SS 男子会(side勇者)
「なあ、バルド」
「なんだ、カイル」
部屋のソファに座って、剣の手入れをしているバルドに対し、カイルはベッドでくつろぎながら話しかけた。
「バルドって、皇女さんたちとはどういう仲なんだ」
「それ、僕も気になっていたよ」
もう一つのベッドに座り、借りてきた魔導書を読んでいるライアンも、話に入ってきた。
「突然なんだ、この質問は」
「いいだろう~毎日寝て食べるだけの生活で、退屈してんだよ」
「僕は魔導書を読みふける生活もいいけど……そろそろ新しい刺激が欲しいな」
吞気な2人に対し、バルドは思わず溜息を吐く。
「……ステラ様とは、修行を共に乗り越えてきた仲だ」
「ふーん。じゃあ、聖女さんのことどう思ってんの?」
バルドの返答に納得してないのか、カイルはさらに質問を投げつけた。
「どうって、大事な友人と仲間だけど」
「それ以外にないのか?」
「それ以外、とは?」
バルドは困惑した表情を浮かべながら剣を磨く手を止めた。
「恋愛対象として見てるかどうかだよ」
「小さい頃からずっと一緒にいるんだから、そういう目で見ること、一度くらいあるんじゃないかい」
カイルとライアンはニヤリとバルドをからかうように迫った。
そんな2人の圧に押されつつも、バルドは堂々と答えた。
「ステラ様は尊敬すべきお方だ!そんな目で見るわけないだろう」
「はあー、つまんねんの。あんな美人が近くにいるのに、それでも男かよ」
「君にはガッカリだよ、バルド」
正直に自分の考えを告げたバルドに対し、カイルとライアンはただ失望したと言わんばかりに、頭を振る。
(なんで失礼な!ステラ様をこのような目で見るなんで)
思えばバルドは、人生ほとんどの時間、ステラと共に過ごしていた。
力を使いこなすための訓練に勤しんだり、お互いに弱音を吐いたりと、両親よりお互いのことを知っているかもしれない。
だからこそ、相手のこと誰よりも信頼できるし、そういう目で見ることはなかった。
「じゃあ、ディアナ様はどうですか?彼女もステラ様と負けず劣らずの美人でしょう」
はっきりと否定したバルドに対し、ライアンはさらに問いかける。
「ディアナ様は……とても可哀想な方です」
バルドは思わず、ディアナと初めて会ったその日を思い出す。
ステラと共に鍛練を終えた後、ステラはかなり疲れたのか、駄々をこねていた。
『もういやだー!ステラ、聖女になりたくなーい』
『ステラ様、お菓子でも食べませんか?食べたら元気になりますよ』
『ひっく……食べる』
すっかりステラの機嫌の取り方を覚えたバルドは、使用人に甘いお菓子を用意させながら、お茶会に使うテーブルを整えた。
『ステラ、ディアナと一緒にお菓子を食べたい』
『ディアナというのは……』
『ステラ、ディアナを連れてくる!』
バルドの言葉を待たずに、ステラは部屋を飛び出した。呆気にとられたバルドを残して。
そして連れて来られたのは、深い紫の髪をした、慎ましく儚い女の子だった。
この国で暗い髪色を持つ人は初めて会ったから、バルドは思わず珍しさで見つめてしまった。
そんな視線を受けた少女は、気まずく感じたのか、ずっと俯いていた。
『ディアナ、彼は勇者のバルドだよ。バルド、ディアナは私の双子の姉なの!かわいいでしょう』
『バルド・エルメスと申します。ディアナ皇女殿下』
『……ディアナ、ローランドです』
名乗ったきり、その少女は口を開くことはなかった。ステラがどれだけ、鍛練の愚痴を口にしても、お菓子が美味しいと満面の笑みを浮かべても、彼女はただ頭を低くしながら頷くばかり。
そしてお茶会の途中で、ステラは国王に呼び出され、ディアナとバルドだけとなった。
『『……』』
どっちも声を出すことはなく、沈黙の時間が続いた。
やがて使用人の1人が、新しいお茶を持って、入室した。
『勇者様、お茶を新しいお茶でございます』
使用人はバルドのカップに新しいお茶を注いだ後、すぐ部屋から出ようとした。
『……ディアナ皇女殿下には淹れないのか?』
バルドが疑問を口をすると、ディアナはビクッと体が弾み、使用人は困惑した表情を浮かべた。
『えっ、その……』
『彼女のカップにもお茶がないだろう』
『……かしこまりました』
使用人は渋々ディアナのカップに新しいお茶を注ぎ、すぐ退室した。
再び2人きりになった空間で、ディアナはようやく声を発した。
『こ、怖く、ないの?』
『怖い、とは?』
『私の、髪……呪われてる、から』
目の前の少女は何かに怯えているように見えた。
その顔を見て、バルドはどこかもどかしいと感じた。
『ディアナ皇女は、何もしていないではありませんか』
バルドの言葉に、ディアナはポカンと、目を丸くした。
思えば、それをきっかけに、バルドとステラの休み時間に、ディアナと一緒に過ごす機会が増えた。
「ディアナ様は何もしていないというのに……しようとしていないのに、恐れられている。僕はそれが、とてももどかしい」
カイルとライアンはただ静かにバルドの話を聞いた。
「そうか……バルドはやっぱ、真面目だな」
「む、どういう意味だ」
「バルドと皇女たちの恋バナが聞きたかったというのに、そんなに真面目な思い出話を聞かされるとは、思わなかったぜ」
カイルは両手を後頭に回し、ベッドに寝転がる。
「まったくだ。これでは、バルドとステラ様の仲をからかうこともできないではないか」
予想外の反応を見せるカイルとライアンに対し、バルドはムッとなった。
「そういうお前たちは、こういう恋愛話を持っているのか」
「ねえな」
「僕もないね」
あっけないほどの即答だった。
「俺はずっと戦場にいたからな。そもそも大事な人を作らないようにしている……あ、時々娼館には行ってるぜ」
「僕は魔法の研究で忙しいんだ。一分一秒たりとも無駄にしたくない」
(それなのに僕の話で花を咲かせようとしたのか、なんで理不尽な!)
と、バルドは心の中で思わずツッコんだ。




