茶番劇
《ステラ目線》
何が起きているのだろう。
さっきまでディアナの部屋にいたはずなのに、いきなり霧に包まれて、次の瞬間には謁見室にいた。
そしてメイリーに掴まれていたはずのディアナの姿はどこにもなく、代わりに大きな人形が転がっていた。
さらにメイリーは今、魔王によって首を絞められている。
「あ゙……が……」
メイリーは必死に体を捻り、魔王の手を剥がそうとしたけど、魔王の前では無駄な足掻きでしかなかった。
そしてメイリーの動きが止まった瞬間、魔王はその首を解放し、彼女は地面に倒れた。
「メイ、リー?」
目の前の光景が恐ろしく、私はただ呆然と眺めるしかできなかった。
「その人間は生きているよ」
耳元に、甘い男性の声が流れてきた。
あの白い魔族はいつのまにか、私のそばに来ていた。
私はビクッと体を弾ませ、距離を取ろうと体を反対側に移そうとしたが、体の痛みで思い通りに動かすことが出来なかった。
目の前で甘く微笑む魔族が、段々と恐ろしく見えて、私は声を震わせていた。
「な、なんで、私たちは、ここに……?さっきまで、ディアナの部屋に……」
「いや、君たちは最初から、この謁見室にいたよ」
彼は表情を変えることなく答えた。
「ディ、ディアナは?」
恐怖を抑えながら、私は魔族に問いかける。
彼は面白そうに音を立てて笑った。
「君たちがさっきまで見えていた"それ"なら、地面に転がっているよ」
彼はメイリーの隣にあった人形に、指差す。
確かにあれは、ディアナと同じくらい大きさだけど、髪も顔の作りも、ディアナと似たところなんで1つもなかった。
なのにこの魔族は、それが私たちが会ってたディアナだという。
「どう、いうこと?」
「まだわからない?君は頭が悪いんだね」
彼は指からモヤを放ち、人形に纏わせた。
そしてモヤが散り、そこにはディアナと瓜二つの人間が寝ていた。
「つまり……さっきのディアナは、人形?」
さっきまで私が必死に守ろうとしたディアナは、ただの人形だった。
じゃあ、私は何のために、メイリーに抗ったというのだろう。
いや、それ以前に――
「なんで……あなたが言ってくれたよね、自己は他の魔族と違うって!あなたがディアナに会わせてくれるって!それなのに、なんで!?」
さっきまで恐怖に染めていた心は、じわじわと怒りに変わっていった。
私はただ、ディアナに会いたいだけなのに、なんでこの魔族たちは邪魔してくるのか。
しかし私が怒りをぶつけたにも関わらず、白い魔族はますます笑顔が広がった。
「ふーん、僕の言葉を信じてくれたんだね。人間の聖女って、とーても素直で……バカなんだね」
「……は?」
彼は踊るように体をぐるりと動かし、とても機嫌が良いように目を細めた。
「確かに僕は他の魔族と違って、嗜虐心は強くない……でも、ないわけではないよ。僕はね――」
歩みを止め、彼は私に背を向けながら、視線だけをこちらに向ける。
彼は顔を赤らめ、うっとりと言い放った。
「人間が騙され、絶望する瞬間を見るのがだーい好きなんだ」
絶望だった。
この状況に対してではない。
自分に対してだった。
私は今日、何回自分の無力さを思いしればいいのだろう。
メイリーに騙され、魔王にいいように使われ、挙げ句に魔族を信じてしまうなんで。
心が黒く染まっていく気がした。
「そもそも君たち人間に、ディアナを会わせるわけないのに」
「おい、猫、その人間の聖女を牢に戻しておけ」
「倒れてる人間はどうするの?魔王」
「これは別の場所に置く」
「はいはい。約束、忘れないでね」
白い魔族は私の元に近づき、手を伸ばした――
バタン!
扉が勢いよく押し開かれた音がした。
そこに目を向けると、息が乱れているバルドがいた。
彼はざっと場を見回した。
私とメイリーの姿を捉え、彼の表情はより一層、強張った。
そして中央に堂々と立っている、魔王に剣を向けた。
「……お前が魔王か」
「……貴様が勇者か」
臨戦状態に入っているバルドと対照的に、魔王はただ威圧感を放ちながらそこで立っていた。
バルド険しい表情のまま、魔王に怒鳴りつけた。
「お前か?ステラ様とメイリーを傷つけたのは!」
どうやらバルドはこの状況を見て、私とメイリーは魔王によって満身創痍になったと思ったらしい。
そう考えるのも無理はない。
彼は、メイリーが裏切り者だと、知らなかったから。
「違うの、バルド――」
「許さない!お前も!人間を自分の欲のために痛めつける魔族も!全部僕が粛正してやる!」
バルドにメイリーのことを訴えようとするも、彼は聞く耳を持たなかった。
ただ目の前の魔王に憎しみの眼差しを向けていた。
そして彼は魔王に向かって走り出し、剣をぶつけようとした。
しかしその刃先は、魔王に届くことはなかった。
「……これが人間の勇者か……まだ弱いな」
魔王の周りには見えない結界が貼ってあり、バルドの剣をぶつけてもびくともしなかった。
「正々堂々戦え!魔王!」
「貴様に構えるほど、暇ではない」
魔王は手をバルドに向けた。
そこから小さな火種が集まっていった。
バルドは咄嗟に遠くに跳ねた。
次の瞬間、魔王の手から青い炎が放たれた。
きっとバルドが一瞬でも遅れていれば、灰になっていたのだろう。
それほどの熱が、こちらまで届いた。
「これほどの差があっても、貴様は戦うというのか」
「僕は……戦わないとならないんだ!魔族によって苦しめられた人たちのために、そして僕のために戦っている仲間たちのために!」
「……そうか、だが貴様の仲間たちはもう戦えないそうだ」
魔王の視線はバルドの後ろに向けた。
バルドもその視線を辿り、扉の方へ振り向いた。
「魔王様、勇者御一行を捉えました」
「魔王、言われた通り、死なないように手加減したぞ」
見たことない深く紺色髪の魔族と、正門で会った灰色髪の魔族がそこにいた。
そして彼らは……傷だらけのライアンさんとカイルさんを、地面に放り投げた。




