物語は動き始める
更新頻度を落とすと言いつつ、書き上げたものがあるので、引き続き更新します。
フェイクをかましたみたいで申し訳ないのですが、筆者がものすごく頑張っているんだと思って、暖かく見守ってください。
「魔王様、こちらが本日の出場リストと、人間の数です」
「うん……例の人間の女はまだ見つからないのか」
「はい……もうすでに時間が経ってしまいましたので、恐らくはもう……」
「そうか……残念だ」
血のように赤いその瞳は、冷たく会場を見下ろす。
――――――
今日が闘技会の日。
ステラとバルドに秘密にすべく、私はライアンさんとカイルさんと作戦を立てた。
私たちが思いついた作戦は――
「ステラ、セロくんのところに遊びに行こう!」
「おい、バルド! 魔王城に鍛錬室があるらしいんだ、俺らと鍛錬しようぜ!」
私はステラを引き連れ、セロくんの作業室に引きこもらせる。
カイルさんはバルドを急遽作ってもらった地下鍛錬室に引き込み、レオードさんと延々と鍛錬させる。
その間、ライアンさんは魔道具の開発に専念しつつ、何か起こった時の伝達役を務める。
つまり、『とにかく外に出させない作戦』である。
なお、鍛錬室は大きめの空室にデビトさんが物をいくつか置き、アイセルの幻覚魔法でそれっぽくしただけの部屋である。
どうか誤魔化されてほしい。
私とステラはセロくんの部屋で、色々見物していた。
「いつも思うけど、ディアナの服、どれもかわいいよね。全部セロくんが作ったの?」
「ええ、そうなの。セロくんの作った物はどれも素敵で、着るのは私で申し訳ないくらい――」
「そんなことありません! ディアナに着てもらえて、僕も服もとても幸せです!」
「あ! この服、まだ作っている途中なのよね。ここに黒いレースをつけたら、もっとディアナに似合いそうだけど」
「確かに……! すぐレースを持ってまいります」
ステラとセロくんが私の服の話題でひどく盛り上がり、気恥ずかしいけど安堵を覚えた。
(これで今日は乗り切れそうね、よかった)
2人がますます熱くなり、やがてステラまで新しい服の考案を始めた。
「ねえ、ペアルックをコンセプトにした服はどうかしら? ディアナとお揃いが着たいの!」
「ディアナ様は落ち着いた青系がお似合いですので、それをパステルカラーにして、同じデザインを他の色にも――」
「いいわね! 袖はふわふわにしましょう!」
(……なんか2人、話が合いすぎじゃない???)
ステラが取られたようで寂しいのか、それともセロくんが私以外の人とこんなに盛り上がっているのが珍しいのか、少しモヤモヤする。
(私も話に入りたいのに、話題が話題なだけに入りづらい)
私はこのモヤモヤを晴らすように、2人に気づかれないよう作業室を出た。
廊下にぽつりと立ち、窓越しに空を見上げる。
「ダメね、私……そんな感情を覚えるなんて」
最近、自分はどんどん欲張りになっていく気がする。
テオ様や魔族のみんなが優しくしてくれて、あまつさえステラとバルドと心おきなく過ごせる毎日がある。
それが私を、どんどんわがままにさせる。
ふと、視線を感じた。
私は慌ててあたりを見回す。
しかし、どこを見ても廊下には私しかいなかった。
「……気のせいかしら」
私は視線から逃れるように、セロくんの作業室に戻った。
再び静かになった廊下。
そこに、愉快そうな笑い声がこだました。
「……みーつけた」
――――――
《バルド目線》
カイルに半ば無理矢理引っ張られ、僕たちは地下にある部屋に入った。
部屋の中には練習用の木刀や、的となる等身大の人形(どこか見た気がする)、いくつかの鉛玉、鍛錬に使えそうな物がいくつも置いてある。
「おー、なかなか広いじゃないか」
「だろう! 鉛玉をここに運ぶの苦労した――」
得意げに語るレオードの口を、なぜかカイルは慌てて塞ごうとする。
「せっかくだ! 木刀で打ち合いしないか、バルド」
カイルは2本の木刀を取り出し、僕に向けて投げた。
木刀を受け取り、僕はそれをまじまじと観察する。
傷一つない、真新しい。
「新しいな……最近入手したものか?」
「あー、ほら! 魔族に刃物は必要ないだろう! だから使われることがなかったのだよ」
なぜかカイルが早口で説明してくる。
(それにしては、埃一つないが……)
「……あと、あの魔族はなんだ?」
等身大の人形が置いてある部屋の片隅を指し示す。
そこには、白い長髪の魔族――アイセルが、その人形に紫色の長い草を頭に乗せ、花や髪飾りをつけて飾りつけていた。
「ふん〜ふふん〜ディアナからの〜♪ご褒美〜♪」
何やらご機嫌そうに鼻歌を歌っている。
そこだけ奇妙な空間が出来上がっていた。
「バルド……悪いことは言わない、あれには触れるな」
カイルは僕の肩を掴み、ただならぬオーラを漂わせる。
「……わかった」
不気味に感じつつ、僕は関わらないことにした。
いろいろ腑に落ちないところはあるが、とりあえず木刀を構える。
「時間を無駄にしたくない。始めよう、カイル」
「おう!」
僕たちは木刀を激しく打ち合っていく。
そこへレオードが「いいぞー」「もっとやれ!」と外野から声を飛ばしてきた。
やがて二人とも汗で体がびしょ濡れになり、一旦休憩を入れることにした。
壁際に寄りかかり、水を飲む。
そこでカイルが話しかけてきた。
「なあ、バルド。なんでこんなに一生懸命に鍛錬するんだ」
どうやら彼は、僕が魔王城にいても鍛錬を怠らない理由が知りたいらしい。
「俺が言っちゃなんだが、今の国は平和そのものだ。魔族の脅威以外、恐れるものがない」
「……僕は、国に帰ったら国王を引きずり下ろすつもりだ」
僕の言葉に驚いたのか、隣のカイルから息を呑む気配がする。
「僕は国王のやり方に賛同できない。何もしていないディアナ様を蔑み、遠ざけ、あまつさえ処刑するなど。僕はどうしても、それが正しいことだとは思えない」
「それは気の毒だけどさ、ある程度仕方なくないか? 実際、国の星神信教の影響が強いし、1人だけ暗い髪色をしていたら、神に嫌われているって思われても仕方ないだろう」
「……僕は、そこが気に入らないんだ」
不快感が込み上げ、思わず声に怒りが滲む。
「信教だけで人を蔑み、見下ろす。それを理不尽だと思わない人たちが不快でならない。しかもディアナ様の父親であり、国を統べる力を持つあの方が、助けるどころか筆頭となって彼女を見下ろす」
胸に溜め込んでいた思いが、波のように押し寄せる。
「僕は、そんな方が王に相応しいとは思えない」
僕の話を聞き終え、言葉を失ったのか、カイルは黙り込む。
そこへレオードが前に立った。
「おい、お前。何をしようが俺には関係ねえが、ディアナだけは連れ帰るなよ」
琥珀色の瞳で、鋭く睨みつけてくる。
「お前たちにとって、ディアナは嗜虐心を緩和する存在だからか?」
この魔王城に来た頃、ディアナ様から説明を受けた。
彼女は特別な力を持ち、魔族の嗜虐心を和らげることができると。
「そんなもん関係ねえ。俺は狩りが好きだし、ディアナがいてもしたいと思ってる。ていうか見えないところでたまにしてる」
この男は、まったく悪びれず言い放った。
「……それなら、なぜディアナ様に執着する?」
「そんなの決まってるだろ。気に入ってるからだよ」
レオードは腕を組む。
「撫でられるとすげー気持ちいいんだ。あと泣き顔も――」
「犬!!」
いつの間にかアイセルが現れ、レオードの服を掴み上げる。
「なんで君がそれを知っているんだ!!!」
「教えるわけねえだろ! 離せ、この猫――!」
今にも喧嘩が始まりそうなその時。
アイセルは、ふと動きを止めた。
ゆっくりと宙を見上げる。
「……ディアナが、危ない」




