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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
第二章~魔族 VS 勇者~

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SS ご機嫌取り大作戦

 執務室の椅子に腰掛けたまま、テオは険しい表情で両手を机の上に組んでいた。


「デビト」

「どうなさいましたか?」


 ソファに座り、本を読んでいたデビトが顔も上げずに答える。

 テオは重々しく口を開いた。


「どうしたら、ディアナの機嫌が直る?」

「わかりません」


 あまりにも即答だった。

 テオのこめかみに青筋が浮かぶ。


 先日、諸事情により一日中魔王城を空けていたテオは、帰城して真っ先にディアナのもとへ向かった。


 ――だが、なぜか彼女は口をきいてくれなかった。


 理由を探るため、後にディアナにつきまとっていたアイセルを問い詰めたところ、どうやら彼の失言が原因で、なぜか自分にまで飛び火したらしい。


 それ以来、この数日。

 世話を焼こうとしても、話しかけようとしても、ことごとく避けられる。


 つい先ほども、ディアナは「聖女のところへ行ってきます」とだけ言い残し、テオを置いて行ってしまった。

 そのせいで、アイセルもテオも、深刻なディアナ不足に陥っていた。


「……あのアホ猫。いつか絞めてやる」

 低く呟き、テオは立ち上がる。


「どこへ行かれるのですか?」

「情報収集だ」

 その一言を残し、執務室を後にした。


 テオが向かった先は、セロの作業室だった。

 扉を開けると、なぜか絵を描いているセロの隣に、レオードまでいる。


「魔王様! どうなさいましたか」


 セロは慌てて筆を置き、姿勢を正した。

 テオは部屋の隅で縮こまっているレオードを一瞥し、すぐにセロへ視線を戻す。


「ディアナの機嫌を取りたい。方法を考えろ」

 突然の無茶振りに、セロとレオードは揃って目を丸くした。


「えっと……最近ディアナ様が魔王様を避けている件と関係が……?」

「そうだ。どうにかしろ」


 威圧がじわりと部屋に広がる。

 セロとレオードは顔を見合わせた。


「……失礼ですが、この状況になった原因は何でしょうか?」

「あのアホ猫のせいだ」

「じゃあ、そいつに何とかしてもらったほうが良くないか?」


 レオードが恐る恐る提案する。

 テオはしばし考え込み、やがて頷いた。


「犬。あの猫の居場所を案内しろ」

「お、おう」


 レオードが匂いを辿った先は庭だった。

 木の上では、猫の姿のアイセルがふてくされたように丸くなって寝ている。


「おい、アホ猫。降りてこい」


 アイセルは尻尾をゆらりと揺らし、完全に無視した。

 テオの威圧が一気に増す。

 背後のセロとレオードが震え上がるほどの圧だった。

 次の瞬間。

 テオが手をかざすと、黒い霧が伸びて蔦のように絡みつき、アイセルを木の上から引きずり下ろした。


「にゃっ!」


 地面に落ちたアイセルは悲鳴を上げ、すぐに人型へと変わる。

「ねえ、乱暴はやめてもらっていいかな。見ての通り僕は繊細なんだ」

 嫌味たっぷりの言葉を、テオは完全に無視した。


「貴様のせいでディアナの機嫌が悪い。何とかしろ」

「何とかって……僕も無視されているのだけど」

「知らん。もとはと言えば貴様が提案したことだ」

「君も賛成してたじゃないか」


 二人の口喧嘩が始まる。

 見かねたセロが恐る恐る口を挟んだ。

「あの……人間たちの意見を聞いてみてはいかがでしょうか」


 ぴたり、と空気が止まった。

「人間の意見……だと?」

「はい。ディアナ様も人間ですし、同じ人間なら良い対策があるかもしれません」


 数秒の沈黙。

 次の瞬間、テオとアイセルは同時に城内へ向かって早足で歩き出した。

 セロとレオードも慌てて後を追う。


 バタン!

 勢いよく扉が開いた。

 カイルたちの部屋にいたカイル、ライアン、バルドの三人は一斉に肩を跳ねさせる。


「人間」

 テオが低い声で呼びかける。


「魔族はノックすることもできないのか」

 バルドが鋭い視線を向ける。


 だが、テオはまったく動じない。


「ディアナの機嫌を取る方法を教えろ」

 三人は揃ってぽかんと口を開けた。

 しばし沈黙。

 最初に口を開いたのはライアンだった。

「……もしかして、先日の件ですか?」

「そうだ」

 

 事情を聞いたカイルは苦笑する。

「そりゃ怒るだろ。相当ひどい話だったからな」

 ライアンも真面目な顔で頷く。

「親しい人が自分の傷つけられる光景を見させられ、あまつさえそれがきっかけでその人が傷つけられたから、人間なら、誰でも怒りを覚えると思います」


 その言葉に、テオの表情がさらに険しくなった。

「……では、術はないのか」

「ないことはない」

 カイルがにやりと笑う。

「ここは、人間の仲直りの流儀を伝授してやるよ」


 一方その頃。

 ディアナとステラは食堂でケーキと紅茶を楽しんでいた。


「このイチゴタルト、美味しい!」

「ありがとう。厨房の魔族たちに教わったの」


 和やかな空気の中、扉がノックされる。

「ディアナ様、お時間よろしいでしょうか」

 そこには、どこか緊張した様子のセロが立っていた。

 

 セロに呼ばれ、ディアナとステラは彼について行った。

 案内された先は、カイルたちの部屋。


 扉を開けた先で待っていたのは、テオとアイセルだった。

 ディアナとステラが目を丸くする中、二人はぎこちなく前に出る。

 

 テオはステラに向かって手を組んだ。

「前の件は……すまなかった」

 アイセルも視線を逸らしながら口を開く。

「僕も……ごめんなさい」


 ステラは完全に固まった。

「えっ? あ、えっ……?」


 カイルはからかうように茶々を入れる。

 「どうだ、聖女さん。こいつらを許せるか」

 「えっ、えっと、はい」

 ステラは呆然と頷いた。


 室内の空気が張り詰める。

 そして、ディアナが静かに一歩前へ出た。


「テオ様、アイセル」

 二人を見上げ、優しく微笑む。


「よく……頑張りましたね」

 その笑顔を見た瞬間、テオとアイセルの表情が一気に緩んだ。

 ディアナは知っている。

 魔族にとって、過ちを認めて謝罪することが、どれほど大きな意味を持つのかを。

 たとえ不器用でも、それは確かな歩み寄りだった。


「もう話しかけてもいいよね?」

 アイセルがすぐに擦り寄る。

「ええ。でも、もう同じことはしないでね」

「しないよ。ディアナの大切な人には」


 その言葉にディアナが微笑んだ、次の瞬間。

 ふわり、と体が浮いた。


「テオ様!?」


 いつの間にか、テオに抱き上げられていた。


「……もういいだろう。この数日の埋め合わせをしてもらうぞ」


 そう言い残し、テオはそのままディアナを連れ去っていく。

 呆気に取られる勇者一行と、すっかり見慣れた様子の魔族たちだけが、その場に残された。

この後、ディアナの身に何か起きたのかは……ご想像にお任せします(ニヤリ)

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