私にとっての彼は・俺にとってのあいつは
テオ様に横抱きされ、私は熱くなった頬を両手で何とか隠しながら、大人しく寝室に連れ帰られた。
ベッドの傍にたどり着き、彼はゆっくり私をおろし、ベッドに座らせてくれた。
「ありがとうございます、テオ様」
彼は手で私の頬を包み、しばらく私の顔を見つめていた。
少しいたたまれない気持ちになってきた。
「少し赤いな。やはり無理していたのか」
「いえ!これは、その……」
とっさに否定してしまったけど、まさかステラたちの前でテオ様に抱き上げられたことが恥ずかしい、なんて言えるわけもなく、言い淀んでしまった。
慌てふためく私を見てか、テオ様は私のベッドの縁に座り、近距離で私を観察しだした。
「……体調はどうだ」
「もうすっかり元気になりました。ステラの力って、すごいですね」
「そうか」
2人の間に沈黙が漂った。
(そういえばアイセルに攫われてから寝込むまで、たった数日のことなのに、こうしてテオ様と2人きりになるのは、久しぶりな感じがする)
それほどに、耐え難い時間だった。
瘴気に侵されている間も苦しかったけど。
何より……テオ様たちと過ごす時間が恋しかった。
「……人間の聖女と勇者とは、知り合いだったのか」
「はい。ステラは私の双子の妹で、バルドは幼馴染のような存在です」
(そういえば、テオ様に話したことがなかった……私が人間の領地にいた時のこと)
最初は思い出したくなくて、考えないようにしていたけど、テオ様になら話せる気がする。
テオ様の視線に促され、私はゆっくりと、生まれた時のことを語り出した。
「私は王族の皇女として、ステラと一緒に生まれました。と言っても、私の髪色が原因で、城ではいないものとして扱われ、国民の前に出ることはありませんでした。」
テオ様は私の話を遮ることがなく、静かに聞いていた。
「国では年に一度、10歳以下の男の子を集めて勇者の剣を抜く儀式を行うんです。ちょうど私たちが七歳になった年で、バルドが勇者の剣を抜いたんです。それで彼は勇者として、城に迎えられ、ステラと一緒に力を使う修行をしていたんです」
(懐かしいな。あの時ステラはよく、修行が厳しいとか、もういやだとか言って、お父様の目を盗んで私に泣きついていたっけ)
「それでステラが私に会いに来てくれる時、バルドもついてきたんです。最初は、彼を怖がらせてしまわないか心配でしたが、彼は案外怯えることなく、ステラと同じように接してくれました」
そのことが、当時の私にとって、唯一の救いだった。
話が一段落したのを見て、テオ様は口を開いた。
「お前にとって、勇者は特別の存在なのか」
「そうですね……特別ではありますが、どちらかというと、ステラとバルドのやりとりを見るのが、城にいた頃の唯一の癒しだったのです」
懐かしむ気持ちを胸に抱きながら、私は頭を上げる。
そこには赤色の瞳が、柔らかく真っ直ぐ私を見つめていた。
心臓がドキッとした。
頬が熱くなっていることを誤魔化したくて、顔を逸らそうとするが、テオ様の両手にがっしりと固定された。
「どうして逸らす?」
「えっと、少し気恥ずかしくて」
「何を恥ずかしがっている?」
どう答えればいいのだろうか。
最近のテオ様からの視線が柔らかくて、触れる手付きが優しくて、毎回動悸がおかしくなる。
最初はスキンシップの激しさに戸惑っていたけど、あくまでペットとして扱われていたと思っていたら、動じず受け止められたのに。
だんだんそれが出来なくなった。
(だって……こんなに優しく、割れ物のように扱ってくれるのは、テオ様しかいないですもの)
テオ様はバルドが特別かどうか気にされていたけど……これだけは伝えたい。
「私にとって、今一番特別なのは……テオ様ですよ」
頭が噴き出しそうなくらい熱くなり、何とか目だけでも逸らしてしまう。
テオ様から息を吞む気配がした。
でも、彼の表情を確認する余裕がなかった。
やがてテオ様は私の頬から手を離し、立ち上がった。
「長居したな。お前はもう休め」
「はい……おやすみなさい」
最後までテオ様の正面を見ることが出来ず、私はこの部屋から出る彼の背中を見送った。
――――――――
《テオボロス目線》
バタン。
ドアをそっと閉じ、俺はそれに体を寄りかかった。
『私にとって、今一番特別なのは……テオ様ですよ』
ディアナのこの言葉を聞いた瞬間、胸の奥が妙な暖かさが広がった。
加えて顔を赤らめたディアナに、奇妙な衝動がこみ上げてくる。
それをディアナにぶつけてしまう前に、さっさと部屋から出てきたが、奇妙な感覚が消えない。
思わず手で胸元を掴む。
「随分おかしな表情ですね。ディアナ様と何かありましたか」
デビトがすぐそこから歩いてきた。
俺は誤魔化すように前髪を搔き上げた。
「案内はもう済んだか」
「はい。とにかく空いた部屋に割り当てました。他の案内はセロに任せています」
「そうか」
「人間を餌にせず滞在させるなんて、随分慈悲深いご判断でしたね。それもディアナ様の影響ですか」
「……何とでも言え」
正直、ディアナが言わなければ、勇者パーティーは餌として生け捕りするつもりだった。
でも、あいつが嫌がるとおもったら、そうする気になれなかった。
「……もう一人の女は?」
「魔王城に気配はありません。捜索しますか?」
「ああ。駄犬を使ってでも探し出せ」
「かしこまりました」
白の魔族が作った幻覚で知った、ディアナの過去。
ディアナにトラウマを植え付け、背中に傷をつけた、人間の女。
その女だけは、この手で痛い目に遭わせないと気が済まない。
魔王城にいないということは、隙を見て逃げ出したかもしれない。
人間の体では、魔族の森で長く生きられない。
何としても死なれる前に見つけ出さなければ。
俺にとって、ディアナより優先すべき存在はもう、ないのだから。
ここで第二章は完結です。
ここまでディアナたちの物語を見守っていただき、ありがとうございました。
これで私も心置きなく、ディアナとテオ様のイチャイチャを書けます(笑)
次章で本作品の最終章にする予定です。
その前にSSをたくさん書きたいと思っています。
(イチャイチャとか……犬派と猫派戦争とか……魔族側も勇者側も全員活躍できるように書きたいと思います)
最後まで読んでいただけると幸いです。
もしよろしければ、リアクション・評価・感想をいただける、励みになります。
よろしくお願いいたします。




