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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
最終章~真相~

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不気味なナニカ

 作業室の扉を開き、入ろうとした瞬間、ステラとセロくんはすぐ駆け寄って来た。

「どこに行ってたの、ディアナ?」

「そうですよ、今は1人になら――」


 セロくんの言葉は不自然に途切れ、突然険しい表情を浮かべた。


「――危ない!」


 セロくんは私を自分の後ろに引っ張り、テーブルを持ち上げ、盾のように扉に向かって構えた。

 テーブルに置かれていたものが、ガランガランと地面に落ちた。


 その直後、何かがテーブルを切り刻む音がした。


「な、なに!? なにが起こっているの!?」

 ステラは混乱の声を上げた。


 私も不安に駆られ、思わずステラにしがみついた。


 音が止み、セロくんはテーブルを捨て、構えた。

 しかし扉の前には、なにもなかった。

 それでも、セロくんは体勢を崩さなかった。


「――姿を現してください。あなたの位置は把握しています」


 数秒の沈黙が続き、やがて笑い声が響き渡った。


「うふふふふ、ふはははははははは」


 ――鋭く高い、狂気を孕んだ女性の笑い声。


 扉の前の空間が歪み、やがて人の姿が現れた。


 それは、見慣れた姿のはずなのに、不気味なほど変わり果てていた。

 淡い栗色だった短い髪はくすみ、ボサボサの深い茶色になっていた。

 白かった肌には、あざのような紫の斑が所々浮かび上がっている。


 何より、彼女からはレオードさんやデビトさんと似た“何か”が漂っていた。


「うそ……なんでっ」

 ステラは小さく呟く。


 その呟きが現実を突きつけるように、胸の奥から恐怖が込み上げ、体が震え出した。


「やーっと、会えましたね……ディアナ様」

「メ、イリーっ」


 その名前を口にした瞬間、脳内から昔の記憶が次々と襲いかける。


「い……や……いやいやいやいや! 来ないで!!」


 目の前のメイリーの姿が、過去の記憶と重なり、私に迫ってくる。


「ディアナ! しっかりして!」


 誰かが触れようとする気配がした。

 しかしそれさえ恐ろしくて、反射的にその温もりを弾いた。


「いや! 触らないで!」


 恐怖から逃れようと体を抱きしめ、自分を守るように、私は地面に縮み込む。


――――――――


「あっはははは、無様な姿ですね、ディアナ様。可愛がって差し上げた甲斐がありました」

「――黙って」


 セロは地面を蹴り、メイリーに飛びかかった。


「ふんっ」


 その手はメイリーの首を目掛けて伸びる。

 しかしメイリーが手を振り翳した。


 すると、見えない刃がセロを襲った。


 セロは俊敏にそれらを躱し、距離を取るため一歩後退る。


「うそ……なんで? なんでメイリーが、魔法を使えるの!? しかも魔法陣なしに!?」


 ステラが疑惑の声を上げる。


「……この者はもう、あなた方が知る人間ではありません」

「どういうこと?」

「この者から……魔族の気配がします」


 セロは小刀を取り出し、構える。


「あっはははは、今なら分かるよ……あなた、魔族にしては弱いのね」


 メイリーは再び手を翳し、風の刃を飛ばした。

 それをセロは素早く小刀で防ぐ。


 攻撃が止んだ一瞬を逃さず、セロは目にも留まらぬ速さで距離を詰めた。


「なっ!」

「ふんっ」


 メイリーが反応する間もなく、腹に一撃が叩き込まれる。


 そのまま彼女は後方へ吹き飛び、壁が凹むほどの衝撃を受けた。


「くっ!」


 休む間も与えず、セロは小刀を迷いなく心臓へ突き立てた。


「ぐああああ!」


 メイリーの悲鳴が廊下に響く。


「な、んで……なんで、弱いくせに、動けないっ!」

「あなたの魔力はまだ不安定に見えます。これでは脅威になりません」


「うるさいうるさいうるさい! 私は、そこにいる王族どもを――!!」


 メイリーはなんとか手を翳すが、なにも起こらなかった。


「な、んで」


「魔族にとって心臓の傷は致命傷にはなりません」


 セロはさらに深く刃を押し込む。


「しかし心臓は、魔力を蓄え操るために不可欠の器官です。それが損傷した以上、不安定なあなたでは魔法は使えません」


 セロの黒い瞳から感情が消え、ただ冷たくメイリーを見下ろす。


「あなたは生け捕りにするよう命じられています。ここで大人しくしていただきます」

 メイリーは不服そうにセロを見上げるも、魔法が使えない彼女では、圧倒的な力を示したセロに抗う術がない。

 

 やがて複数の足音がこちらへ近づいた。


「これは――」


 先頭にいるアイセルとレオードをはじめ、後ろにいるバルドとカイルが、目の前の光景に驚かされていた。


「軟弱者……そいつはお前が?」

「はい」


 最初に口を開いたのはレオードだった。彼の質問に、セロはただ淡々と答えた。


 するとレオードはセロに手を伸ばし――


「やるじゃねぇか! この俺さえ気配に気づけなかったのによ!」


 セロの頭を思いっきり掴み、揺らす。


「は"な"し"て"く"だ"さ"い」


 激しく揺らされたせいで、セロの声まで震えていた。


「ディアナは!?」


 アイセルはディアナがいるであろう作業室に駆け入る。


 そこには、地面で丸くなって震えているディアナと、どうすればいいのか分からず、隣で心配そうに見ているステラがいた。


「いや……近寄ら、ないで……触ら、ないで」


 脳内に浮かぶ記憶が、消えてくれない。


 全身から冷や汗が流れ、息苦しさを紛らわそうと呼吸を繰り返しても、目の前がますます眩むばかり。


「ディアナ、もう大丈夫だよ――」


 アイセルは手を伸ばす。


(怖い怖い怖い怖い)


「触らないで!」


 その一声にアイセルの契約印が光り、彼は身動きが取れなくなった。


「これは……どういうことだ?」

「バルド! どうしよう、私……どうすればいいのか分からなくて」

「聖女さん、落ち着け……とにかく落ち着くんだ」


 周囲から人の声が騒がしく響き、それさえもディアナには恐ろしくて仕方ない。


「……あの時と、同じだ」


「……」


 レオードの、後悔を孕んだ呟きと共に、セロはディアナに近づいた。


 彼はディアナの前に跪き――ディアナが常につけていたチョーカーへ向かって話しかけた。


「魔王様、ディアナ様がお呼びです」


 チョーカーにあしらわれていた赤い宝石が、強い光を放った。


 次の瞬間、テオがその場に姿を現した。


「これは、どういう――」


 縮こまっているディアナを見て、テオは今にも怒り出しそうに威圧を放つが、作業室の外で拘束されていたメイリーを見て、言葉が途切れた。


 ふわりと、体が暖かい何かに包まれ、宙に浮かんだ。


 そして大きな手が頭を優しく撫で、ディアナの恐怖は徐々に消えていった。


「……あれはお前が捕まえたのか?」

「はい」

「そうか」


 魔王の足元に魔法陣が現れる。


「後で褒美をやろう。その人間を牢にぶち込んでおけ」


 次の瞬間、魔王はディアナと共にこの空間から消えた。

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