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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最三章~真相~

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決断

 無理矢理部屋へ送り返された私は、そのままベッドへ座り込んだ。

「……落ち着かなきゃ」


 正直、さっきの私は完全に感情的だった。

 レオードさんたちがあまりにも淡白に話すものだから、頭に血が上って「帰る」なんて口走ってしまったのだ。


 でも、私に何かできる力があるわけじゃない。

 今さら国へ戻ったところで、何もできないかもしれない。

 それどころか、“処刑されたはずの皇女”が帰還すれば混乱を招くだけだ。

 今度こそ、本当に殺されるかもしれない。


 それでも――。

 ステラが心配な気持ちは、本物だった。

 あんな表情を見せられて、気にならないはずがない。


 それに……。

 初めて「助けて」と言われた。

 ステラに。

 誰かに助けを求められたのは、初めてだった。


(そんなの……なんとかしてあげたいって思うに決まってる)


 ようやく少しだけ気持ちの整理がつき、私は改めてテオ様たちに相談しようと立ち上がった。

 ドアノブへ手をかけるが――


(あ、あれ?)

 何度回しても、扉はびくともしなかった。


「もしかして……」

 嫌な予感がして、今度は窓へ駆け寄る。

 だが、窓も開かない。


「私……閉じ込められてる?」

 脳裏に浮かぶのは、あの時のテオ様の冷たい視線。

 そして最後に放たれた言葉。


『どうしても行きたいなら、自分でどうにかしてみることだな』

(自分でどうにかしろって……最初から何もさせる気ないじゃない!)


 レオードさんたちへ抱いた苛立ちが、再び胸の奥から噴き上がる。

 ――これが、“腹が立つ”って感情なんだろうか。

 けれど、怒りをぶつける相手もいない。


 部屋から出られない以上、何も始まらない。

 私は深呼吸し、静かに呟いた。

「……アイセル」


 足元へ魔法陣が浮かび上がる。

 そこから現れたアイセルは、片手を胸へ当て、恭しく一礼した。


「お呼びでしょうか、ご主人様」

「アイセル。この部屋から出られるようにできる?」


 アイセルは部屋を見回し、確認するように目を細めた。

「魔王の結界だね。かなり強力だ。僕じゃ解除できないかな」

「そう……」

 予想していた答えだった。

 それでも、少しだけ肩が落ちる。


「ディアナは、本当に人間の国へ行きたいのかい?」

 アイセルが珍しく真剣な目で見つめてくる。

「ええ。さっきは勢いで言った部分もあったけど……それでも、気持ちは変わらないわ」

「どうして? あの聖女、怪我なんてしてなかっただろう? 帰っても危険なだけだと思うけど」

「……たとえ身体に傷がなくても、心は傷ついているかもしれない。人間は、心も弱いの」


 なんども傷つけられ、心を殺されそうになった私にはわかる。

 人間は、肉体が生きていても、心が死ねば“生きる屍”になる。


 アイセルは静かに目を閉じ、しばらく考え込んだ。

「……わかったよ」

 やがて彼は小さく息を吐く。

「どのみち、ディアナが本気で願ったなら、僕には止められない」


 アイセルは扉へ近づいた。

「この結界自体は僕じゃどうにもできない。でも、ディアナなら壊せると思う」

「どうすればいいの?」

 私も扉へ向き直る。


「君の力を使うんだ。今までは“鎮める”ために使ってきただろう?」

 アイセルは私の手を取り、扉へ向けた。

「魔力を鎮める時は、荒れた波を凪いだ水面へ戻すような感覚だったはず。今度は逆だ。部屋へ張られた魔力を“乱す”んだよ」


 私は目を閉じ、結界の魔力を感じ取る。

「今の君ならできる」

 その言葉に背を押され、私は自分の力を結界へ流し込んだ。


 ――チリッ。

 火花が散るような音が響く。


「さすがだね。結界が乱れたよ」


 急いでドアノブを回す。

 すると今度は、あっさり扉が開いた。


「ありがとう、アイセル!」

 アイセルは満足そうに微笑み、そのまま猫の姿へ変化して私の肩へ飛び乗った。

 私はすぐに部屋を飛び出す。


 夢中で廊下を駆け抜け、角を曲がろうとした瞬間――誰かとぶつかりそうになった。

「あっ!」

「ディアナ様!」


 セロくんだった。

 彼はすぐに私の身体を支え、倒れそうになるのを防いでくれる。


「ありがとうございます」

「いえ……ですが、どちらへ?」

 私が体勢を立て直すと、セロくんが不安そうに尋ねた。


「テオ様を……説得してみようと思って」

「そうですか……ですが、今は得策ではないかと」

 話によると、今のテオ様はかなり気が立っていて、とても冷静に話せる状態ではないらしい。

 今向かっても、また言い争いになるだけ。


 私は立ち尽くした。

(でも、この瞬間にもステラは――)

「ディアナ様は、聖女様を助けたいのですよね。なら、デビト様へ相談してみては?」


 思わず顔を上げる。

「……止めないんですか?」


 皆の前であんなことを言ったのだ。

 アイセルは契約上逆らえないとしても、セロくんには止められると思っていた。


「ディアナ様が聖女様を大切に思っていることは、短い時間でもよくわかりました」

 セロくんは柔らかく微笑む。

「僕は、ディアナ様の願いなら、なんでもお手伝いします」

 胸がぎゅっと締めつけられるほど、その言葉は温かかった。

 思えばあの場でも、セロくんとデビトさんは驚いてはいたが、強く止めようとはしていなかった。


「ありがとうございます……。デビトさんに相談します。今どこに?」

「ご案内します」


 私たちは、デビトさんが普段研究に使っている書庫奥の部屋へ向かった。

「来ると思っていましたよ、ディアナ様」


 部屋のテーブルには、先ほどの報告で使われていた器具がまだ並んでいた。

 どうやら研究の続きをしていたらしい。


「デビトさん。ステラを助けたいんです。私を人間の国へ連れて行ってください」

 デビトさんは私を手招きし、向かいの席へ座るよう促した。

 アイセルとセロくんは、私の後ろへ控える。


「私個人の感情は置いておくとして……客観的に見れば、あなたの行動は無謀です」

「わかっています。でも、それでも放っておけません」


 デビトさんは片眼鏡を押し上げた。

「あなたの覚悟は理解しました。……ですが、このまま行かせるわけにはいきません」

「テオ様の許可がないからですか?」

「それもあります。しかし今、人間の国で何が起きているのか不明な以上、あなたを無防備に送り込むのは危険すぎます」


 彼は感情を交えず、淡々と事実だけを並べる。

 だからこそ、こちらも冷静に考えられた。


「……どうすれば、連れて行ってくれますか?」

 デビトさんは静かに口を開いた。

「まず、魔王様を説得しなさい」


 そして――。

「こうお願いするのです」

 続けて告げられた言葉に、私は思わず息を呑んだ。

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