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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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優しいの危うさ

 お父様の話は、それなりに衝撃的だった。

 (つまり……メイリーのような人たちがいるのは、アステリア様がお父様にその方法を——)


「……私、ちょっと気分が悪いから、外に出ているね」

 隣で座っていたステラは、俯いたまま部屋を出た。


「ステラ——」

 その表情が見えず、心配になった私は、反射的に追おうとすると、ライアンさんに手で止められた。

「僕が見て来ますので、ディアナ様はこちらに」

 そう言って、ライアンさんも退室した。


 それでも心配で仕方ないけど、今はお父様の話を聞こう。

 そう思い、再びお父様に目線を戻した。


「お父様がアステリアを敬う理由はわかりました……しかし、なぜ彼女はあなたを——」

 ——殺そうとしたのか。

 

 バルドはお父様のやり方に嫌悪していたけど、それで人殺しに踏み込める人ではない。

 あの時、バルドはいきなり転移させられ、お父様を刺すよう操られたのだと思われた。


「あの方にとって、俺は不用になったのだろう」

 お父様は哀愁漂う眼差しを、窓の外に向けた。

「アステリアの目的は、なんなのですか?」

「……さあな、俺にもわからん。あの方は本当に、ただ俺や人間の願いを叶えようとしてくれたと見えたのがな」


 (ただ、お父様の願いを……)

 それにしては、ステラの力を取り上げたり、テオ様たちを煽ったり、かなり過激なことばかりをしていたように見えた。

 (神の考えなんて、ちっぽけな人間にわかるはずがないのかしら)


 とりあえずそう結論づけることにした私は、もう聞きたい情報がないと、立ち上がった。

「情報をくださり、ありがとうございます。私はこれで、退室したいと思います」

 

 私が出口に向かって歩き出そうとする時、お父様は私を呼び止めた。

「待て……アステリア様の情報については、元から開示しようと考えていた。謝礼としての願いは別にしろ」


 変なところで律儀になっているお父様がおかしく、思わず吹き出しそうになるのを、ぐっと我慢した。

「そうですね……ではもう1つ教えてください」


 私は少し、お父様に体を向ける。

「なぜ……もっと早く私を殺さなかったのですか?」

 昔の私なら、きっとそう聞く勇気がなかったであろう質問。


 私は息を飲み、お父様の返事を待つ。

 しかし、しばらく待っても答えは返ってこなかった。

 彼は私から目を逸らした。


「さあな……なぜだろうな」

 いつまで待っても、答えが返ってくる気配がなかった。

 私は待つのを諦め、退室することにした。

「……失礼します」

「皇女さん、送るよ」

 壁際で静かに話の流れを見守っていたカイルさんも、私と一緒に部屋を出た。


 静かになった部屋の中、ぽつりとか細い声がこだました。

「せめてオフィーリアではなく……俺に似ていたら、躊躇なく殺せたのかな」


 ——————

 部屋を出て、ステラを探そうと廊下を歩く私とカイルさんの間に、沈黙が漂っていた。

 私はなんとか、沈黙を破ろうと口を開いた。

「あの……お父様の世話を手伝ってくださり、ありがとうございます」

「いやいや、お礼を言われるほど大したことはしてないさ」

 

 カイルさんは爽やかな笑顔ではぐらかす。

 でも、私は知っている。

 お父様の看病はカイルさんとライアンさんとステラが順番でしていたというけど、夜眠らずにお父様の手当をしていたのはきっとカイルさんだ。

 何せ、手当てのいろはを最もわかっているのは、彼だから。


「それより、皇女さん。魔王さんの具合はどうだい」

「来る前に、何とか治療できました」

「それはよかった」


 彼の表情からは、本当に安堵しか見えなかった。

 (仲良くなっていたとはいえ、テオ様のことまで心配してくださるなんて……)

 

「カイルさんは、とても優しいのですね」

「ん?なんだいきなり?それを言うなら皇女さんこそ優しいんだろう」

「そんなことありません……私はただ、テオ様たちが好きで……」

 私は、大切な存在にしか、この力を使ってこなかった。

 それは当たり前のことで、きっと優しさではない。


「いや、お前さんは俺が見た人の中で、1番優しい……いつか壊れるんじゃないかと思うくらい」

 さっきまでニコニコしていたカイルさんは、一瞬で表情が消えた。

 

「俺はよ、戦うことが好きなんだ。お互い命を賭けながら、技を撃ち合い、ギリギリを攻め合うスリルがたまらなかった。でも、それは俺が物心ついた時から戦争で生きていたからだ」

 話が長くなりそうな気配を感じ、私たちは壁に寄りかかり、ゆっくり話をすることにした。


「戦場にはいろんなやつがいてな。崇高な志のために自ら立ち上がったやつ、国に言われて仕方なく戦場に立ったやつ、単純に戦いを楽しんでいるやつ……でも、戦場を楽しめるやつ以外、ほとんどすぐ気が狂ってしまうんだ。なんでだと思う?」

 私は恐る恐る自分の考えを告げる。

「死ぬのか、怖いから?」

「そうだな、ほとんどはそれだ。でも、その中には、自分の手で誰かの命を奪うことに、恐れを抱いたやつも多くいたんだ。そいつらは……優しすぎたんだ。戦争が起きたのは、そいつらのせいではないと言うのに」


 カイルさんは一瞬、もどかしそうに眉を顰めた。

 でもすぐ、笑顔に戻った。

「何か言いたいかと言うと、優しいやつほど、何でも自分のせいにしたがる。そして限界を超えた瞬間、一気に崩れる。たまには、自分のせいにしないための言い訳も探さないと、心があっけなく壊れちまうぞ」


 言いたいことを言い終えたのか、カイルさんは壁際から離れた。

「あれだ……しがらみだらけで、すぐ感情に振り回される人間よりも、わがままで気ままに生きる魔族の方が、優しすぎる皇女さんとは案外いいバランスが取れていると思うぜ」


 彼の労うような微笑みに、心がふっと緩む。

 きっとカイルさんは彼なりに、さりげなく私を励ましてくれているだろう。

 私が、すべて抱え込まないように。

 (カイルさんは……かっこいい大人だわ)

 心の底から、そう思った。

 

「ありがとうございます、カイルさん」

「お礼を言われるほどのことじゃないさ。ただの大人からのお節介だ。それより、もう1人の心優しい聖女さんを探しに——」

 カイルさんが再び歩き出そうとすると、向かう方向の先から1人が近づいて来た。


「ディアナ様、お時間よろしいでしょうか」

 セロくんはカイルさんに軽くお辞儀した後、私に問いかけた。

「えっと……」

 頭の片隅にステラを思い浮かべ、少し悩んでみせた。


「デビト様が、今後の方針について、ディアナ様に伝えたいことがあると」

 セロくんは私の表情を見て、要件を伝えてくれた。


 それでも答えかねている私を見て、カイルさんは私に行くように手を振る。

「聖女さんは俺らに任せて、皇女さんは行きな。何かあれば共有するから」

「……わかりました。何から何までありがとうございます、カイルさん」


 私は彼に礼を伝えた後、セロくんについて行った。

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