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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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それぞれのやるべきこと

 ――アステリアは、星の神だ。

 その一言に、全員が深く息を呑んだ。


 私たちのすぐそばに、神が現れていたという事実に、驚きを隠せない。

 それでも、不思議と納得できた。


 城で目の当たりにした、あの圧倒的な力。

 ステラから力を奪い……取り戻し、お父様の剣に新たな力を付与し、魔王であるテオ様すら寄せつけなかった力。

 神の力だと言われれば、納得せざるを得なかった。


「じゃあ私たちは、神様を敵に回したってこと?」


 ステラは不安そうに呟いた。

 その顔は青ざめている。

 無理もない。今まで祈りを捧げてきた存在が、今や敵対しているのだから。


「神ですか……。今まで神話は作り話だと考えてきましたが、まさか現実に現れるとは」

 デビトさんは比較的冷静だったが、やはりどこか困惑しているように見えた。


「神が敵ってことは、俺たちじゃ絶対に敵わないってことだろ? 魔王もあの様だしな」

 レオードさんの言葉に、誰もが沈黙した。

 その言葉を覆せるだけの方法を、私たちは持ち合わせていない。


 そこで、セロくんがそっと手を挙げた。

「あの……月の神様はどうですか? 神様同士なら、なんとかできるんじゃ――」

「セレーネ様は今、とても力が弱まっている。こちらに干渉できるほどの力は、ほとんど残っていないのだろう」

 アイセルは、セロくんの考えを静かに否定した。


(確かに、夢での話からしても、彼女が私たちを転移させたこと自体、かなり無理をしたように感じる)


 でも、方法がないわけではないことを、私は彼女自身の口から聞いていた。

「――祈りを捧げよう」

 私は、最後に聞いた彼女の言葉を口にした。


 全員の視線が、一斉に私へ向けられる。

「セレーネ様の力を回復するには、祈りを捧げること……そうでしょう? アイセル」

 アイセルは真剣な表情を緩め、いつもの甘やかな笑みを浮かべた。

「その通りだよ、ディアナ。神は信仰から力を得る。特に、あの方の魂を受け継いだディアナの祈りは、大きな力の源になるだろう」


 そこでようやく、一筋の希望が見えた。


「でも、この少人数の祈りだけじゃ、セレーネ様の力がすぐに回復することはない。どちらにせよ、アステリア様を抑える策を講じなければならないだろうね」


 デビトさんが再び場を仕切った。

「ひとまず、現状を整理しましょう。今、こちらには重傷の魔王と人間の王がいます。人間の王についてはどうでもいいのですが……まあ、彼らの回復を最優先事項としましょう」


 彼は私へ視線を向けた。

「勇者は城に取り残されていますが、今のところ、あの神から直接脅威を受けている様子はありません。今後の方針として、いざという時の保険のためにも、我々は一日に一度、月の神へ祈りを捧げることにしましょう」

 ――魔族の祈りに効力があるかは分かりませんが。

 彼は小さく呟いた。


 他の人たちも異論はないようで、この場はいったん解散となった。


 その中で、私は真っ先にアイセルへ声をかけた。

「アイセル、セレーネ様の力についてなんだけど……」

「ああ、あの方に何か言われたのかい?」


 私は夢の内容をアイセルに話した。

「力の本質は瘴気の浄化だって言われたんだけど、そこに違和感があって」

(だって私がやってきたことは、魔族の嗜虐心を和らげること、魔族を治療すること、そして魔力の流れを滑らかにすること。瘴気とどう関係しているのか、まるで分からないわ)


「僕にも、あの方の力のすべてを理解しているわけじゃない。僕にできるのは、その力の応用を一緒に考えることだけさ」


 彼はいつものように、柔らかく優しい眼差しを私へ向けた。

 まるで、私の決断を待っているかのように。


「……ええ、それでもいいわ。私のできることを、増やしたいの」


 私は、テオ様が刺されたあの瞬間を思い出した。

 何もできなかった、無力な自分を。

(もう、あんなもどかしい思いはしたくない)


 アイセルは胸に手を当て、一礼した。

「仰せのままに。では手始めに、あの魔王の治療を終わらせよう」


 私たちは、テオ様が眠る治療室へ向かった。

 テオ様は、まだ目を覚ましていない。


 傷口はほとんど塞がっているように見える。

 それでも、黒い粒子は流れ続けていた。


「星の神の力は、魔族と相性が最悪なんだ。だから体の傷が塞がっていても、魔力の器は壊れたまま。正直、魔力量の多い魔王でなければ、とっくに命を落としていてもおかしくない」


 私は、黒い粒子が流れ出している箇所へ手を置いた。


「今までのように治療するのもいいけど、今度はこのことも意識してみよう。星の神の力が魔王の回復を妨げているなら、君がその力を追い出すんだ」


 私はテオ様へ力を流しながら、注意深く感覚を辿っていった。

(力の流れを感じて……壊れた部分を探して……)


 最初は変わったところは見つからなかった。

 けれど、力がテオ様の体に馴染んでいくにつれ、感覚が敏感になっていく。


 そして――魔力の濃い部分を感じた。

(ここが、魔力の器かな?)


 試しにそこへ集中的に力を流してみる。


「……っ!」

 テオ様が、小さく呻いた。


 私は驚き、咄嗟に手を離しかけた。

 それを、アイセルが止めた。


「やめないで。今止めると、またやり直しになる」

 私は手を離さないようにしながら、代わりに流す力を弱めた。

(テオ様が苦しむようなやり方じゃ駄目……もっと別の方法を――)


 再び、意識を集中する。

 魔力の器全体を包み込み、壊れた箇所を探っていく。


 その時、違和感を覚えた。

「一か所だけ、テオ様の魔力とは違う部分を見つけた」

「おそらく、それこそが魔王の体内に残留した星の神の力だ。それをどうにかしてみよう」

 私はその力を追い出すように、自分の力をぶつけた。

 

「くっ……!」

 テオ様の体が、先ほどより大きく跳ねた。

「っ……! 力をぶつけたら、テオ様に負担が……」

「じゃあ、それを体外へ排出させてみるのはどうかな。魔力交換をする時みたいに、その力をディアナが取り込むんだ」


 私は言われた通りに力を巡らせ、アステリアの力を流し出すように誘導した。

 すると、その力はテオ様の体を離れ、私の手を通して体内へ流れ込んできた。

 もう違和感がないことを確認し、私はゆっくりと手を離した。


「お疲れ様、ディアナ」

「こちらこそ。ありがとう、サポートしてくれて」


 アイセルと労い合っていると、扉のところにステラの姿が見えた。


「ステラ? そんなところで、どうしたの?」

 私に呼ばれ、彼女は戸惑いながら部屋へ入ってきた。


「なんか、真剣な雰囲気だったから、入りづらくて……。あと、知らせるべきか少し迷っていたの」


 ステラは一度、深呼吸した。


「――お父様が、目を覚ましたの」

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