表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/94

絶望の先は

「テオ様――!!」

 テオ様が剣に貫かれた姿を見た瞬間、私は駆け出そうとした。

 しかし、その腕をセロくんに強く掴まれる。


「危険です! ディアナ様!」

「放して! テオ様が――」


 お父様はテオ様の身体を貫いていた剣を乱暴に引き抜いた。

「ぐっ……!」


 テオ様は傷口を押さえながら、その場に膝をつく。

「な、なんだ……これは……」

 苦しそうに呻く姿に、胸が締め付けられた。


 どうして。


 どうして誰も助けないの。

 よく見ると、いつの間にかテオ様の首には光り輝く首輪が嵌められていた。


 あの光。

 どう考えてもアステリアの仕業だ。


「魔族といえど、魔法が使えなければ、ただ力が少し強い獣に過ぎん」

 お父様は倒れたテオ様を見下ろした。

「この様では、あの小柄な魔族を相手にしていた時の方が、まだ手応えがあったな」


 私は今すぐ治療したかった。

 それなのに、身体が動かない。


 そして何より――

 誰も動こうとしない。


「デビトさん! レオードさん! どうしたんですか!? テオ様を助けてください!」

 必死に呼びかける。

 けれど二人は顔色ひとつ変えなかった。


「……助けるって言ってもな。魔王さえ敵わない相手に、俺たちが敵うわけないだろ」

「魔族は弱肉強食の世界です。魔王が倒されれば、それまでですよ」

 あまりにも冷たい言葉だった。


 私は縋るようにセロくんとアイセルへ視線を向ける。

 だが、アイセルも無表情のまま。

 セロくんも悲しそうに目を伏せ、首を横に振った。

 バルドたちも動けずにいる。


 身体の奥から冷えていくような感覚がした。


「あははは! ダーウィン、見た? やっぱり魔族って冷たい生き物なのね」

 アステリアは楽しそうに笑った。

 お父様は答えない。

 代わりに、血の付いた剣を私へ向けた。


「――今度こそ、貴様の番だ。忌子」


 一歩。


 また一歩。


 お父様が近づいてくる。


 その瞬間、セロくんとレオードさんが私の前へ飛び出した。


「邪魔しちゃダーメ♡」

 アステリアが指を鳴らす。

 すると床から光の鎖が伸び、魔族たちの身体へ絡みついた。


「なんだっ!? 動けねえ!」

「魔力が……抑え込まれて……!」

 レオードさんとデビトさんは必死にもがく。

 しかし鎖はびくともしない。

 セロくんとアイセルも何とか動こうとしているが、うまく身体を動かせないようだった。


 ――逃げなきゃ。

 私は必死に周囲を見回した。


「ディアナ!」

「ディアナ様!」

 ステラとバルドがこちらへ向かおうとする。

 だが、ライアンさんとカイルさんに押さえつけられていた。


「放せ、カイル! ディアナ様を助けなければ――」

 バルドが振り返った瞬間、息を呑む。

 ライアンさんもカイルさんも、目の焦点が合っていなかった。


「さあ、ダーウィン」

 アステリアは王座の前で微笑む。

「あなたの願いを叶えるためのお膳立てはしてあげたわよ」


 お父様はゆっくりと歩いてくる。

 私は後ずさる。


 その視線から目を逸らせない。

 身体が震える。

 呼吸が浅くなる。


 そして――

 私は足元を見ていなかった。


「きゃっ!」

 倒れていた兵士に足を取られ、その場に尻餅をつく。

 一度崩れた身体は、もう立ち上がれなかった。


 視界に映るのは、血に濡れた剣を持つお父様。

 そしてその向こうで、傷だらけになりながら手を伸ばすテオ様。


「ディ……アナ……」

 お父様が剣を振り上げる。

 私は目を閉じた。


 けれど――


 いつまで経っても痛みは来なかった。

 恐る恐る目を開く。

 お父様は剣を振り下ろしていなかった。

 高く掲げたまま、震えていた。


 怒り。


 悲しみ。


 苦しみ。


 後悔。


 様々な感情が混ざり合った表情。


「くっ……」

 やがて、お父様は剣を手放した。


 カラン――

 金属音が広間に響く。


「……なぜだ」

 声が震えていた。

「なぜ俺は……今も昔も……お前を殺せない……!」


 一筋の涙が頬を伝う。

「覚悟したはずだ……この手で、オフィーリアの仇を討つと……なのに……!」

 その姿は、あまりにも苦しそうだった。

 私は何も言えなかった。


「――何をしているの? ダーウィン」

 アステリアの声が響く。

「どうして手を止めるの?」


 お父様は答えない。

 いや、答えられないように見えた。


「そう……」

 アステリアの笑みが消える。

「せっかく願いを叶えてあげようとしたのに。私の善意を無駄にするのね」


 彼女は軽く手を振った。

 最初、何が起きたのかわからなかった。


 だが次の瞬間――

 お父様の背後に光が集まる。

 そこから現れたのは、バルドだった。

 勇者の剣を握ったまま。


 そして――

 その剣は、お父様の背中を貫いていた。


「かはっ……!」

「えっ……」


 血が飛び散る。

 私は呆然と立ち尽くした。


「……は?」

 バルド自身も、自分が何をしたのかわからないような顔をしていた。


 広間が静まり返る。

 誰も状況を理解できなかった。


「……悪い子には、お仕置きが必要よね」

 アステリアの声で、ようやく理解した。


「お父様!!」

 ステラが駆け出す。

 倒れたお父様を抱き起こし、涙を流した。


「お父様! しっかりしてください! お父様!」

「僕は……なんで……そんなはずじゃ……」

 バルドは震える手で勇者の剣を見つめていた。


 私は――

 限界だった。


「……いや」

 言葉が零れる。

 テオ様が傷ついた。

 お父様が倒れた。

 ステラが泣いている。

 バルドが苦しんでいる。

 みんな傷ついている。


 ――私のせいで。


「……いや」

 涙が止まらない。


 ――私がここへ来たから。

「もう嫌っ――!!」


 叫び声が広間に響いた。

 もう耐えられない。


 誰も傷ついてほしくない。

 誰も泣いてほしくない。


 だから――

 誰か、助けて。


 その願いに応えるように。

 広間全体を、紫色の光が包み込んだ。


「なっ……!?」

「なんだ、この光は!?」


 誰もが目を見開く。


「――この力はっ!」

 アステリアの険しい声が聞こえた。


 光はさらに強くなる。


「あの女……また私の邪魔を――」


 その言葉を最後まで聞くことはできなかった。

 身体が強く引っ張られる感覚に襲われ――


 私の意識は光の中へ飲み込まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ