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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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月の神

私は、白に包まれた空間にいた。

周りには何もなく、自分の姿だけがはっきり見える。

そんな不思議な空間に、私は懐かしさを覚えた。


しばらくすると、誰かが近づいてきた。

霧のかかったその姿は、徐々に鮮明になっていく。


「ディアナ」


聞き覚えのあるその声が、私の名前を呼んだ。

顔は見たことがないのに、私は彼女を知っている気がする。


「あなたは……」

私は思い浮かんだ言葉を口にする。

「月の神様……ですか?」


私がその言葉を口にした瞬間、ガラスが割れるような音が響いた。

今まで霞んで見えていた顔が、霧が晴れるようにはっきりと姿を現す。


アイセルのように白く、彼よりも長く輝く髪。

穏やかな銀色の瞳。

彼女は慈しむように、柔らかな笑みを浮かべていた。


「ありがとう……私を呼んでくれて」


私は一瞬、呆気に取られた。

その笑顔は優しいはずなのに、どこか寂しそうで、悲しそうにも見えた。


「あなたは――」

「セレーネ」


彼女は手を振った。

すると白い空間は草原へと変わり、美しい夜空が広がっていく。


彼女は草の上に腰を下ろし、隣を軽く叩いた。

「セレーネでいいわ。ここならもう少し落ち着いて話せるでしょう。さあ、座って」

私は言われた通り、彼女の隣に腰を下ろした。


そして話を聞こうとするが、聞きたいことが多すぎて、何から尋ねればいいのかわからず、口をつぐんでしまう。


――あなたはどういう存在なのか。

――なぜ私たちを助けたのか。

――魔族を作ったのは本当にあなたなのか。

――私に力を与えたのもあなたなのか。

――なぜ……私なのか。


「質問がいっぱいって顔をしているわね」

私の心を読んだように、彼女は微笑んだ。

「全部答えてあげたいけれど、さすがに時間は無限じゃないの。だから大事なことから話しましょうか」


彼女は夜空を見上げる。

「あなたたちの考えた通り、私は人間たちがいう月の神。そして、あなたに力を与えたのも私よ」


私は思わず息を呑んだ。

「どうしてかというと……その話は長くなるから、今はひとつだけ。魔族たちを助けてあげてほしい、とだけ言っておくわ」


彼女は少し俯いた。

「でも私には、もうほとんど力が残っていないの。だから無責任に力だけを与えて、薄れていく意識の中であなたを見守ることしかできなかった。本当にごめんなさい」


申し訳なさそうな口調に、私は慌てて首を振った。

「そんなことありません!最初は戸惑いましたけど、今はこの力があってよかったと思っています。でも……どうして私なんですか?他にも適任の人が――」

セレーネは真っ直ぐ私を見つめた。


「この力はね……本当はオフィーリアにあげたいと思っていたものなの」

彼女は懐かしむように夜空を見上げる。

「あの頃の私も、すでに力をほとんど失っていた。それでも魂を分けて、オフィーリアの中に宿したの。でも、彼女の素質に目をつけたのは私だけではなかった」


彼女は拳を強く握り締めた。

「結局、オフィーリアは別の魂を受け入れた。私の魂は敗れ、彼女の奥底で眠りについたのよ」


そして再び私へ視線を向ける。

「でも奇跡が起きたわ。オフィーリアは双子を授かった。そしてその子どもたちもまた、神の力を受け入れられるほどの素晴らしい素質を受け継いでいた」


彼女の声はどこか嬉しそうだった。

「そしてオフィーリアの奥底で眠っていた私の魂は、そのうちのひとりに宿った」


その強い眼差しが私に注がれる。

まるで、私こそが彼女の希望だと言うように。


周囲に白い霧が漂い始めた。


「だから私は、その子に残された力のすべてを注ぐことにした。たとえ私自身が姿を保てなくなるほど力を失うとしても」

彼女は優しく私の頬を撫でた。


「ディアナ。あなたの力の本質は、瘴気の浄化よ。その力をもっと使いこなせるようになれば、魔族たちは本来の力を発揮できるようになるわ」


霧はさらに濃くなっていく。

「もう時間がないわ。力の使い方は、これからもあの子に教わって」


まだ聞きたいことが残っていた私は、とっさに彼女の手を掴もうとした。

しかしその手は、空気のようにすり抜ける。


「待って!あなたが負けた相手って――」

「あなたは、あなたたちはもう分かっているはずよ」


夜空が消え、空間は再び白に染まっていく。


「最後にひとつだけ……私はあなたたちの助けになりたい。だから――」

視界は完全な白に覆われた。

それでも彼女の最後の言葉だけは、しっかりと心に刻まれた。


「――」


私は目を開いた。

見慣れない天井が視界に映る。


「ディアナ、おはよう。よく眠れた?」

「……うん。ステラ、おはよう」


私はすでに起きていたステラに挨拶を返すと、すぐに部屋を出た。

向かった先は――女神像が置かれた祈りの場だった。


 アイセルはすでにそこで両膝をつき、祈りを捧げていた。

 その姿はとても珍しいが、私は何も言わずに女神像に近づいた。

 アイセルを見習い、両膝をつき、手を合わせ、目を閉じる。

 頭に浮かぶは、未来への不安だった。

 (テオ様とお父様が早く回復しますように……バルドが無事でいますように)


 静かな時間が続き、やがて隣りから動く気配を感じた。

 目を開くと、琥珀の瞳が私を見つめていた。


「ディアナは、あの方に会ったんだね」

「うん……アイセルは、彼女のことをどれくらい知っているの?」

「そうだね……長い間思い出すことがなかったから、記憶が霞んでいたけど……今は少しずつ思い出してきたよ」


その話をみんなにも聞いてもらうため、私は他のみんなを女神像の前に集めた。


「僕は……白の魔族は、いわば月の使者だったんだ。あの方から直々に力を授かり、あの方のために働くしもべ。昔はもっといたけれど、今その力を受け継いでいるのは僕ひとりだけだ」


アイセルの話によると、白の魔族が持つ力は、その継承者が亡くなった時に記憶ごと神へ返され、次の白の魔族へと受け継がれるらしい。

だから後に生まれた白の魔族は、生まれながらにして神に関する記憶を持つことができた。


「でも瘴気が漂い始めてから、僕たちの力は濁っていったんだ。神へ力を返すことができないまま、仲間たちは去っていった」

アイセルは女神像を見上げた。


「人間からの信仰も失われていく中、このままでは月の神が完全に忘れ去られてしまう。そう危惧した僕たちは、苦肉の策として力を一か所に集めた……それが僕さ」


普段の軽い口調とは違う、どこか寂しげな声音だった。

「でも何百年もの時が過ぎるうちに、僕の力はさらに濁り、記憶も霞んでいった。いつしか自分の役目も、仕えるべきあの方のことも思い出すことがなくなってしまった……ディアナに出会うまでは」


重い告白に、誰も言葉を発することができなかった。

「ディアナと出会ってから、僕は本能的にあの方の気配を感じ取っていたんだ。そして昨日になって、ようやくすべてを思い出せた」


静まり返った空気の中、私はそっと問いかけた。

「どうして、思い出せたの?」


アイセルは私たちを見渡した。

「あの城で、あの方に近い気配を感じたんだ。まったく同じではないけれど、とてもよく似た気配だった」


彼はゆっくりと息を吸い込む。


「あの金髪の女性……アステリア様は間違いなく、セレーネ様と同じ存在――星の神だ」

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