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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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魔王テオボロスの欲望

 デビトさんに「テオ様を説得しろ」と言われ、私は頭を抱えた。


「どうしたらテオ様を説得できるのかしら……。先程はとてもお怒りでしたよね」

「ええ……犬が思わず毛を逆立てるくらいには」

 やっぱり、誰の目から見ても、テオ様は怒っていたらしい。


「私が勝手に魔王城を離れることを、よく思っていないのかしら」

「ディアナ様の中で、魔王様は随分と“優しい存在”になっているようで」

 デビトさんは、どこかおかしそうに喉を鳴らした。


「? どうして笑うんですか?」

「いえ……ディアナ様は、我々を……特に魔王様を、少々美化しすぎているように見えたので」

 彼は笑いを収め、改めて私へ向き直る。


「あなたの前ではかなり柔らかく振る舞っていますが、魔族はあなたが思うより、ずっと身勝手で、自己中心的で、欲深い生き物ですよ」


 意図が掴めず、私は首を傾げた。

「それは、どういう――」

「特に魔王様は、あなたより遥かに長く生きていても、魔族の中ではまだ幼子のようなもの。自分の欲を抑える術を、まだ知らないのです」


 ――ねぇ?

 デビトさんが入口へ視線を向ける。


 釣られて振り返った瞬間、私は息を呑んだ。

 そこには、鬼のような形相でこちらへ歩いてくるテオ様の姿があった。


 反射的に立ち上がる。

「テオ様――」

「なぜお前がここにいる」


 テオ様は私の目の前へ立つと、強い威圧を纏ったまま顎を乱暴に掴み上げた。

「あの部屋には結界を張ったはずだ」

「……結界は一時的に解除しました。テオ様、話を――」

「来い」


 彼は私の言葉を最後まで聞かず、そのまま腕を掴んで書庫を出ていく。

 視界の端には、優雅に微笑むデビトさんと、慌てふためくセロくんの姿が映っていた。


 連れて来られたのは、テオ様の部屋だった。

 考えてみれば、ここへ入るのは随分久しぶりだ。

 けれど、以前のような甘い空気はない。

 私はそのまま乱暴にベッドへ投げ込まれた。


「っ……テオ様、話を――」

「話すことはない」


 彼は私へ覆い被さり、逃げられないよう押さえ込む。

「お前を、どこにも行かせない」

「テオ様、少し落ち着――んっ……」


 言葉を遮るように、唇が塞がれた。

 強引に重ねられた口付け。

 逃がすまいとするように絡め取られ、息が苦しくなる。

(くる、しい……)


 押し返そうとしても、魔族と人間では力の差が大きすぎた。

 テオ様は微動だにしない。

 苦しさに涙が滲む。

 いつもなら胸が高鳴るはずの触れ合いが、今はただ苦しい。


 なんとか逃れようとして、私は意を決して彼の唇へ軽く歯を立てた。

「っ……!」

 反射的にテオ様の動きが止まる。

 その隙を突き、私は身体を起こして距離を取った。


「はっ……はっ……少しは、話を聞いてください……」

「……お前は、やはりあの聖女が大事なんだろう」

 テオ様は苦しげに眉を寄せた。

 その顔は、怒っているというより――どこか寂しそうだった。


 まるで、不器用な子供みたいに。

(デビトさんが言っていた、“幼子のようなもの”って……こういうことなんだ)


 私は少しだけ、理解した気がした。

 テオ様には、まだ私の知らない感情がたくさんある。

 そして私は、それをちゃんと受け止めなきゃいけない。


「教えてください……。どうして、そんなに私を国へ返したくないんですか?」

「……」

 テオ様は迷うように視線を伏せ、それから私の背へ腕を回して、ゆっくり引き寄せた。


「俺は、お前が欲しい」

 低い声が、耳元で響く。


「お前が俺しか見えなくなるくらいに。俺なしじゃ生きられなくなるくらいに。俺しか欲しがらなくなるくらいに……お前の世界を、全部俺で埋め尽くしたい」

 語られたのは、想像を遥かに超える執着だった。


「でも、お前は違う」

 責めるような目が、私を射抜く。


「俺が特別だと言いながら、あの聖女も、勇者も……デビトも、駄犬も、召使いも、猫も、お前にとってはみんな特別なんだろう」

 背へ回された腕に、力がこもる。


「俺は、お前以外どうでもいい。いつ捨てても構わない。でもお前は違う。誰も捨てられない。お前の世界には、いつも俺以外の誰かがいる」

 その声には、怒りよりも焦りが滲んでいた。

「やっと、あの聖女が城を離れて……お前の気を引く存在が一つ消えたと思ったのに。お前を人間の国へ返したら、今度こそ、お前はあの聖女を選ぶ」


 デビトさんは言っていた。

 魔族は、私が思うよりずっと欲深い生き物だと。


 今ならわかる。

 テオ様の欲望は、私の想像より遥かに深い。


「なら、いっそお前を閉じ込めて……俺以外に会わせないようにして、俺以外を必要としないように、記憶まで――」

「テオ様!」


 私は咄嗟に彼の頬を両手で包み込んだ。

 今にも闇へ沈みそうな彼を、引き戻したくて。


「私は、テオ様の欲望を全部叶えることはできません」

 はっきりと言葉にする。

「部屋に閉じ込められたまま生きたくありません。みんなにも会いたいです」


 その瞬間、テオ様の身体がぴくりと揺れた。

「……やはり、お前は――」

「でも!」


 私は遮るように続ける。

「他の“唯一”なら、あげられます」


 緊張で胸が苦しくなる。

 それでも、私は逃げなかった。


「こんなに近づくのも、触れられるのも……く、口付けするのも、テオ様だけです!」

 予想外だったのか、テオ様がぽかんと固まった。

「……それじゃ、ダメですか?」

 ぎゅっと手を握り締めながら、涙で少し潤んだ目で見上げる。


 すると、テオ様が深く息を吸った。


「……あの聖女とは抱き合っていたのに?」

「うっ……。嫌なら、今後は控えます……」

「あの勇者を名前で呼んでいただろう」

「そ、それは慣れてしまって――」


 突然、テオ様の腕が私の腰へ回る。

 そのまま、強く引き寄せられた。


「あの猫も呼び捨てだった」

「つ、使い魔ですし――!」

「全然、“唯一”をくれてない」

 不満げに口を尖らせるテオ様。


(そ、そんな細かいところ気にしてたの!?)

 呆れ半分。

 でも、それ以上に。

 くすぐったくて、愛おしくて、少し嬉しい。

 そんな風に感じてしまった自分に慌てて、私はぶんぶん首を振った。


「そ、それで! 国へ帰る件なんですが――」

「それはダメだ」


 即答だった。

 でも、簡単に許してもらえるとは思っていない。


「じゃ、じゃあ……テオ様も一緒に来るというのは――」

「俺にメリットがない」


 これも予想通り。

 私はデビトさんの言葉を思い出した。


 本当にこれで説得できるのかはわからない。

 それでも、私は勇気を振り絞る。


「無事に帰って来られたら、テオ様と……つ、“(つがい)契約”を結びます!」


 全身が熱くなる。

 恐る恐る反応を窺うと、テオ様は目を大きく見開いていた。


「お前は……その契約の意味を理解した上で、言っているのか?」

ここで魔族たちの年齢順を大公開します:

デビト>>>>レオード>アイセル>>テオボロス≈セロ


デビトは魔族界の大先輩でおじいさんです、優しくしてやってください!(こら)

案外テオ様とセロくんは同年代です。

でも魔族は基本強さで物事を見ていますので、年齢を気にすることはほとんどないです。

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