長い旅の終わり
《ステラ目線》
シュッ
バルドとカイルさんは剣を振り上げ、木の上にある木の実を切り落とす。
それらを拾い上げ、私の元まで持ってきた。
「ステラ様、木の実を持ってきました」
「聖女さん、浄化よろしくー」
「任せて!」
私は地面に置かれた紫色の木の実へ向かって、両手をかざす。
体の奥から力を引き出し、それを木の実にぶつけるように放つ。
でも、手から発された光はいつもより暗く、弱々しい。
紫がかった木の実も、いつもなら数秒で鮮やかな色に戻るのに、今は少し薄くなったくらいしか変化を見せない。
「なんで……」
弱くなった浄化の光を見て、思わず弱音を吐きたくなる。
「やはり、調子悪いのですか?」
「そう、みたい……ごめんね、少し時間かかっちゃうね」
「いいって、聖女さんは無理のない程度でやればいい」
バルドとカイルさんは励ますように、柔らかく笑いかけてくれた。
それでも、胸のモヤモヤが止まらない。
最初はカイルさんとライアンさんを治療しようとした時だった。
その時はメイリーに酷い目に遭わされたばかりだし、そのせいで調子が出なかったと思った。
でもライアンさんが浄化装置を改良して、そこに浄化の力を注ごうとした時、力の流れがいつもよりゆっくりだった。
そのせいで、充分に補充するのに、半日かかった。
もう結構休んだから、体調が影響しているということは有り得ない。
(なら、魔族の森にいるから?)
でも魔王城に行く時は、何ともなかった。
なのに今、力が明らかに弱まっている。
理由も分からずに。
いろいろ考えていたら、やっと木の実がいくつ完全に浄化することができた。
「いくつか浄化できたわ、先に食べて」
「僕は空腹ではないので、後ほどにいただきます」
「俺も、もう少し素振りしてから食うわ」
バルドもカイルさんも、たぶん私に気を遣って食べようとしなかった。
それがどうしようもなく、申し訳ない。
「ライアンさんは――」
ライアンさんだけでも先に食べてもらおうと、焚き火のある方へ振り向くと、ライアンさんはすごく疲れているのか、木に体を預けて、爆睡していた。
私は仕方なく、残りの木の実の浄化に専念した。
「このまま食べられないの、めんどいな」
そこで魔族のレオードさんがこっちに近づき、濃い紫色の木の実を1つ拾って、かじった。
「そういうお前ら魔族は、そのまま食べても大丈夫なんだな」
「そりゃ魔族は魔力で生きているからな、何食っても平気」
レオードさんは気にせず、手に持っていた果実を食べきる。
「レオード、ローランド国まで、あとどのくらいだ?」
バルドは焚き火の近くに座り、レオードさんに問いかけた。
「俺だけなら1日で着けるが……お前らの鈍い脚じゃ、もう数日かかるんじゃないか」
既に出発から2日かかり、瘴気が薄いところまで行けた。
来る時に1週間以上かかったことに比べれば、かなりベースが速い。
それも、レオードさんの案内のおかけだ。
「お前ら食ったら急ぐぞ。俺はそろそろ帰って、ディアナに会いたい」
レオードさんは木にもたれ、私たちの食事を見守ろうとした。
ようやく木の実を浄化し終えた私は、バルドとカイルさんにいくつを分け、ライアンさんの手前にもいくつ置いた。
「そういや、魔王城の食いもんはどうなっているんだ?食材はあのデビトっていうやつが調達していると聞いたが、流石に水は調達しにくいだろう」
「いや、魔王城には普通に瘴気に染まってない水が流れているぜ。魔王城の結界内で流れているからな、瘴気を遮っている。それを普通にディアナに飲ませている」
カイルさんは食事をしながら、レオードさんとの雑談を始まった。
2人はなかなか気が合ったようで、他愛ない話を交わし合う仲になっていた。
「……なあ、レオード……前の話を改めて聞きたいのだが」
「前の話?」
バルドは何かをききたそうにしているが、歯切れが悪い。
「ディアナ様のことだ……お前ら魔族にとって、ディアナ様は魔女以上の存在なのか」
バルドは木の実を食べる手を止め、レオードさんの答えを待つ。
これは、私も密かに気になっていることだ。
(あの魔王はどう見ても、ディアナを特別に見ている……)
それだけじゃない、セロくんも、他の魔族も少なからず、ディアナを好いているように見える。
でも、それは魔女だからか、それでも他の理由があるのか、わからない。
「魔女か……ディアナの近くにいる時は確かにイライラしないし、それが魔女だからって言われると、初めて会ったから納得するしかねえな。だが、それが理由で気に入っているかどうかは、別の話だな」
レオードさんは突然後ろにあった木を引っこ抜いて、遠くに向かて投げた。
投げた先に、「ギャー」と悲鳴が響いた。
恐らく魔族が近づいてきたのだろう。
「俺は最初、ディアナが不気味で気持ち悪かった。触っただけで、今まであったはずの嗜虐心が跡形もなく消えて、自分が作り変えられた感覚だった……こんなの、俺じゃない」
彼はそのまま、平になった地面に座った。
「でも、あいつに傷を癒してもらって、撫でてもらって……苛立ちが消えうせた。あいつにもっと構ってもらいたい……代わりにこんな欲が出てきた」
ディアナから聞いたことがある、レオードさんは狼の魔族だと。
これは、狼としてディアナになついたみたいな感覚かしら。
「たぶん、魔王も、2番のやつも似たようなもんだろう……知らんけど」
「そうか……なんとなく分かった。お前たちは本気で、ディアナ様を大事に思っているのなら、それでいい」
欲しかった回答が得られたバルドは、吹っ切れた様子で立ち上がった。
「食べ終わったら出発しよう。レオードもそろそろディアナ様に会わないと辛いだろう」
私たちは木の実をすべて平らげて、ライアンさんも無理矢理起こして、再びローランド国へ向かって歩き出した。
そこからまた2日、私たちは壁までたどり着いた。
「じゃ、俺は帰るぜ」
「ああ、世話になった」
レオードさんが森の奥に跳び去ったのを見届け、私たちは門へ向き直した。
「やっと、戻って来れたね」
「ええ……城に戻って、何かあっても、僕がステラ様を守ります」
「ふふ、その時は、私もバルドを、みんなを守るよ」
「そりゃあ頼もしいな。頼んだぜ、聖女さん」
「さて、門が開いているといいですが……帰ったらどれくらい仕事が溜まっているやら」
門に手を添え、この長い旅の終わりを刻むように、数える。
「三……二……一」
力を込めて押した門は、あっけなく開いた。
――そして真っ先に映った光景は、群がってきた兵士たちの姿だった。
「勇者バルド・エルメス、戦士カイル、魔法使いライアン・ブルックス。お前たちを、元聖女兼皇女ステラ・ローランド様の誘拐および、許可なく壁を越えた罪で拘束する!」




