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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最終章~真相~

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王族の罪

《メイリー目線》

 今ではもうほとんど覚えていないけど、私は普通の家庭で生まれ育った。

 両親はとても優しくて、いい人たちだった。

 私たちは平民として、身の丈にあった、平凡な生活を過ごしていた。


 しかし、私の生活は、5歳を境に一転した。

 家にいきなり兵士が押しかけて来て、私は両親から引き剥がされた。

 山の奥にある、古く小汚い施設に入れられ、そこには私と同じくらい小さい子供がたくさんいた。


 その子たちは、私のように来たばかりで体を震わせていて、泣き叫ぶ子もいれば、何もかも諦めたような、絶望したような表情を浮かべる子もいた。


 そこで私の絶望に満ちた日々が始まった。

 最初にやらされたのは、命を預ける魔法契約だった。

 私や他の子たちは、無理矢理に小さな鏡やガラス、小物を持たされ、その小物と自分の体に同じ魔法印を刻むことで、自分の命をそこに移した。

 刃物で切り刻まれた時も痛かったけど、契約している時は比べものにならないくらい、気持ち悪かったよ。

 五臓六腑が強い力で、引っ張り出されている気分だった。


 契約が終わった後、終わりのない地獄が待っていた。

 毎日山のあちこちを駆け回って、訓練官たちからの攻撃、山で棲む猛獣の襲撃、あらかじめ仕込まれた罠から逃げ回った。

 死ぬ寸前の怪我を負っても、命が物に移されたせいで死ねない。

 食事も訓練に支障をきたさないぎりぎりの程度でしか与えてもらえない。


 訓練の中で、使い物にならなくなった子どもも、次々と出て、その度、山の奥で処分されたのを、私は見ていた。

 その度に、次は私かもしれないと、何回も考えてしまう。


 何年か訓練を続け、私は正式に『コウモリ』の一員となった。

 そこでようやく、少しの自由が生まれた。


 私は任務の隙間時間を突いて、両親と住んでいた家を覗いた。

 そこは空き家になっていた。


 私はずっとその近くに住んでいた住民に、話を聞いた。

 そこでようやく知った。

 ――両親は、私が連れていかれたあの日、国家転覆罪で処刑されたと。

 

 私の両親はただの一般的な平民で、国に不満を持っている話など聞いたことなかった。

 昔の知人からも、2人はそんなことをするような人ではないと言われていた。

 だからすぐ思い至った。

 2人は、口封じのために殺されたんだ。


『コウモリ』は王族専属の秘密部隊だ。

 その存在に少しでも触れた王族以外の人間は、口封じしなければならない。

 王族は、私の平凡な幸せを奪い、両親を殺したんだ。


 その日、私が勝手に持ち場から離れたのが国王にばれて、私は、処罰部屋に呼び出された。

 国王は勝手な行動を取った私を罰するために、私の『命』を宿した鏡を、壊れない程度に、何回も叩いた。

 叩かれる度、体に釘が打たれたような激痛が走った。

 そこで私は悟った。

 どんなに憎くても、私はこの人には逆らえないと。


 しばらくして、私はある命令を下された。

 城に巣くう忌子、ディアナ・ローランドの監視だ。

 

 その頃、ステラ・ローランドは聖女としての鍛錬が始まった。

 国王はディアナ・ローランドがステラ・ローランドに対し、邪な感情を抱くかもしれないと警戒していた。

 だから、何かを企んでいる素振りを見せたら、すぐに報告するようにと命じられた。


 最初はただ感情を殺し、淡々と侍女のふりをしていた。

 実際に会ってみると、ディアナ・ローランドは確かに不気味なほどに、暗い髪色をしていた。

 でもそれがなんだ。

 彼女はきれいな部屋に住み、訓練を強いられることもなく、ただ静かに暮らしていれば、食事にありつける。

 私が欲しかったものを、彼女はすべて持っていた。

 それなのに、いつも自分だけが不幸ですと、まるで悲劇のヒロインみたいに振る舞う。

 それが気に入らなかった。


 最初はほんの嫌がらせだった。

 食事に少しの異物を混ぜ、うろたえる様子を嘲笑ってやろうと思った。

 でも、彼女はうろたえなかった。

 まるで人形のようで、不気味だった。


 王族への憎しみと、彼女への苛立ちが膨れ上がり、嫌がらせがどんどんエスカレートした。

 彼女が腐ったスープを吐き出し、倒れた時、国王にばれたのではないかと、少し焦ったが、何も言われなかった。

 その時、心が久しぶりに弾んだ。

 ――彼女は、見捨てられたんだ。


 なら、私が何をしても、咎められることはない。

 そうして、私は国王に対する憎しみも、世の不幸を知らない能天気な聖女への嫌悪も、悲劇なヒロインを演じている彼女への苛立ちも、すべて彼女にぶつけた。

 その時やっと、私は少しの間だけ、地獄から抜け出せた。


 私の話を聞き終わった彼女は、驚愕したような、泣き出しそうな顔をしていた。

 あまりにも残酷な真実に、彼女は絶句しているようだ。

(いい気味だ……このまま一生、罪悪感に苛まれればいい)


 しかし予想に反して、彼女はすぐ立ち直った。

 「あなたの気持ちはわかりました。お父様が……あの方がそんなことをしているかなんで、思いたくなかったのだけど、それが真実なら、私は心に刻んでおきましょう」

 そして、彼女は意志のこもった眼差しを、私に向ける。

 「しかしステラに対し、傷つけるような行為をしたことを、許す気はありません。あなたには、罰が下されるべきです」


 彼女は後ろに振り向き、後ろで静かに見守っていた魔族の王に顔を向けた。

 「テオ様、これから拷問を行いますよね。少しの間見てもよろしいでしょうか」

 「……なぜだ?」

 「彼女が処罰されるところを、私は見届けなければならないからです」


 魔族の王は少し悩んだ様子だった。

 そこで緑色の魔族が前に出た。

 「魔王様、以前おっしゃっていたご褒美の件ですが、この人間の処罰を、僕に任せていただけますでしょうか?」

 彼は光の籠らない、鋭く漆黒な眼差しを私に向けていた。

 その中に宿るのは、怒りか、嫌悪か。


 「……いいだろう」

 緑の魔族は牢に入り、私の目の前に来た。

 「ディアナ様にあんなことへの処罰とはいえ、ディアナ様に汚いものを見せられない」

 彼は小声で呟き、そして拳を構えた。


 そして次の瞬間、力強い拳が、私の腹にのめり込んだ。

 「がはっ!」

 人間時代で受けたどの拳よりも、何十倍も重かった。

 一撃で、腹にあるものが全部吐き出しそうだ。


 しかしそれだけでは終わらない。

 彼は拳を何度も繰り出し、何度も同じ場所に鈍く重い衝撃を与えた。

 彼は心得ていた。

 どうしたら、より長く、より耐え難い痛みを与えられるのかを。

 殴られる度に、あの地獄を思い出す。

 彼こそが、私の天敵となる魔族かもしれない。


 何分、何十分経ったのか、わからない。

 やがて、彼の動きは止まった。


 「セロくん、ありがとうございます」

 「いいえ、ディアナ様のお役に立てたこと、心から嬉しく思います」


 そして彼女は、魔族の王と緑の魔族と共に、この場を去った。

 なぜか、紺色の魔族と灰色の魔族、2人の魔族を残して。


 「さて、ディアナ様が去ったことですし、本番と行きましょう」

 「お前、運が悪いな、2番目から直々拷問させられるなんて」


 紺色の魔族は、どこからか鞭を取り出した。

 「あなたも鞭使いのようですね。ディアナ様のきれいな背中にあんなに傷跡を残したのですから……さぞ楽しかったのでしょう」


 バン!

 彼は鞭を、思いっきり地面に打った。

 「では、新参者の魔族に、私たちの常識についてお教えしましょう。魔族は魔力で生命維持していて、心臓を貫かれても死ぬことはありません。では、魔族はどのように死ぬのか」


 彼は愉快そうな笑みを浮かべ、その表情はまるで悪魔のようだ。

 「1つは勇者の剣に貫かれること、もう一つは――」


 ――魔力を蓄えないほど、体と心臓が共にバラバラにされること


 一瞬で、背筋が凍った。

 本能が私に告げる。

 ――ここから逃げないと


 「さて、あなたはいつまで耐えられるのでしょうか♪」

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