葛藤する2人
私生活が忙しくて、更新頻度が落ちそうです......
なるべく間を空けないようにします。
ステラが使っている部屋の前にたどり着き、私は軽くノックをする。
中から「はーい」と呼ぶ声と足音が響き、部屋の扉が開かれた。
「あれ?ディアナ、どうしたの?」
彼女は目を丸くしながら、私の到来に驚いていた。
「お話しがしたくて。少しいいかしら?」
「もちろん!入って」
部屋の中に入り、私はソファに、ステラはその向かいの椅子に座った。
「ディアナは、何を話したい?あ、お茶いる?すぐ持ってくるわね」
ステラはそわそわしている様子で、すぐに備え付けの茶葉でお茶を淹れ、私の前に置いた。
私はそれを一口飲んだ。
「ありがとう、ステラ。とても美味しいわ……ここでの生活どうだった?」
本題を避け、まずは世間話から始めようと、ステラに話題を振った。
「案外快適だったよ。新鮮な食材は期待してなかったけど、食事は結構おいしかったわね。あれはどうなっているの?」
「食材はデビトさんがこっそり人間の国から取り寄せているらしいわ。料理はそれを趣味にしている魔族たちが作っているの。私も何回か教わったことがあるのよ」
「へー、本当の魔族って、想像と全然違うのね。いつも乱暴なことをしているかと思ってた」
ステラはうきうきと話に乗ってきている。
(バルドは心配そうにしていたけど……別におかしなところが見当たらないわ)
「魔族たちとはどうなの?」
「うーん。セロくんは置いといて、あのレオードという魔族とディアナの使い魔とは仲良くなれそうにないかな。デビトさんは丁寧そうだけど……なんか いちいち言葉がとげとげしいんだよね」
一緒にブレスレットを作った時以来、ステラはセロくんと少しずつ話せるようになっているらしい。
レオードさんとアイセルさんとは、見るからに相性悪そうではあるけど……
(デビトさんの言葉がとげとげしい?)
確かに意地悪だと感じた時はあるけど、とげとげしいと感じたことはなかったかな。
「あと、あの魔王、本当に最悪!いつもディアナにベタベタしてるし!私がいると睨んでくるし!本当、ムカつく!」
ステラは眉を顰め、顔を膨らませた。
私は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「……でも、ディアナとずっと一緒にいられて、楽しかったよ」
ステラは柔らかい笑顔を浮かべた。
城にいた頃でも、ずっと一緒にいることはできなかった。
ステラはいつも聖女の鍛錬に取り組んでいたし、周りの目もある。何より私達が会うことに、お父様はいい顔をしなかった。
だからこんなに一緒にいられたのは、ステラがここにいる間だけかもしれない。
「私も、ステラとずっといられて嬉しかったよ」
ステラにつられて、私も笑った。
彼女は私を見て、ためらいながら話す。
「ディアナは……ここが好き?」
突然の質問に戸惑いながらも、素直に気持ちを告げる。
「好きよ」
「……そっか」
ステラは微かに頭を垂れる。その笑顔はほんの少しだけ切なげだった。
「どうしたの?」
その笑顔の意味を知りたいと思い、ステラに問いかける。すると、彼女はいつものように愛らしい笑顔を見せた。
しかしそれは取り繕われた笑顔だと、さっきの表情を見て気づいた。
気づいてしまった。
「ステラ、私、なんでも聞くよ」
彼女は微かに目を見開く。
「なんのこと?ディアナ、どうしたの?」
「……誤魔化さなくていいのよ。ずっと悩んでいたのでしょう。気づいてあげられなくてごめんね」
ステラは城でもここでも、いつも元気そうに笑っていた。だから彼女はすごく強いと思った。
でも、さっき一瞬見せた違和感はきっと、勘違いじゃない。
(バルドはきっと、私よりずっと長く、ステラを見ていたから、すぐ分かったのだわ)
ステラは虚をつかれたのか、顔から笑顔が消え、代わり我慢するように唇を噛んだ。
「……なんでこんなこと言うの?」
彼女の目には、涙が溜め込んでいた。
「言わないようにしてたのに……わがまま言って、ディアナを困らせたくないのに……」
やがて我慢できず、ステラの目から涙が溢れ出した。
「私は、ディアナとずっと一緒にいたいのっ。でも、ディアナはここにいた方が、きっと楽しいでしょう。だからこの気持ちだけは言っちゃいけないって……思ってたのにっ」
「……ん」
ステラの言葉に、胸の奥がぎゅって締め付ける。
私はここに残り、ステラは国に帰る。そしたらよほどの理由がない限り彼女はもう、ここに来ることはない。
ここで別れたら、いつまた会えるか……そもそもまた会えるのかわからない。
「私っ、ディアナを助けたいって、魔族から救うために、ここに来たのにっ……ディアナは全然辛くなくて、むしろ城にいた頃より楽しくてっ……もう、ディアナを連れ戻す言い訳がなくなってっ」
ステラの目からボロボロと涙が溢れ出した。それでも、彼女は嗚咽しながら言葉を吐き出した。
「それが悔しくてっ……気づいたの、私はディアナのためって言い訳にして、本当はただ、ディアナがいないと不安で仕方なくて」
「……何が不安なの?」
彼女の言葉を静かに聞きながら、話を促す。
「私っ、ディアナがいないと、ずっと不安なの……聖女の役目をちゃんと果たしているかって……お父様の期待を裏切ってないかって……いい皇女を演じているかって……ディアナといる時だけ、私は何かを演じなくてもよくて、安心してたの」
ステラは今まで抱えていた弱音を、次々と吐き出す。
彼女の言葉を聞いて、心を痛みながらも、微かな安堵を覚える。
(私にとって、ステラといる時間だけが安らげるように、彼女も私との時間に価値を感じていたのね)
「今回もただディアナに会いたくて、バルドたちにわがまま言って、後先考えずにたくさんの人を巻き込んでしまって……ライアンさんが、自分たちに処罰が下されるかもしれないって言われるまで、気づかなくて」
確かにステラたちがここに残ると決めた時、一瞬ライアンさんはこの事を言及した。
その一言が、ずっと骨のようにステラの中で突っかかっていた。
「ディアナがいないと、いやだよ〜〜わーん」
心につっかえている言葉を全部吐き出せたのか、ステラは大声をあげて泣き出した。
彼女の涙につられて、目の奥が熱くなっていく。
私はステラのそばまで行き、彼女を強く抱きしめる。
一雫の涙が、目からこぼれた。
「……ありがとう、話してくれて」
彼女の悩みを解決する術を、私は持ち合わせていない。
だからせめてこの時間だけ、彼女の悲しみに寄り添おう。
そしてお互い泣き止んだら、どうすべきか一生懸命考えよう。
離れた場所にいても、繋がっていられる方法を。




