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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
第二章~魔族 VS 勇者~

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魔王、暴走

やっとディアナが起きてくれました

 長い夢を見ていた。

 アイセルさんと魔力交換をしてから、いつも見る夢だ。


「ごめんなさい……ごめんなさい」


 月のように儚く美しい女の人が、涙を流しながら、謝罪の言葉を繰り返す夢。

 彼女はいったい、何に対して謝罪しているのだろう。

 どうしたら……彼女の涙を止められるのだろう。


 ――なんで泣いているのですか?


 心の中で問いかける。

 答えは返ってこないと知りながら。

 しかし女の人は、こちらに振り向いた。


「あの子たちが可哀想だからよ」


 ――なんで、謝っているのですか?


「すべては、私のせいだからよ」


 ――どうしたら、泣き止んでくれますか?


「……あの子たちを、助けることができれば」


 彼女はこちらに手を伸ばした。


 頬が、ぬくもりに包まれた感覚がした。

 周りに白い霧が漂ってきた。

 霧は、夢の終わりを知らせた。


「さあ、お行きなさい……なに……できない……わたしの、かわりに……たすけ……」


 彼女の言葉は所々途切れていた。

 でも、彼女の思いは心に流れ込んできた。


『あの子たちを助けて』


 ――どうすればいいの?


 視界が完全に白に染まる前に、彼女の笑みが見えた。

 体が軽い。

 私は瞼を開けた。

 最初に目に入ったのは、見慣れた天井。


「ディアナ様!」


 すぐそばから、聞き慣れた声。


「……セ、ロ……くん」


 喉が乾いて、声が掠れた。


「お水です!」


 セロくんはすぐに一杯の水を差し出してくれた。

 私はそれを飲み干してから、再び彼を見た。


「……テオ様は?」


「魔王様は……えっと……」


 セロくんはどこか気まずそうに言い淀んでいた。


 悪い予感がした。


「テオ様の元へ、連れて行ってください!」


「し、しかし……ディアナ様は起きられたばかりで……」


「お願い!」

 

 私は有無を言わせない勢いで、セロくんに迫った。


 彼はしばらく悩んでいる素振りを見せたけれど、やがて諦めたようにため息をついた。


「……わかりました。ちゃんと捕まってください」


 彼は私の背と足に手を当て、易々と私を抱き上げた。

 思わず彼の首に手を回した。


 私が彼にしっかり掴まったのを確認し、彼はすぐ走り出した。

 素早く移ろっていく景色を目にしながら、私の頭の中には夢で聞いた最後の言葉が浮かび上がった。


『あの子が教えてくれるわ』


 セロくんは片手で私を抱え、もう片手で謁見室の扉を押し開いた。

 私は扉が開かれた瞬間、彼の名前を叫んだ。


「テオ様!」


 名前の主は、謁見室の中央に立っていた。

 その手にあった黒い魔力の塊は、一瞬にして霧散した。

 彼の赤い瞳は、まっすぐ私を捉えた。


「――ディアナ?」


 私はセロくんに下ろしてもらい、長い間眠っていたせいで酷く凝っていた体を引きずりながら、部屋の奥へ進んだ。


(久しぶりにテオ様の顔が見られた。顔色が少し悪い気がする)


 見慣れた顔に安心を覚えながら、少しでも近づくために進んだ。

 テオ様は驚いているような、泣きたいような、いろんな感情が混ざった表情を見せていた。


 私たちはお互いに手を差し伸べる。

 まるで世界には二人しかいないように。


「……ぐっ!」


 突然、テオ様は苦しそうに胸を押さえた。


「テオ様!」


「ダメです!ディアナ様!」


 テオ様に駆け寄ろうとする私の手を、デビトさんが後ろから掴んだ。


「デビトさん、でも、テオ様が――!」


 テオ様の体から黒いモヤが漂ってきた。

 そのモヤはぐるぐるとテオ様の周りを巡る。


 ガタガタガタガタ。

 

 そのモヤが増えるのと共に、地面が震え、窓が軋む音がした。


 カシャン、カシャン。


 限界を超えた窓が、次々と割れ始めた。


「な、なに!? なにが起きているの!?」


「これはどういうことだ!?」


 すぐそこから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「え!? ステラ? バルド?」


 そこでようやく二人の存在を認識し、私は驚きを隠せなかった。


「私たちはディアナを助けに――それより何がどうなっているの!?」


 再びテオ様に目を向ける。


 彼はすでに濃密な黒いモヤに包まれ、姿がよく見えなくなっていた。


「テオ様!」


 私はデビトさんの手を振り払おうとするが、非力な私にできるはずもなく、ただテオ様が苦しそうにしているところを見ることしかできなかった。


「ディアナ、来るな!……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」


 テオ様は自分が苦しい中でも、私を危険から遠ざけようとした。

 それが酷くもどかしい。


「デビトさん、どうにかなりませんか?」


「……結界を張ります」


 デビトさんは手をかざし、テオ様と黒いモヤを包む丸い結界を張った。


 それと同時に、地面の震えが止まった。


 静まったのを見て、レオードさん、セロくん、そしてステラとバルドも恐る恐る私の方へ近づいた。


「長く持ちません。10分ほどで壊されるでしょう」


「魔王様に何が起きているのでしょうか」


 セロくんは、ここにいる全員の疑問を口にした。


 それに対し、デビトさんは手を顎に当て、考える素振りを見せた。


「恐らく力が暴走しているのでしょう。もう何日もまともに発散していない上に、先ほど力を解放しようとしたのに無理やり中止したのが、暴走の引き金になったと思われます」


 そんな中、ステラはおもむろに手を上げる。


「あの……このまま魔王を放置していたら……どうなりますか?」


 彼女は不安そうな表情を浮かべていた。


 デビトさんは特に気にすることなく、ステラの質問に答えた。


「私の結界でも魔王様には敵いませんので、このまま壊されて、我々もろとも魔王様の暴走に巻き込まれるでしょう。場合によっては余波が人間の領地に届くことも――」


「それはダメだ!僕が魔王を倒して止める!」


 バルドは食い気味に割り込み、テオ様への殺意をあらわにする。


「それはダメ!」


 今度は私が食い気味に反対した。

 バルドもステラも、驚いたように目を見開く。

 

 「ディアナ様……魔族の肩を持つのですか」

 

 バルドは疑いの眼差しを私に向ける。

 その声は、怒りが孕んでいるように感じた。

 でも、私もここで引き下がることができない。


「――私が何とかします」


 今度はセロくんたちも驚きを見せた。


「危険です、ディアナ様!」


「そうだ!ディアナに何かあったら、俺たちは……」


 レオードさんの言葉を止めるように、デビトさんは手を挙げた。


「――策があるんですか? ディアナ様」


「はい……協力してください、アイセルさん」


 私は視線を、始終部屋の片隅で静かに場を見守っていたアイセルさんに向けた。

 彼は満足げに笑みを浮かべた。


「この瞬間を待っていたよ。やっと僕を頼ってくれたね、親愛なるディアナ」

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