SS ステラの恋愛講座
ショートストーリーがショートじゃなくてすみません……
「ねえ、ディアナ。ずっと確かめたかったことがあるのだけど」
ステラは切迫した様子、ディアナに顔を近づけた。
「な、なにかしら」
あまりの切迫感に、一滴の汗が頬を伝って流れ落ちた。
やがて、ステラは固い声で、問いかけた。
「ディアナって……魔王とは、その……こ、恋仲、なの……?」
「……えっ?」
あまりにも素っ頓狂な質問に、ディアナの頭の中は一瞬、真っ白になった。
(コイ……ナカ?)
完全にフリーズしたディアナは、数秒後やっとステラの質問の意味を飲み込んだ。
「えっ!ち、違う、そんなじゃないわ!」
「だって、あの魔王、普段はあんなに恐ろしいオーラを出しているのに、ディアナと一緒にいる時だけ、雰囲気が柔らかくなるのよ!どう見てもディアナのこと、特別に思っているでしょう」
ステラの勢いの良さに押されつつ、ディアナは慌てて弁明した。
「それは、私はテオ様のペットのようなものだから、優しくしてもらっているだけ」
ディアナの返答に納得いかず、ステラは思わず「はあああ!?」と大きな声を上げた。
「なにそれ!あんなに甘い雰囲気を出しておいて、ただのペット!?」
「お、落ち着いて、ステラ――」
「認めないわ」
ディアナが宥めようとするも、虚しく、ステラはテーブルを手のひらで思いっきりはたきながら立ち上がった。
「私、そんなの認めない!あの魔王に文句行ってくる!」
「えっ、ちょっと、ステラ!」
慌てふためいているディアナを置いて、ステラはディアナの寝室から出て、勢いよく駆け出した。
パタン!
魔王の執務室が力強く開かれた。
中には、デスクを囲って、何やら話し込んでいるテオとデビトの姿があった。
2人の視線は、扉に手をついているステラに集まった。
「人間の聖女か、何の用だ」
テオははあはあと息を整えているステラに冷たく問いかけた。
「魔王、あなたは……」
「ステラ、ちょっと待っ――」
「ディアナにこ、恋しているの?!」
空気がジーンと静かになった。
ステラに追いついたディアナは、しばらくパクパクと口を動かすことしか出来なかった。
そして思考回路が回復したディアナは、ステラを隠すように抱き着いた。
「な、何でもありません!お邪魔しま――」
「人間の聖女」
今でも執務室から出ようとするディアナの動きを止め、予想外にもステラの質問を掘り下げようとした。
「恋とはなんだ?」
今度はステラとディアナが、ポカンとなった。
「デビト、恋って何なのか、知っているか?」
「人間の書物で得た知識ですが、人間の繫殖本能により生まれた感情で、それにより異性に対し、様々な欲が生まれるだとか。物語ではよく恋で世界を救ったり、逆に滅ぼしたりと」
「なんだそれ、支離滅裂だな」
「ええ、理解しがたい感情です」
呆気にとられていたディアナとステラを置いて、テオとデビトの議論が思わぬ方向へ進んでいく。
その会話を聞き、ステラはぷるぷると体を震え出した。
「な……なっ」
「……ステラ?」
ディアナは不安そうにステラを見る。
そしたらステラは、息を大きく吸い込んだ。
「魔族全員を連れて来て!!!!!」
ステラの一声に、魔族全員が一室の空き部屋に集められた。
テオはディアナを隣に座らせながら、ソファにくつろぎ、その後ろにデビトが控えていた。
レオードとセロは理由も分からず呼ばれたことで、困惑している表情を浮かべていた。
そしてアイセルは退屈そうに壁に寄りかかり、窓の外を眺めていた。
ステラは全員を見回した後、この場を仕切るように大声を出した。
「今からあなたたち魔族に、恋について学んでもらいます。本日を経て、ディアナへの接し方を改めるように」
ステラはどこからか眼鏡(伊達)を取り出し、いかにも教師のように振舞った。
なお、ステラは魔王のみならず、常々魔族たちのディアナへの距離感に疑問といらたちを覚えていた。
魔族たち(特にデビト、レオード、アイセル)は、いつも隙を見てディアナの手を握ったり、撫ででもらおうとしたり、匂いを嗅ごうとしたりと、テオに負けず劣らずディアナとのスキンシップを図ろうとする。
傍らで見ているステラたち人間からすると、破廉恥極まりない光景である。
「いいですか!人間にとって、恋とは、特定の対象に対して特別な思いを抱くことです。相手にドキドキしたり、相手に触れたいと思ったり、逆に安心感を覚えたり。そして2人の思いが通じ合った時は恋人になり、その時にやっと、触れ合うことが許されるのです!」
語尾を特に重くしつつ、ステラは厳しい目線を魔族たちに、特にがっつりディアナの肩に手をまわしているテオに向ける。
「つまり!恋人でもない相手にむやみに触れることは許されないのです!」
ステラの宣言に、魔族たちは理解に苦しんでいる様子だった。
「わからんな。触れたいなら触れればいいだろう。なぜ恋人じゃなければならないのだ」
「私たち人間は、距離感というものを大切にしているのです。特別ではない人に触れられるでも、気持ち悪いとしか思えません」
その言葉に、テオの手はビクッとなった。
「じゃあ、その恋人になれば、好きに触っていいというのか?」
レオードは前のめりになって、ステラに質問を投げかける。
その質問に、ステラはギョッとなった。
「えっ、ええ。そういうことになるわね」
「じゃあ、俺、ディアナの恋人になりたい!そんで、毎日撫ででもらいたい!」
レオードはソファの後ろからディアナに覗き込むが、テオが眉を顰めながら近づく顔を手で押し戻した。
「そういうことでしたら、僕も立候補しましょう。いかがですか、ディアナ様?僕をその恋人とやらにする気はありませんか?」
デビトは前に回り込み、ディアナの手を取った。
「えっ!?」
状況を吞み込めずにいるディアナを置き去りにし、レオードはセロの方に振り向く。
「軟弱者、お前はどうだ」
「ぼ、僕は、ディアナ様と芸術の話が出来れば、それで……」
「そんなんでいいのかよ。お前それでも魔族かよ」
レオードの辛辣な言葉に対し、セロはただ顔を赤らめながら俯いているだけだった。
「そんで、ディアナはどうだ?俺と2番を恋人にするか?」
「えっ?」
「ちょ、ちょっと、なんか違う!」
ディアナは困惑過ぎて言葉が出ず、ステラはすぐ止めに入った。
「恋人はたった一人の特別の人なの!複数人を恋人にすることはできないの!」
「なんだそれ、めんどくせー」
「人間という生き物は、無駄な縛りが多くて非効率的ですね。」
ぶんぶん怒っているステラに対し、レオードとデビトはブーブー反論し、場面は混乱状態に陥った。
アイセルは相変わらず興味なさそうに窓を眺め、セロはただ静かに後ろで控えていた。
(ど、どうしよう。止めた方がいいかな)
ディアナが場面を治めるべきかどうかを悩んでいると、テオは突然立ち上がった。
「聖女、恋人というのは特別の存在だと言ったな」
言い争っていた3人が口を止め、ステラは少し緊張しながら答えた。
「そ、そうだけど」
「なら、これ以上議論する必要はないだろう」
『どういうこと』と、誰もが思っていると、テオはディアナを引き上げ、腰に手を回しながら体を近づけた。
「ディアナ、お前が言ったんだろう……お前の今の一番特別な存在は、俺だと」
「へ!?それは、その……そうですが、そういう意味では――」
「じゃあ、俺がお前の恋人ということだな」
テオはからかうように目を細めた。
そしてもう話すことはないかのように、顔を赤くし今にも爆発しそうなディアナの手を引っ張りながら部屋を出た。
呆然と立ちつくす魔族たちとステラを置いて。
「ちぇ、魔王ずりいな」
「今回ばかりは一本やられましたね」
「君たちもまだまだだね」
「なんだ、アホ猫。ずっと会話に入って来なかったお前は、今更何か言いたい」
「僕たちは魔族だよ、人間の関係性に縛られる筋合いはない。僕はこれまでと同じように、好きなだけディアナを愛でるよ」
そう言って、アイセルもふらりとこの場を去った。
「それもそうですね」
「時間を無駄にしたな」
「……」
デビト、レオード、セロも、次々と退出していく。
ステラはするすると、地面に倒れ落ちる。
「な……な……」
彼女は口を震わせた。
「なんか……思ってたのと違う!!!!」
お察しの通り、ステラはシスコン気味です。
ディアナをテオ様から引き離そうとしたら逆に一本取られました(笑)




