幸せを噛み締め
「もうむり……眠い……」
「おいおい、そんなんで森道を歩けるのか」
力尽きたライアンさんの手をカイルさんは肩に回し、ライアンさんの体を支えた。
この一週間、ライアンさんは本当に寝る間も惜しんで、瘴気を貯める装置を作っていた。
無理せずゆっくりしていいとは言ったけど、ライアンさんは『これ以上研究室を空けたら、ウェインに怒られるー』と呟いて、急ぎで装置を完成させた。
そして昨晩やっと、その装置は完成し、デビトに渡された。
やることを終え、ステラたちはさっそく魔王城を発つ準備を始めた。
「ディアナ様、お世話になりました」
「ディアナ、絶対に連絡してね!私もするから!毎日!」
バルドは丁寧に一礼し、ステラは今にも泣き出しそうに目を潤ませていた。
(毎日か……テオ様が拗ねそうね)
「絶対連絡するわ。ステラもバルドも、元気でね」
ステラをぎゅっと抱きしめ、別れを告げた。
「おーい、準備はいいか?早く出発しろよ」
レオードさんは扉の前に立ち、ステラたちを急かす。
ステラたちは国に帰る道がわからないということで、案内役としてレオードさんが同行するらしい。
レオードさんなら、いつも森を駆け回っているし、いるだけで大体の魔族は近寄らないからだ。
私とステラは名残惜しそうにお互いを離した。
「じゃ……行ってきます」
「うん……いってらっしゃい」
ステラたちの背中が徐々に離れていくのを見守る。
やがて姿が見えなくなり、私は寝室に向かった。
そこには、テオ様が座って待っていた。
「もう行ったのか?」
「はい……テオ様、私のわがままを聞いてくださり、ありがとうございました」
きっと勇者と聖女を魔王城に滞在させることは、テオ様にとって好ましいことではない。
それでも、彼は私のお願いを聞き入れてくれた。
私はベッドに近づき、テオ様の隣に座ったが、彼は不満そうに私を膝の上に乗せ、抱きしめる。
その手は私の髪を撫で、少しだけ首筋に触れた。
その感覚がくすぐったくて、そこから熱が広がっていく。
「滞在させるくらい、どうってことない。この城には、空き部屋が山ほどある」
――あの聖女は邪魔だったが……。
テオ様の小さな呟きを、私は聞き逃さなかった。
思わず苦笑いを浮かべる。
(テオ様、いつもステラと口喧嘩してたものね。ステラも、よくテオ様に突っかかっていたし)
テオ様はぐいっと私の頭を引き寄せ、唇を重ねる。
「んっ……」
軽く触れ合ったかと思えば、再び重ねられ、口づけは徐々に深まっていく。
ドキドキが止まらず、テオ様の服を掴む。
彼は片手で私の頭を押さえながら、離さないと言わんばかりに腰を強く抱き寄せる。
息が絶え絶えになってきた時、テオ様はやっと解放してくれた。
熱のこもったその赤い瞳が、間近で私を捉える。
「やっと邪魔者が消えたんだ。しばらく楽しませてもらおう」
テオ様は私の額、頬、耳――様々な場所に口づけを落とし、触れられるたびに甘い熱が広がっていく。
その熱が心地よくて、ステラたちと別れた寂しさが、少しずつ溶けていく気がする。
ステラたちと二度と会えないのは悲しいけれど、彼のそばにいれば、私はきっと幸せを感じ続けることができる。
しばらくテオ様の温もりに身を委ねた後、私はあることを思い出した。
「あの、テオ様、手を出していただけませんか?」
「ん?こうか?」
彼は言われた通り、手を私に差し出す。
私はそれを両手でぎゅっと握り締める。
(ゆっくりと……流し入れるように……)
手から紫の光が放たれ、テオ様の全身へ広がっていく。
「これは……」
「どうですか?体の調子は」
「魔力が落ち着いている。それに……強くなっている気がする」
テオ様が不思議そうに握られた手を見る。
「良かった……ステラたちがいる間も、ずっとアイセルに力の使い方を教わっていたのです。どうやら治療以外に、魔力の流れを滑らかにすることもできるようで、使いこなせば普段以上の力を引き出せるそうです」
テオ様は今でも十分強いけど、アイセルの話によると、強すぎるがあまり操るのが難しくなり、暴走しやすくなっているそうだ。
私の力をうまく活かせば、テオ様の魔力を抑えつつ、扱いやすくすることができる。
(この力を使いこなせば、テオ様のお役に立てるはず)
ぎゅっと握りしめていた手を放すと、今度はテオ様から指を絡めてくる。
「お前は……すごいな」
「えっ」
テオ様は珍しく、柔らかい笑みを浮かべた。
「テオ様、さっき、なにを――」
(すごい?もしかして私を褒めている?テオ様が?)
あまりにも珍しい一言に、頭が一瞬空白になってしまった。
ぽかんと固まっている私の頭を、テオ様は繰り返し撫でる。
「魔力がこんなに落ち着いているのは初めてだ……よくやった」
こんなに柔らかい表情をしているテオ様は初めてで、ようやく接触に慣れてきたというのに、心臓がまた激しく弾み出した。
「どうした?顔が赤いぞ」
「み、見ないでください」
手で顔を隠そうとしても、テオ様は手を離してくれなかった。
逆に私の体をさらに引き寄せてくる。
「お前のこの表情を見ると……知らない衝動が湧き上がってくる……」
「んっ……」
再び距離が埋められ、唇が重なる。
「今日は、手放せそうにないな……覚悟しろよ」
物語を進展させようと考えましたが......ただのイチャイチャ回になりました笑
ちなみにウェインは一瞬だけ登場した、ライアンの若き弟子です




