ディアナ、覚醒
「協力してください、アイセルさん」
「この瞬間を待っていたよ。やっと僕を頼ってくれたね、親愛なるディアナ。僕はどうすればいいのかな?」
「私に、力の使い方を教えてください。あなたならわかるでしょう」
アイセルさんは私の言葉を聞いて、目を細めた。
「……あの方の声が聞こえたんだね」
「……ええ」
あの方というのは、おそらく夢に出て来た女性のことだろう。
夢で『あの子が教えてくれるわ』って聞こえた時、なんとなくアイセルさんの顔が思い浮かんだ。
2人は深い仲かもしれないと思った。
だからきっと、アイセルさんなら、この力を使いこなす方法を教えてくれる。
「そう……力を使うのは簡単だ。魔力交換を行うように肌を合わせ、力を流し込む。その時に祈りを込めるんだ」
アイセルさんは私の元まで来て、手を持ち上げる。
「一度やってみてご覧」
私は言われた通りアイセルさんの手を握り、体に感じる力を彼に流し込む。
(――助けたい)
そう強く念じた時、手元から強い紫の光が放たれた。
セロくんとレオードさんたちを癒す時より、遥かに強い光が。
「これは……!」
「え、なんで?」
背後から驚くバルドとステラの声が聞こえる。
微かにデビトさんたちの息を飲む気配も感じる。
「上手だ。もっと強く願えば今の魔王にも通じるだろう。うまくいくように、僕もサポートしよう」
「ありがとうございます……デビトさん、私とアイセルさんを、結界の中に入れてください」
私はデビトさんの方に振り向いた。
彼は真剣な表情を浮かべていたが、やがて柔らかい笑みに変わった。
「これがディアナ様の策ですね……わかりました。魔王様の元までエスコートさせていただきます」
デビトさんは魔王がいる方向へ歩き出す。私はその後を追う。
「ディアナ!」
ステラが心配そうな声で、私を呼び止める。
私は立ち止まったけど、振り返らなかった。
「……これは、ディアナがやらないとならないことなの?」
ステラの質問に対し、私は少し思案してから、ステラのほうへ顔を向け、息を吸う。
「……これは、私がやりたいことだよ」
彼女にほんのりの笑顔を見せてから、私は再び歩き出した。
ステラは今度、呼び止めることなく、ただ不安そうに私を見守る。
結界の手前まで来て、アイセルは私の手を取りながら、耳打ちする。
「中は魔王の魔力が充満しているから、僕と手を繋いでいてね。しばらくは中和できるから」
私は返事の代わりにアイセルさんの手を握り、デビトさんに合図をする。
「では、結界に隙間を開けます。魔王様の魔力が漏れ出ないようにすぐ塞がなければならないので、速やかに入ってください」
デビトさんは説明を終えてから、指で結界の表面をなぞる。
そこから細い線が現れた。
デビトさんはその線から結界に人が通れるくらいの穴を開き、私とアイセルはすぐそこを潜る。
結界の中は高濃度の魔力に満ちて、漆黒に包まれている。
少し息苦しさを感じたけど、アイセルさんが魔力を流し込んでくれているおかげで、なんとか耐えられている。
光がない中、私はテオ様を探すために手探りながら前に進んだ。
(どこ?どこにいるの?テオ様!)
結界の範囲はそう広くないのに、暗闇のせいで方向感覚が狂わされている。
「あ゙あ゙……ぐっ」
どこから苦しそうな喘ぎが聞こえる。
でもその音の主の居場所がわからない。
焦燥感に襲われ、私は思わず歩みを早めようとするが、アイセルさんによって引き止められる。
「焦らないで、落ち着いて。魔力の流れを読んで。今の君なら見えるはずだよ」
彼の言葉通り、私は一旦立ち止まる。
一回深呼吸してから、魔力を観察する。
(……これは……これが、流れ?)
今まで霧のように見えた魔力だけど、注意深く見ると、それは波を打っているかのように動いている。
私はその流れを辿り、やがて蹲っているテオ様の姿が見えてきた。
「テオ様!」
私はすぐ彼の元へ駆けつける。
「ディ、アナ……なぜ……ここに」
テオ様は胸元を抑えながら、なんとか私の姿を捉える。
私はすぐテオ様の手を両手で包む。
そして力を流し込みながら、祈る。
(テオ様を助けたい!お願い、助ける力をください!)
手から紫の光が放たれ、乱れていたテオ様の息が少しずつ整っていく。
「ディアナ……お前、何を……?」
結界内の魔力濃度も少し薄れているのを感じる。
(よかった……ちゃんと効いて――)
「ぐっ!」
「ディアナ!?」
強すぎる魔力に悲鳴を上げるように、動悸が激しくなっていく。
それでも祈りを止めるわけにはいかず、私は痛みに耐えながら、テオ様の手を握り締める。
しかし体の限界を訴えるかのように、光は弱まっていく。
(お願い、お願い、お願い……!)
視界がくらくらする。
「ディアナ!無理するな!」
テオ様の声が聞こえる。
それだけでなんとか意識を持ち直す。
ふと、私の両手が、温もりに包まれた。
「ディアナ、焦らなくていいよ。僕がサポートするから」
アイセルさんの柔らかい囁きとともに、両手から彼の魔力を感じた。
その魔力に促され、私の体に秘められていた力もまた、増幅していくのを感じた。
私はもう一度深呼吸し、集中する。
(お願い……テオ様の苦しみを払ってください)
そう祈った瞬間、光が眩しくなり、結界全体を包み込む。
しばらくすると光が収まり、周りに漂っていた魔力が跡形もなく消えていた。
「――で、きた?」
無事にテオ様を助けられたとわかった途端、体から力が抜けて、私はテオ様の懐に倒れ込んだ。
「ディアナ、平気か?」
頭上からテオ様の低く心地良い声が聞こえる。
背中からテオ様の手の温もりを感じる。
久しぶりに感じたその温もりは、とても心地よくて、安心する。
私は少し見上げ、テオ様のきれいな赤い瞳を見つめる。
「テオ様……よかった、ご無事で」
目から涙が溢れそうになるところ、テオ様は優しく私の頬に手を添える。
「ああ……よくやった」
彼の瞳がとても優しく、見たことないくらいの熱が孕んでいるように感じ、静まったばかりの心臓が、今度は違う意味で高鳴り始めた。
お互いなんとなく目を逸らさずにいると、すぐそばから気配を感じた。
「――離れてください、ディアナ様」
そこには鋭い眼差しで睨みつけ、剣先をテオ様に向けている、バルドの姿があった。




