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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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留まる理由

セロくんの後を追い、私は魔族たちが使っている部屋にたどり着いた。

 中ではベッドが二つ並べられていて、レオードとアイセルはそれぞれ座っていた。

 デビトさんは、1番奥の壁際に寄りかかりながら、私を待っていたようだ。


「ようこそ、ディアナ様。どうぞ好きなところにお掛けください」

 私はざっと室内を見回す。

 座れるところといえば、並べられた2つのベッドと、向かいに置かれていたソファくらいだ。

 

 私は反射的に、誰も座っていないソファに向かった。

 そしたら、アイセルが私の手を掴んだ。

「ディアナ、一緒に座ろうよ」

「離せ、アホ猫!ディアナは俺と座るんだろう」

 反対側はレオードに掴まれた。


 間に挟まれた私は、困り果てた。

「その、2人とも——」

「犬も猫もおとなしくしていなさい。時間の無駄です」


 デビトさんの威圧的な一言に2人ともおとなしくなり、仕方なさそうに私を挟むようにベッドに座った。


 (2人とも、近いよ……)

 座る場所がたくさんある中、なぜか一箇所だけ密度が高いという奇妙な光景になった。

 そしてセロくんは、私たちの後ろで待機していた。


 デビトさんは構うことなく、話し始めた。

「さて、ディアナ様をお呼びした理由は他でもない、我々の考えを伝えるためです」

 彼の物々しい導入に、思わず視線を正す。

 私は息を飲み、彼の言葉を待つ。


「魔王様が目覚めたら、我々は森に帰るべきだと考えています」

「……えっ」


 その言葉は、予想外のものだった。

「これは僕の考えですが、ここにいる全員は納得しています。ディアナ様に聖女を会わせるという目的はすでに果たし、あの神からのさらなる危害がない以上、我々がここに残る理由はありません」


「……」

「それにもし争いに巻き込まれ、今度はディアナ様に何かあれば、魔王様だけではなく、ここにいる全員が怒り狂うのは目に見えています。そうすれば魔族と人間、両方とも甚大な損傷を負うことになるでしょう」


 あまりの正論に、私は言葉を吐き出せずにいた。

 私はデビトさんの目をまともに見れず、俯いた。

 (デビトさんの言うことは正しいわ……でも、今の状況でステラとバルドを置いていくのは……)


 私からの反応を促すように、デビトさんは私に問いかける。

「ディアナ様のお考えを伺っても?」

「……デビトさんは、正しいと思います……またアステリアに対面すれば、またみんなが傷つくかもしれない……」


 説得しなければならないのに、私は何も言葉が思い浮かばず、自信のなさを表すように、声量が小さくなっていく。

「……」

「左様ですか。ディアナ様が我々と同じ考えでよかった。ではそのように手配いたしましょう」


 もう言うことがないかのように、デビトさんは私を横切り、部屋から出た。


 静まった空間の中、両隣にいる2人は私の表情を覗き込む。

「どうした?納得いかないような顔をしているぞ」

「ディアナの気持ちが伝わってくるよ……何をそんなにもどかしいんだい」


 投げかけられた純粋で柔らかい言葉に、目の奥がじーんとなった。

 でもやはりうまい言葉が思い浮かべなかった。


「……2人とも、デビトさんの考えに納得していますよね」

「まあな、人間の事情は俺には関係ねえし。それより魔王城に帰って、ディアナと遊びたい」

「僕は、セレーネ様の力を感じられるこの場所も気に入っているけど、それよりディアナには安全なところにいて欲しいかな」


 2人の返答に、私はさらに追い詰められる。

 (2人とも、ずるいわ……こんなに素直で真っ直ぐ答えられたら、何も言えなくなる……)


 私は縋るように、後ろに立っているセロくんにも問いかけた。

「セロくんは?……やっぱり、帰るべきと思う?」

「僕は……」

 彼は少し言い淀んでいた。

 思わず期待が募ってしまう。


 (私はいったい、何が聞きたいのだろう……魔族の彼らに『人間を助けたい』なんて、言われるはずもないのに——)

 目の前に、誰かが立ち止まった気配がした。

 頭を上げると、いつの間にかセロくんが目の前に立っていた。

 

「僕も、ディアナ様に危険なところにいて欲しくないです」

 予想通りの答えだというのに、なぜそんなに傷つかれた気分になるんだろう。

 目から生暖かい涙が出そうになり、顔を隠すように地面を向いた。

 (わかったことじゃない……彼たちに、人間を救う理由なんで——)


「でも」

 私の思考を遮り、セロくんは私と目線を合わせるように跪いた。

「僕は何より、ディアナ様がやりたいことを優先したいです」

 

 見えたその瞳は、吸い込まれそうになるほど真っ黒なのに、なぜか泣き出しそうなくらい優しく感じてしまう。

 (いったい私の何が、彼にこうも忠誠を示させているのだろう)

 セロくんの優しい言葉と表情に、何度も救われて来た気がする。

 今も、思わず甘えたくなってしまう。


 でも私は、こぼれ出しそうな言葉をグッと堪える。

 (きっと私は、言わない方がいいわ……だって、わかっているもの)

 私が考えていることを口に出すと、きっとここにいる3人は私を優先する。

 今までもそうだったから。

 でも、そのせいでみんなを危険な目に合わせるかもしれない。

 負う必要のない傷を負わせてしまうかもしれない。

 (でも、ステラとバルドとは、この状況のまま離れたくない)


 私はその場で、結論を出すことができなかった。

「少し、考える時間が欲しいです」


 そう言って、私はその場を離れ、テオ様が眠っている部屋に戻った。

 ここなら誰か出入りすることもないし、静かに考えられる。

 何より、テオ様のそばにいる方が、自信が湧く気がする。


 私はベッドのそばに置かれた椅子に腰掛け、思考の海に浸る。

 (テオ様たちにこれ以上、私のわがままに付き合わせたくない……でもきっと、彼らの力がないと、私は何もできない。しかも私たちの相手は神……)


 どう考えても状況は絶望的で、こちらが大きな損傷を負う結果が目に見えている。

 それなら、また安全な今のうちに、魔王城に逃げ帰った方が合理的かもしれない。

 でも心の葛藤が消えない。


 (せめて私たちに、神に抗う術がわかっていれば)


「——なぜそんな泣きそうな表情をしている」

 低く掠れたその声に、私は現実に引き戻された。


 声がする方へ視線を向けると、横たわったままのテオ様の、赤い瞳が見えた。

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