SS 犬派?猫派?
この日、ディアナは1人自室で読書を楽しんでいた。
その太ももに、アイセルは猫の姿で寝転がっていた。
「にゃ〜♡」
アイセルはかわいく鳴き、どうにかしてディアナの気を引こうとした。
それでもディアナの目は本から離すことがなく、空いた片手でアイセルの頭を軽く撫でるだけだった。
それだけでも満足したのか、アイセルは喉をゴロゴロさせていた。
しばらくゆったりとした時間を過ごしていると、部屋の外からバタバタと走る音が近づいた。
足音は部屋の前で止み、扉が勢いよく開かれた。
「ディアナ!俺のブラッシングをしてくれ!」
レオードは動物用の櫛を手にし、目をキラキラさせていた。
ディアナはしおりを本に挟み、レオードに目を向けた。
「レオードさん、突然どうしたのですか?」
「実は最近換毛期でな、あちこちむずむずするから、ブラッシングしてもらいたい」
「そうなのですね。したことないのですが、私でよければお手伝いします」
ディアナは柔らかい笑顔を浮かべた。
それを見て、レオードはさらに目を輝かせた。
そして彼は櫛をディアナに渡し、自分は狼の姿になった。
「グゥー〜」
尻尾をパタパタと振らせながら、ディアナを待つ。
ディアナはレオードの毛並みを優しく撫でた後、ゆっくり櫛を通す。
その気持ちの良さに、レオードは徐々にくつろぎ、腹を上に転がった。
「やれやれ、節操のない犬ですね。やすやす腹を見せるなんて。ディアナ、尻尾の毛をとかす時は力を強くした方が気持ちいいよ」
「そうなの?」
アイセルに言われた通りに、ディアナは少し力を込めて尻尾の毛を解く。
「キャン!!」
そしたらレオードは痛みのあまり、体が跳ね上がった。
「ガルガル……」
レオードは唸らせながら、アイセルを睨む。
当の本人はいい気味と言わんばかり、舌を出して知らんぷりをする。
「ご、ごめんなさい。力が強すぎましたか?」
「ディアナが謝ることないよ。それくらいで音を上げるこの犬が弱すぎるだけ」
レオードはこれ以上我慢ならない様子で、すぐ人型に戻った。
「なんだと、このくそ猫!!」
「ディアナ、見た?こんな乱暴な犬に近いちゃダメだよ〜」
「は!?喧嘩売ってんのか、丁度だ!表出ろ!」
「野蛮な犬に使う時間はないから、喧嘩したいなら他あたって」
煽り言葉をペラペラと口にするアイセルに対し、レオードは衝動に任せて突っかかる。
(け、喧嘩!?どうしよう、どう止めれば――)
「ねえ、ディアナはこんな乱暴な犬なんかより、僕とゆったり過ごしたいよね」
「そんなことねえ!お前みてえなくそ気持ち悪い猫より、俺と一緒の方が楽しいだろう」
ディアナがパニックに陥ると、なぜか2人の注意がディアナに移った。
「どうなんだ、ディアナ」
「僕だよね、ディアナ」
「え、えーと……」
(誰か助けて!!!)
コンコン。
この時、ノックの音が鳴った。
「ディアナ様?お見せしたいものがありますが――」
セロは控えめに扉を開き、中を覗き込んだ。
レオードとアイセルが面と向かっていて、その間にディアナが何やら戸惑っている。
「レオード様、何をしたのですか?」
「俺じゃねえよ!」
セロはジーと疑うような目をレオードに向ける。
そしたらディアナはまるで救世主でもあったかのように、セロの元へ駆け込む。
「セロくん!見てほしいものがあるでしょう、行こう!」
そしてセロはディアナに押されながら、2人は共にこの場を去った。
レオードとアイセルを残して。
「君、この魔王城でも信用がないんだね」
「お前ほどじゃねえよ」
「何を言う、僕ほど有能な魔族、なかなかいないよ」
「ふん。お前ほど胡散臭い魔族、2番以外なかなかいねえよ」
「ほー……」
2人は同時に部屋を出た。
魔王城の廊下を早足で歩くと、偶然そこにいるステラを捕まえた。
「おい!人間の聖女。俺とこのくそ猫なら、どっちを選ぶ?」
「当然僕だよね」
「何!?何の話!?」
2人のすごい形相を見て、恐怖を感じながらも状況が掴めないステラは、反射的に聞き返した。
「あー説明するのめんどいな」
「じゃあ犬と猫、どっちが好きでいいよ」
あまりにも雑な返答に、ステラは困惑しつつも、答えた。
「どちらかというと……猫かな……かわいいし」
アイセルは満足気に胸を張り、レオードは悔しそうに「くそ!」と怒鳴る。
「まただ!絶対に俺の方がいいと証明してやる!」
「望むところだ。徹底的に君に敗北を刻み込んであげるよ」
2人はすぐさまその場を去った。頭上にはてなを浮かべるステラを置いて。
そして今回は庭に来た。
そこには素振りしているバルドと、最近動けるようになって、体を動かそうとするカイルがいた。
「おい!人間とも!」
レオードの大きな声に反応し、2人は振り向いた。
「魔族か、僕たちに何の用だ」
「まあまあ、バルド。こうかっかっすんな」
魔族への嫌悪を隠さないバルドに対し、カイルは軽く宥めた。
レオードとアイセルはそれに構うことなく、自分たちの質問を投げかけた。
「犬と猫、どっちのが好きだ?」
「犬と猫、どっちの方が好き?」
突拍子のない質問に、バルドとカイルは呆気をとられた。
「いったい何の話だ」
「いいから答えろ」
レオードに促され、カイルとバルドはそれぞれ自分の考えを述べた。
「俺は犬だな。戦場でも犬の探索能力はかなり役立つぜ」
「僕は……僕も犬かな。あまり接したことはないから何とも言えないか、犬なら一緒に走り込みに行けるのは嬉しい」
今度はレオードが誇らしく胸を張った。
「ほら、見たか!」
「ふん。何で品のない人間たちなんだ。君たちは猫の美しさをまったくわかっていないね」
レオードとアイセルは再び困惑している2人を置いて、この場を離れた。
最後に来たのは書庫だった。
中にはカイルと同じく、少しずつ動けるようになったライアンが、魔導書を手にしながら、デビトと熱く議論していた。
どうやら、ライアンは魔法のあれこれについて、デビトと意見を交わしているらしい。
最初こそ敵同士だったものの、同じく研究者気質の2人はとても気が合うのだ。
そこで書庫に入ったレオードとアイセルを、デビトは気がつき、声をかけた。
「あなたたち、ここで何をしているのですか?」
レオードたちは2人に近づいた。
「人間、君の意見を聞きたい」
アイセルは問いかける。
「犬と猫、どっちの方が好きかな?」
アイセルの静かな圧迫に動じることなく、ライアンは悠々と答えた。
「僕かい?僕は断然猫がいいかな。お世話するのに、研究の時間をあまり割かなくていいのが美点だ」
アイセルは長い髪を尻尾のように揺らし、ニヤリと笑う。
「見たかい、犬。品のある人間は猫を選ぶんだ」
「は!強い人間は犬を選ぶけどね」
2人は火花を散らすように、お互いを睨みつける。
デビトは呆れたような顔で、2人の間に入り込む。
「あなたたち、なに下らないことで言い争っているのですか?暇なのですか」
「こいつがディアナにデタラメを吹き込むのが悪い」
「僕はきれいなディアナを、乱暴で汚い犬に近づかせないようにしただけだよ」
あまりにも不毛な言い争いに、デビトは右目を引きつらせる。
「あなたたち、こんなことでディアナ様を困らせないように。罰として、3日間ディアナ様に会うことを禁じます」
デビトはレオードとアイセルを掴み、罰の魔法陣を刻み込む。
「はあ!おまっ、何勝手なこと!」
「まったくだ!僕はディアナの使い魔だぞ!」
キャンキャン喚く2人を置き去りに、デビトは再びライアンへ向き直る。
「お待たせしました。では、先ほどお話しした、少量の魔力を長時間稼働させる方法について――」
「それより、お2人の体に刻み込んだ魔法陣について、その原理を――」
デビトから魔法陣を解かせることはできないと悟り、レオードとアイセルは苦痛な3日間を過ごすことになった。
レオードが登場してから、ずっとやりたかった話です。
この話のために、アイセルというキャラを入れたと言っても過言ではない!(←過言です)
ちなみになぜ魔族に聞かなかったかというと......魔族は基本自分以外には無関心だからです!
犬猫より自分です!
よろしければ皆さんは犬派か猫派かもお聞かせください(笑)
筆者は猫が好きですが、レオードがバカかわいいと思ってます。
ちなみに魔法陣の効果→ディアナが視界に入ると体に激痛が走ります(ご愁傷様!)




