王国の昔話
むかーしむかし。
あっ、そんなに昔のことでもないか。
ローランド国に、白銀の髪を持つ聖女がいました。
彼女は歴代の聖女の中でも、群を抜いてに聖女の素質を持ち、5歳の頃からすでに力を使えるようになっていました。
そんな彼女は、人生のほとんどが、聖女の役割を果たすために王城で過ごしていました。
そこで、彼女は金髪の王子様に出会いました。
王子様は、勇者様でもあったのです。
2人は過酷な訓練を耐えながら、仲を深めていきました。
幼い頃から、重い役割を背負わされた2人にとって、2人でいる時間だけが安らぎの時間だったのです。
やがて2人は恋に落ち、国に祝福されながら、めでたく結ばれたのです。
2人なら、素晴らしい王と王妃になり、国の平和を守ってくれると、誰もが信じて疑わなかったのです。
王が登位して数年、2人の間に子が授かりました。
2人はとても喜んでいました。
そして心に決めたのです。
「俺たちが家族との時間が過ごせなかった分、子供にはその寂しさを背負わせないよう、たくさん一緒にいよう」
「ええ、私たちのかわいい子供には、幸せに過ごして欲しいわ」
そして、王妃から双子の女の子が生まれました。
片方は父の金髪と母の桃色の瞳を受け継いだ、可愛らしい女の子。
――もう片方は、父の銀色の瞳だけを受け継いだ、忌まわしい紫色の髪を持つ女の子。
そこからすべてが狂い出した。
どんな髪色だろうと、王と王妃は自分の子たちを愛そうとしました。
子たちが悪意に晒されないよう、王妃は忙しい間を縫って、自ら子たちの世話をしていました。
王は対外的に金髪の女の子が生まれたと大々的に公開し、紫色の子を秘匿していました。
しかし、国民に隠せても、城で出入りする使用人や貴族たちまでは騙せなかったのです。
「王妃様から紫色の髪を持つ子が生まれたんですって」
「まあ、なんと恐ろしい。どうしてそんな子が」
「きっと、王妃様が神を怒らせるような何かをしたのだ。その罰として神の加護を受けない子が生まれたのだ」
「ねえ、あの紫の子見た?」
「見た見た!なんで不気味な色かしら」
「そんな子が王妃様から生まれたなんて、私だったら恥ずかしくて死ぬ」
「本当にそれ!一応聖女だからと、仕えられているところはあるけど、もう聖女失格じゃない?」
王妃は、貴族にも使用人にも、後ろ指を指され、悪意に満ちた言葉を浴びせられました。
それでも、彼女は自分の子たちを守ろうとしました。
「大丈夫よ……私が必ず、あなたたちを幸せにするわ」
しかし、悪意は膨らんでいきました。
「きゃっ!」
「あら、ごめんあそばせ。でも、ワインの色に染まった髪もお似合いだわ」
「そうそう、それなら紫色の子を産んだのも納得ね」
「っ、ケホ、ケホ、ケホ」
「王妃様、ダメじゃないですか、お食事はきちんとしていただかないと」
「せっかく厨房のものが頑張って作ってくださったのに」
王妃は、社交の場では貴族から嫌がらせを受け、城内では使用人に薬を盛られ、心も体も弱まっていきました。
王はその都度、王妃を害したものを処罰したが、それでも悪意は膨らんでいくばかりでした。
心を酷く傷んだ王は、王妃に提案するようになりました。
「もう、ディアナを俺たちの手で解放しよう。これ以上お前の苦しむ姿も、あの子の苦しむ未来も見たくない」
「ダメよ!あの子は……あの子も、私たちの愛する子だもの!」
王妃の覚悟を受け、王も自分の最善を尽くして、王妃と子供たちを守ろうと決心したが、彼にできることは限られていました。
王妃を傷つけた者を処罰することはできても、形になっていない悪意を消すことはできませんでした。
王妃は少しずつ、心を病んでいきました。
「私の……せい……?私が、悪い子だから……?神様に……嫌われた?」
ベッドの上で安らかに眠っている赤子しかいない部屋で、彼女は繰り返し呟いていました。
ストレスで痩せ細くなっているその手は、彼女の子に差し伸べました。
「この子さえ……いなければ……」
弱々しい両手は、この首を掴みました。
しかし手は酷く震えていて、うまく力を込めることはできなかったのです。
「……殺さ……ないと……私の……っ手で……」
声を震わせ、涙音を含ませました。
「っ……やら、ないと――」
彼女は泣き崩れました。
「うっ……できない……私の、子をっ……殺すなんて……」
絶望に染まった王妃は、ふらふらと部屋に置かれた花瓶を割り、そのかけらを、自分の首へ――
王妃を疎んでいた使用人が王妃の様子を伺うこともなく、多忙な王が気づいた頃には、王妃はすでに子供のそばで、倒れていました。
彼女の周りは、血で赤く染まっていました。
彼女は最後の瞬間、一瞬で解放できたのか、それとも苦しみにもがきながら去ったのか、誰も知る術はありませんでした。
王はその光景を呆然と眺め、彼は、倒れている王妃を抱え上げた。
「オフィ……リア?」
愛する彼女が、すでにこの世にいないことを悟り、彼の目から、久々に涙が溢れました。
「オフィーリア……目を、開けてくれ……なぜ、こんなことを……!」
「ギャー、ギャー」
愛しい彼女を胸に抱え、彼の目は少しずつ、憎しみに染まり始めました。
その目は、泣き叫んでいる双子たちの――紫の子に向けていました。
「……その子さえ……その忌子さえ、いなければ!!」
彼は地に落ちていた花瓶のかけらを掴み、紫の子に向けて振り上げました。
しかし、彼の手も震えていました。
憎しみに染まっている彼の顔は、涙で濡れていました。
「くっ……!」
彼は、ヤケクソにかけらを地面に投げ捨てました。
「……オフィーリアが、最後まで守ろうとした……簡単に、殺すことは……」
彼は王妃を抱えながら、部屋を後にした。
「オフィーリアを、死なせた罰だ……貴様は一生……オフィーリアと同じ苦しみを味わえばいい」
王はこう決意しました。
これは彼にとって、唯一できる復讐なのです。
いつかあの忌子が、苦しんだ果てに、自ら命を手放してくれる日まで待つと。
しかし予想に反して、使用人に毒を盛られようと、酷く傷つけられようと、忌子はしぶとく生き残りました。
日々大きく育ち、愛する彼女と重なっていく顔を見て、王は耐えられなくなりました。
そばに置くことも、自ら殺すこともできない彼は、その忌子を国から追い出そうと決めました。
彼女が、自分の目の届かない場所で死んでくれれば――
しかし驚くことに、その忌子は魔族の森に踏み入っても、命を落とすことはありませんでした。
しかも彼女は、前より元気そうな姿で国に戻ってきましたとさ。
――――――
意気揚々と語り終わったアステリアを見て、テオは鋭く彼女を睨みつける。
「無駄話はを聞く暇はない!早く言え!ディアナをどこにやった!」
「まあまあ、答えてあげているから、静かに聞いてってよ」
テオは今すぐにでもアステリアに飛び掛かりたいが、全身に光の鎖が纏っていて、身動きが取れなかった。
「なんで……なんであなたが、お父様とお母様の話を……」
ステラは状況を掴めず、完全に取り乱していた。
それとは対照的に、アステリアは煌びやかな笑顔を見せていた。
「なんでって、私がオフィーリアとダーウィンのことが大好きだからに決まっているからでしょう♡」
ダーウィン・ローランド、ディアナとステラの父親で、この国の王。
その名を、そのまま呼ぶことを許されている人は、この国には存在しない――
「あなたは、いったい……」
「それよりあの忌子の居場所についての質問だけど、私はステラも大好きだから、特別に答えてあげる」
アステリアはステラに歩み寄った。
「私はね、ダーウィンのことが大好きだし、あの女に似るその忌子がだーい嫌いなの。だからダーウィンの願いを叶えずつ、あの忌子をこの世から消せる、とっておきの方法を考えたの」
アステリアはいたずらっ子のような、無邪気な笑顔を浮かべた。
「あの忌子は今、ダーウィンのところにいるよ♡」




