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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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あなたが繋いだ絆

あなたが繋いだ絆

 テオ様は黒い剣を握り、お父様の光の剣と激しく打ち合っていた。


 その隙を縫うように、アイセルは傷を負ったセロくんを私たちの元へ連れてくる。

 近くで見ると、セロくんの顔はひどく青ざめていた。額には汗が滲み、呼吸も荒い。


「傷自体はそこまで深くない。でも、あの光る剣と魔族の相性が最悪なんだ。体内のエネルギーが流出し続けている」

 アイセルはそう説明しながら、セロくんをそっと床へ下ろした。


 私は慌てて彼の傷口に手を当てる。

 紫色の光が溢れ、傷口から漏れ出していた黒い粒子が徐々に薄れていった。


「……っ」

 苦しそうに歪んでいたセロくんの表情が、少しずつ和らいでいく。


「大丈夫? セロくん」

「はい……ありがとうございます、ディアナ様」

 アイセルとの訓練を続けてきたおかげだろう。

 数分もしないうちに、セロくんの傷はほとんど塞がった。


「ふーん。面白いことができるのね」

 鈴を転がしたような女の声が頭上から降ってくる。

 反射的に私はセロくんを庇うように後退った。


 気づけば、さっきまで王座にいたはずのアステリアが、すぐ目の前から私たちを覗き込んでいた。


「なっ……! アステリア、いつの間に――」

 驚くステラを見て、アステリアは愛らしく微笑む。

「やだ、そんな怖い顔しないでよ〜。あの魔族が思ったより早く鎖を抜け出したから、気になっただけ!」

 頬を膨らませて拗ねたような仕草を見せる。


 しかし次の瞬間、その笑顔は消えた。

「ステラ……私を裏切ったのね」

 

 空気が一変した。

 重苦しい圧力が部屋全体を支配する。


 ステラの唇が恐怖で震えた。

 私は思わず彼女の前に出ようとする。


 だがアイセルが腕を掴んだ。

「ディアナ……僕たちじゃ、この方には敵わない」

 小さな声だった。

 けれど、その声には焦りが滲んでいた。


 その様子すら見透かしたように、アステリアは視線を向ける。

「物分かりのいい魔族もいるのね」

 だが次の瞬間、彼女の表情が険しくなった。

「あなた……どこかで――」

 私は隣でアイセルが息を呑むのを感じた。


 しかしアステリアはすぐに興味を失ったように肩をすくめる。

「まあいいわ。それより、裏切り者へのお仕置きをしないとね」


 パチン、と指が鳴る。

 すると床に倒れていた兵士たちの体が淡く光り始めた。


「えっ……」

 兵士たちがゆっくりと立ち上がる。

「っ!」

 私とセロくんは息を呑んだ。


 意識を失っていたはずの兵士たちが武器を握り直し、じりじりとこちらを取り囲み始める。


「あなたたち! 止まりなさい!」

 ステラが叫ぶ。

 しかし兵士たちは反応しない。

 よく見ると、彼らの目には焦点が合っていなかった。


「あの兵士たちは操られている!」

「ディアナ様、僕の後ろに」

 セロくんとアイセルが私とステラを庇うように前へ出る。


「あなたたちがいつまで耐えられるか、見物させてもらうわ〜」

 アステリアは楽しげに笑いながら兵士たちの間を歩き去った。


 その直後だった。

 兵士たちが一斉に武器を振り上げる。


「――っ!」

 だが刃が届く前に、セロくんが飛び出した。

 蹴り一発で兵士を吹き飛ばす。

 反対側ではアイセルが兵士の腕をねじ伏せ、その隙を突いてセロくんが拳を叩き込んだ。

 兵士たちは次々と倒れていく。


 だが――

 しばらくすると、また立ち上がる。


「これではキリがありません!」

「これほど自分の無力さを憎む日が来るとはね……」


 セロくんとアイセルは必死に応戦する。

 それでも包囲網は少しずつ狭まっていった。


「ディアナ!」

 兵士たちの向こうからテオ様の声が響く。

「よそ見とは余裕だな!」

 お父様が鋭く斬り込む。

 

 テオ様はそれを受け流すので精一杯だった。

 助けに来る余裕はない。

 胸が締め付けられる。


 その時――

 横から一本の槍が振り下ろされた。


「っ!」

「ディアナ様!」

 私は思わず目を閉じる。


 その瞬間。


 バタンッ!!

 大扉が勢いよく開かれた。


 恐る恐る目を開く。

 目の前の兵士が、不自然な姿勢のまま止まっていた。


「やれやれ……少しお使いで席を外していたら、なんですか、この混乱極まりない状況は」

 聞き覚えのある声だった。

 兵士たちの隙間から見えたのは、こちらへ手を向けるデビトさん。

 その隣にはレオードさん。

 さらに後ろには三人の姿があった。


 ライアンさん、カイルさんとバルドだった。

 

 ほっとしたのも束の間、兵士たちを拘束していた魔法も、すぐに光によって打ち破られた。

 私の目の前で止まっていた槍が再び動き出す。


「ディアナに剣を向けるんじゃねぇ!!」

 レオードさんが兵士の群れを飛び越えた。

 鋭い爪が槍を弾き飛ばす。


「レオードさん!」

「ディアナ、無事か?」

 彼は私の肩を掴み、全身を確認した。

 怪我がないと分かると、すぐに兵士たちへ向き直る。


「遅いじゃないか、犬! ディアナに何かあったらどうするつもりだい!」

「うるせぇ! 守る力もねぇなら引っ込んでろ!」

 二人は口喧嘩をしながら兵士たちを薙ぎ倒していく。

 外側からはカイルさんとバルドも加わり、兵士たちを無力化していった。


 だが、何度倒しても兵士たちは起き上がる。

「面倒ですね……いっそ私の魔法で一気に――」

 デビトさんが巨大な魔法陣を展開しようとした瞬間、私は叫んだ。

「デビトさん! お願い! 兵士たちをなるべく殺さないで!」


 デビトさんは動きを止める。

 そして小さく何かを呟いた。

「……ディアナ様は本当に――」


「デビトさん! 大規模な催眠魔法を展開します。手伝ってください!」

 ライアンさんが前へ出る。

 巨大な魔法陣が展開された。

 それに合わせるようにデビトさんも魔法陣を重ねる。

 二つの魔法陣から光の粒子が降り注いだ。


 それを浴びた兵士たちは、一人、また一人と倒れていく。

 やがて全員が沈黙した。

 私はようやく胸を撫で下ろす。


「賢いのね〜。私の催眠魔法を上書きするなんて」

 アステリアが部屋の奥で拍手をしていた。

 その笑顔は、どこまでも無邪気だった。

「でも――少し遅かったみたいよ」


 嫌な予感がした。


 私は反射的に視線を向ける。

 そして――

 目を見開いた。


 そこには。

 お父様の光の剣に胸を貫かれたテオ様の姿があった。

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