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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最終章~真相~

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二つの道

「ディアナ……助けて――」

 ステラの助けを求める声が、不自然に途切れた。


「ステラ? ステラ、どうしたの?」

 どれだけ呼びかけても、返事は返ってこない。


「どうしましたか? ディアナ様」

 私の異変に気づいたらしく、セロくんが心配そうに後ろから覗き込んできた。


「ステラが、助けてって……。それで、急に声が途切れちゃって……」

「ふむ……魔導具の誤作動ではなさそうですね」

「つまり、向こうで何かあったということだろう」


 セロくんに続き、デビトさん、テオ様……皆が私の近くへ集まってくる。

(向こうで何かあった……? もしかして、ステラの身に何か――)


「あのっ! 何か、向こうの様子を確認する方法は――」

 縋るようにデビトさんを見上げると、彼は難しい顔をした。


「そうですね……。“水鏡”を使えば映像を見ることはできますが、相手の具体的な位置がわからないと……」

 暗に“今は難しい”と言われ、焦燥感が込み上げる。

 

(どうしよう……どうしたら……)

 今にも泣き出しそうだったステラの声が、頭から離れない。

 悪い想像ばかりが次々と浮かんでくる。

(もしかしたら、お父様に酷く罰されたのかも……。それとも、もっと酷いことに――)


「デビト、水を用意しろ」

「……かしこまりました」


 テオ様の短い命令に、デビトさんは即座に動き出した。

 セロくんがどこからか大きな桶を運び込み、デビトさんが魔法で水を満たしていく。

 桶がいっぱいになるのを確認すると、テオ様は跪きながら私の手を掴み、もう片方の手を水へ向けた。


「ディアナ。この前見せた“あれ”を使え」

「えっ?」


 思い出すのは、ステラが出発した日にテオ様へだけ見せた、あの力。

 言われるまま魔力を流すと、テオ様の身体から紫色の光が溢れ出した。


「なんだそれ、かっけー」

「魔王様から……光が――」

「ディアナ、すごく上手になったね」

 周囲がざわつく中、デビトさんでさえ驚いたような顔を見せる。

 しかしテオ様は気にした様子もなく、彼へ視線を向けた。


「デビト。人間の城はどこだ」

「――こちらです」

 デビトさんは何もない空間から地図を取り出し、城の位置を指差した。


 テオ様がその場所を見つめる。

 しばらくすると、水面に見慣れた城の姿がゆらゆらと浮かび上がった。


「テオ様、これは――」

「次はお前だ、ディアナ。城内の配置を教えろ」


 私はテオ様の隣へ跪き、水面へ映る城を見つめた。

「……正門から入ると大広間があって、その先に上へ向かう階段があります。二階の右側突き当たりが謁見室で――」

 私の言葉に合わせ、水面の映像が移動していく。

 

 広間、謁見室、応接室、寝室――。

 部屋を一つずつ映し出し、時折、使用人たちが忙しなく動き回る姿も見えた。

 これは紛れもなく、“今”の光景なのだ。


「なんで精度が高い……」

 近くでデビトさんが感嘆の声を漏らしたが、私は構わず探索を続けた。


 そして――ついにステラの自室へ辿り着く。


「ステラ!」

 彼女は怯えきった様子で床に座り込んでいた。

 その視線の先には、一人の女性。


 鮮やかな金髪。

 映像は女性の背中を映していて顔は見えない。

 けれど、少なくとも私の記憶に、あんな人物はいなかった。


 女性は何か危害を加えているわけではない。

 それなのに、ステラは明らかに怯えている。

(あの人……何者?)


 映像が女性へ焦点を合わせた瞬間――。

 彼女が突然、こちらを振り向いた。


 ――目が合った気がした。


 次の瞬間、水面が激しく乱れ、映像が掻き消える。

「くそっ! 干渉された!」

 テオ様が焦燥を滲ませ、手を振り払った。


 最後に見えた、あの女性の顔。

 澄み切った水色の瞳が、鋭くこちらを睨んでいた。

 ぞくり、と背筋が震える。


「魔王様、先程の水鏡は――」

「ディアナの力を借りて精度を上げた。……だが、邪魔された」


 デビトさんはどこか感動したような表情を浮かべていた。

 理由がわからず見つめ返していると、隣でセロくんが小声で説明してくれる。


「水鏡は遠方を映し出す魔法ですが、距離が遠いほど魔力消耗が激しくなります。さらに、高精度で映し続けるには高度な魔力操作技術が必要なんです。本来、場所を移動させながら見るなんて、不可能に近いんですよ」


 テオ様は膨大な魔力を持っている。

 けれど、魔力操作は苦手だと以前話していた。

 その不足部分を、私の力で補ったということなのだろう。

 本来なら喜ぶべきことなのに――。


「でも……テオ様の魔法が邪魔された……」

 魔力量で、テオ様に並ぶ存在なんていないはずなのに。


「まず疑うべきは、最後に見たあの女性でしょうか」

「だろうな。だが、俺の魔法へ干渉できる存在など、前代魔王ですら不可能だった。……あの女は普通じゃない」

 二人の表情が、みるみる険しくなっていく。

 

「だけどさぁ、あの聖女、別になんともなかっただろ? ならディアナが心配する必要なくね?」

 そこでレオードさんが、呑気に口を挟んだ。

「珍しく意見が合ったね、犬。僕も同感だよ。ディアナが気に病む必要なんてない」

 アイセルまで同調する。


(何もない……? あのステラの顔を見て?)

 耳を疑った。

 

 怪我こそしていなかった。

 でも、あの表情はどう見ても普通じゃなかった。


 それなのに二人は、まるで些細なことのように流している。

 胸の奥で、言いようのない感情が渦巻き始めた。


「ディアナ様? どうされましたか?」

 セロくんが不安そうに顔を覗き込んでくる。


 衝動を抑えきれず、私は勢いよく立ち上がった。

「……私、は……」


 全員の視線が集まる。

 整理できない感情のまま、私は叫ぶように言い放った。


「私は……ステラのところへ行く!」

 一瞬、空気が凍りついた。


 最初に声を上げたのは、レオードさんとアイセルだった。

「はぁああ!? なんでだよ! あの聖女、無事だっただろ!」

「そうだよ、ディアナ。それに君をあんな場所へ行かせるわけないだろ? 忘れたのかい? 人間たちが君にしたことを」


 二人とも必死に引き止めようとしてくる。

 けれど、その言葉に強い違和感が湧き上がった。


「あれは“なんともない顔”じゃなかった! ステラに何か起きてる! 私が助けに行かないと――」


「ダメだ」


 荒ぶる私の声を遮ったのは、テオ様だった。

「お前を人間の国へ返さない」


 見たこともないほど冷たい顔で、テオ様が私を見下ろす。

 一瞬だけ、怖いと思った。

 でも、それ以上にショックだった。


 今まで、テオ様はずっと私の味方でいてくれたから。

 今回も、きっとそうなのだと、どこかで信じ込んでいた。

 けれど、ここまで言った以上、私も引き下がれない。


「っ……何を言われても、私は行く! 私は、ステラを助けたい――」

 衝動のまま言葉をぶつけた瞬間、テオ様が私の口を手で塞いだ。


 彼の目は、凍えるほど冷たい。

「行かせないと言ったはずだ」


 低い声が、静かに響く。

「所詮お前は、俺たちがいなければ、この魔王城からすら出られない」


 睨まれ、口を塞がれていても、私は視線だけで意思を返した。

 ――絶対に諦めない、と。


「どうしても行きたいなら、自分でどうにかしてみることだな」


 そう言い放つと同時に、テオ様は私の足元へ魔法陣を展開した。

 次の瞬間、視界が白く染まり――私は自室へ送り返されていた。

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