。より良い訓練を受ければ、きっと最強な剣士に——」

「えっ、えっ、どういうこと!?セロくん、そんなに強かったの!?」


 勝負に興奮していた者たちとは対照的に、ステラはあからさまに驚いていた。

 かくいう私も、かなり驚かされていた。

 (セロくん、強いとは思ったけど……魔族の中でも強かったのね)


 ここでデビトさんは手を合わせ、大きな声を上げた。

「お二方は満足しましたか?もういいですね?」

 デビトさんは、テオ様とお父様を交互に見やる。


「ああ、吾は満足だ。忌子よ、見たか!男を選ぶなら、こういう実力があって一途な男を選ぶべきだ」

「いや、俺は納得していない!ディアナをいかなる場合でも1番守れるのは俺だ!」


 満足げに頷いているお父様を横目に、テオ様はひどく悔しがっていた。

 私は二人の間に挟まれ、どう反応すればいいのかわからずにいた。

 多分私と同じ気持ちなのだろう、セロくんも恐る恐るデビトさんに話しかけた。


「あの……結局僕は、なぜ呼ばれたのでしょうか?」

「ああ、説明していませんでしたね。魔王様がディアナ様と恋仲ということが、ディアナ様の父君に知られまして、誰か1番ディアナ様に相応しいかで、口論になったのです」


 デビトさんの説明に、セロくんの目は真ん丸になった。

「1番相応しい?……魔王様以外に候補がいるんですか?」

「ええ、ディアナ様の父君は、君を推していましたよ」


 数秒の沈黙が流れた。

 そしてセロくんの顔は、一気に青ざめた。

「——僕が!?」

「おめでとうございます、セロ。見事に自分の価値を証明できましたね」

「いやいや、僕なんて、おこがましい——」

「謙遜することはない、少年!そなたはもっと貪欲になるべきだ。それに見合う実力を持っているのだから」

「だから僕は——」


 ドン!

 デビトさんとセロくん、お父様の言い争いに割り込むように、テオ様がもう一度壁へ拳を叩きつけた。

 今度は本当に、壁にひびが入った気がした。


「……俺が負けたのは、魔法が使えなかったからだ。魔法も使えれば、俺が1番ディアナを守れる」

 テオ様は恐ろしく不機嫌そうで、その声は獣のように低く唸っていた。

 しかし、お父様は怯まなかった。

「強がることはない。アステリア様に拘束された時、貴様はこの吾に手も足も出なかったのであろう」

「それは——」


 2人が再び口論を始めようとしていた。

 それを止めようと、私は慌てて前に出た。

「テオ様、お父様、もうこれ以上は——」

「あのさ、一言いい?」


 私とほぼ同時に、ステラも割り込んで来た。

 全員の視線が彼女へ向く。


「どうした、ステラ。そなたもわかるだろう、この無駄に圧迫感を漂わせる魔族より、実力のある少年がいいと」

「それについては、私も結構共感しているけどさ」

「そうだろう」


 お父様がドヤ顔を見せる。

 しかしステラは、感情のこもらない眼差しを向けた。

「ディアナに酷い扱いしてきたお父様に、とやかく言う資格なくない?」






 

 

 ステラに論破され、放心状態のお父様を引き連れて、私たちは全員食堂へ戻った。


「さて、さっきは茶番を挟んでしまいましたが、魔王様と国王様も目覚めたことですし、今後について話し合いましょう」


 テオ様をはじめ、私たち魔族はテーブルの片側に並んで座り、反対側にはお父様たちとステラたちが座っていた。

 お父様は未だに呆然としており、虚ろな目で何もない空間を見つめている。


 そしてデビトさんは、全員を見渡せるテーブルの端に立っていた。

「まず、魔族側の考えですが、我々は——」

「待て」


 デビトさんが例の件を話そうとした時、テオ様がそれを遮った。

「デビト、お前の考えはわかるが、俺は魔王城へ戻るつもりはない」

「……その理由を聞いても?」


 デビトさんはため息をつきながら、テオ様の話に耳を傾ける。

「気に入らないからだ。あのむかつく神に二度も魔法を封じられた挙げ句、そこの傀儡に刺されたからな。仕返しするまでは戻るつもりはない」

 それを聞き、デビトさんはさらに深いため息をついた。


「……あなたの仕返しのために、我々全員が協力しろと?」

「俺だけじゃない。ディアナも同じことを思っている」

「へぇ!?」

 突然話を振られ、私は大袈裟に肩を震わせてしまった。


 全員の視線が私に集中し、緊張が募る。

「それは本当ですか? ディアナ様」

「えーと……」


 デビトさんの珍しく鋭い視線に、思わず尻込みしてしまう。

「わ、私は……」

 言い淀んだその時、膝の上に置いていた手に温もりが重なった。


 テオ様が私の手を握ってくれていた。

「……」

 その赤い瞳に見つめられ、私は勇気を振り絞って口を開く。


「私はこのまま……バルドを見捨てたまま……ステラの力が取り上げられたまま、帰りたくありません」

 何とか最後まで自分の考えを伝え、私は皆の反応が恐ろしくて俯いた。

 しばらくして、隣からレオードさんとアイセルさんの声が聞こえた。


「ディアナがいたいなら、俺は構わないぜ。正直、昨日は暴れ足りなかったしな」

「そうだね。この機会に、セレーネ様の力をもっと取り戻してみてもいいかもしれない」


 2人の肯定的な言葉に、心の奥から嬉しさが込み上げる。

 さらに、後ろに控えていたセロくんも私の視界に入るように身を乗り出し、微笑んだ。


「ディアナ様の希望であれば、僕も力を尽くします」

「みんな……ありがとうございます」

 感激のあまり、感謝の言葉が自然と口をついて出た。


 そして最後に、私はデビトさんへ視線を向けた。

 彼は難しい顔をしていた。

「……私は反対です。自らわざわざ面倒事に飛び込む必要など——」

「うるせぇ。お前はあの神に何もされてねぇからそんなことが言えるんだ。一回刺されてみれば、俺たちの気持ちもわかるだろ」


「何なら俺が刺してやろうか」

 テオ様はそう言いながら、剣を抜こうとする。

「ほう。やれるものならやってみなさい。魔法なしの手合わせでしたら、私にも勝機が——」


 なぜか拳を握り、挑発に乗ろうとするデビトさん。

 私は慌てて2人を止めようとした。

「待ってください! そこまでしなくても——」


「ああ、盛り上がっているところ悪いが、いいか?」

 そこでカイルさんが手を挙げた。


 2人は動きを止める。


「実はこの件、お前さんたちにとっても完全に無関係というわけにはいかなさそうなんだ」

 カイルさんは陛下の後ろへ回り、遠慮がちに肩を叩いた。

 そこでようやく、お父様の目に焦点が戻った。


「陛下、例の話を」

「……そうだったな」


 お父様は一つ咳払いをすると、重々しい声で言った。

「実は、アステリア様は魔族に対して何かを企んでいるようなのだ」

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