夢か幻か
そろそろディアナとテオ様にイチャイチャさせたい今日このごろ
《ステラ目線》
抵抗することも出来ず、私とメイリーは牢らしき場所に閉じ込められた。
緑色の魔族がここから離れようとした時、私は慌てて呼び止めた。
「待って!あの子は……ディアナはどうなるの?」
その魔族は、頭を振り返り、感情を見せない目で、私を見つめた。
「……人間には関係ないことです」
そして彼は、すぐこの場を去った。
静かになった空間で呆然と立ち尽くす私は、するすると足が崩れ落ち、さっきの光景をぐるぐると思い返した。
(さっきの魔王、ディアナを優しい目で見てた?だって……魔族は、残虐な生き物で、実際バルドもカイルさんも魔族にもで遊ばれてて――)
「皇女様、しっかりしてください!」
いつのまにか目の前に来て私と目を合わせようとするメイリーの声によって、意識が現実に引き戻された。
「メイ、リー」
「皇女様、気をしっかりに。皇女様はディアナ様を救うに来たのです。魔族なんかに心を惑わせられないでください」
(そうだ。私はディアナを助けたくて……もう一度彼女とお茶を飲んで、他愛のない話で花を咲かせる日々に戻りたくて……)
でももし、ディアナはここの方がいいと言ったら?
もし彼女が、あの悪意に満ちた空間に戻りたくないと言ったら?
そう考えると、目から涙が出そうになった。
「皇女様、ディアナ様を残虐な魔族から救いま――」
「ニャー」
必死に呼びかけるメイリーの声を遮って、一匹の白猫が、いつのまにか隣まで来ていた。
「猫?さっきまでいなかったのに」
メイリーは白猫に手を伸ばそうとしたけど、その猫はするりとかわした。
私とメイリーの間を通り、壁際で足を止めた。
「迷っているのかい」
男性の細く澄んだ声が響いた。
信じがたいことに、その声は猫から発されたと感じた。
次の瞬間、白猫は長身な男性へと姿を変わった。
彼は国でもあまり見ない、純白で滑らかな長髪を一纏めにして靡かせていた。
こっちに振り向くことで見えた琥珀の瞳は猫のようだった。
彼は魔族とは違う、儚さを滲み出していた。
「あ、あなたはいったい、いつ、どこから」
混乱しているメイリーは、途切れ途切れに問いかけた。
でもその男性はメイリーを無視し、私と目を合わせた。
「片割れを助けたいのだろう。なぜ迷っているんだい」
彼は柔らかく甘い声で、私に話かけた。
「なんであなたが――」
――私の片割れを知っているの?
そう聞きたいのに、彼は私の話を遮った。
「僕が手伝ってあげようか」
彼は体を屈め、私に顔を近づけた。
「手伝うって……?」
「僕が、君をディアナに会わせてあげる。僕ならできるよ」
彼はあまりにも柔らかく微笑むから、強張り体から力が抜けていく。
「あなたは、いったい、何者?」
「僕は白の魔族と呼ばれてね。普通の魔族と違って、嗜虐心は強くないんだ。だから怖がる必要はないよ」
白の魔族。
そういえばどこかの文献で、神に近い存在は白を宿うと書かれた気がする。
彼がそうなのだろうか。
私はすっかり薄れた警戒心を捨て、彼を真っ直ぐ見上げた。
「お、お願い!私をディアナに会わせて!私は……ディアナと一緒にいたいの」
彼は満足そうに微笑んだ。
「いいよ、連れでってあげる」
彼の魔力が放たれた気配が感じた時、ずっと傍観していたメイリーは必死に彼に呼びかけた。
「わ、私も連れて行ってください!私には、ディアナ様を救う義務があります!」
「……いいよ。君もついでに連れでってあげる」
彼は少し間を置いてから、メイリーに応答した。
なんとなくだけど、メイリーを見る時の目がさっきより冷たく感じた。
やがて地面に大きな魔法陣が浮かんだ。
魔王の魔法陣とはいくら小さいけど、それでも強い魔力を感じた。
次の瞬間、私は白モヤに包まれた。
モヤが徐々に散っていき、ディアナが寝ているベッドが鮮明に見えてきた。
部屋の中には、あの魔王の姿がいなかった。
「ディアナ!」
私はすぐディアナの顔を覗き込んだ。
「……ん……ステラ……?」
彼女の瞼は少し震え、やがてゆっくりと開かれた。
その月のような銀色の瞳に、私が映んだ。
それだけで、鼻がずんとなり、涙が込み上げてくる。
「っ!ディアナ!」
私は思いっきりディアナに抱きついた。
先まで体調があるかったからなのか、その体は少し冷たかった。
それでも構わず、私は涙を滲ませながら、しばらくディアナを離すことが出来なかった。
「皇女様」
後ろからメイリーの声が聞こえて、私はすぐはっと、ディアナを離した。
「っ!ごめんなさい、私ばかり喜んじゃって。メイリーもディアナに会いたかったよね――」
ディアナの上半身を起こし、彼女の表情を覗く。
彼女はメイリーを見ていた。
目は大きく開き、顔を青ざめていた。
「……な、んで……」
「……お久しぶりですね、ディアナ様」
メイリーはとても優しい笑顔を浮かべていた……その目の奥は、ギラギラと光っていた。
ディアナは瞳と唇を振るわせ、恐ろしいものでも見ているかのように、メイリーを見つめていた。
私はこの瞬間、自分が今まで誤解してたかもしれないと、気づいてしまった。
どうして誰もディアナに近づこうとしない城の中で、ディアナはいつも戦々恐々としていたのか。
どうしてディアナは、何かを食べる時に、必ずゆっくり噛んで確かめてから、飲み込むのか。
どうしてディアナはどこかに座る前に、必ず手でその場所を確かめるのか。
どうしてディアナは、頑なに私の前に、着替えようとしないのか。
どうして父上は、王族の隠密部隊であるコウモリの1人を、ディアナの専属侍女にしたのか。
私はある可能性に気づき、声を震わせながら、メイリーを睨んだ。
「メイリー、あなたは――」
「心から感謝いたします、ステラ皇女殿下」
メイリーは私の言葉を遮り、不気味に微笑んだ
「あなたのおかげで私は、まだ親愛なるディアナ様に再会することができました」




