魔族は……
《ステラ目線》
緑色の魔族に担がれて、私とメイリーは謁見室らしき部屋に連れてこられた。
部屋の中央に行き、私とメイリーは乱暴に地面へ放り投げられた。
「キャッ!」
「っ!皇女様!」
「魔王様、言われた通りお連れしました」
緑色の魔族は跪いた。
私は痛む体を無理矢理起こし、上を見上げた。
階段の先には、全身真っ黒な服を着こなし、すべての色を吸い取ったような漆黒な髪によく映える血のように赤い瞳の男。
黒格好とは相まって、彼がつけているダイアモンドのピアスがキラキラと輝いていた。
この世の物とは思えないくらい美しく、威厳溢れる彼は、冷たい眼差しで私達を見下ろしていた。
その鋭さに、体は本能的に硬直し、震えていた。
「……どっちが聖女だ」
彼は冷たく私達を見下ろしたまま、低く威圧的な声で問いかけた。
何かを話したいのに、震えるあまり声が出ない。
メイリーも同じらしく、ひたすら首を垂れ、震えているように見えた。
「……答える口を持ってないようだな」
あたりの空気がさらに凍った気がした。
それくらい、全身に鳥肌が立っていた。
(……答えないと……答えないと……殺され――)
「わ、わたしで、ございます」
隣からか細い声が聞こえた。
メイリーは、自分こそ聖女だと語った。
(メイリー!?何を考えて――)
私を守るためかもしれない。
でも、部下をこんな風に見殺しにするなんてだめだ。
私はすぐ大きく息を吸い、言い放った。
「い、いえ!私こそ、聖女です!」
声が震えていた。
でも、部下に庇われるなんで、私のプライドが許さない。
「おう、何言ってるのですか、私こそ――」
「もういい」
メイリーの声が、遮られてしまった。
王座から立ち上がったその魔族は、階段から降り、私達の目の前まで来た。
「両方、連れて行く」
その瞬間、大きな魔法陣が現れた。
その魔法陣は赤く光り、体が何かに引っ張れる感覚がした。
次の瞬間、私とメイリー、そして緑色の魔族も、違う空間に来た。
さっきまでいた謁見室から変わり、寝室のような場所に来た。
魔王と呼ばれるその魔族は、部屋の奥にあるソファに座り、ベッドの方を指差した
「治せ、人間の聖女」
指先を辿り、ベッドの上を見上げる。
そこには、人が眠っていた。
深く艶やかな、紫色の髪。
それは――
「ディ……ディア、ナ?」
私が、会いたくて、会いたくて仕方ない相手、彼女はこの部屋のベッドの上で、静かに寝ていた。
私は後ろから突き刺すような視線と、前から無感情な瞳に目もくれず、ゆっくり立ち上がり、ディアナの顔を覗き込んだ。
最後に会ったあの日から、何一つ変わっていない顔立ち、私の人生の片割れが今、ここにいる。
目から、涙が込み上げてきた。
「皇女様……」
隣のメイリーも、信じられないように呟いた。
私は思わず、ディアナに手を伸ばした。
「それに触れるな」
後ろからの威圧的な声に、体がまた震えた。
「触れたら腕を切り落とす。おかしな真似をしたら殺す。貴様はただ、それを治せ」
魔王の言葉を聞き、ディアナを観察する。
(顔が青白い、特に目が窪んでいる。なんとなく息が荒い、何かの病気?)
一瞬、魔族に何かされたのではないかと思ったけど、当の魔族に治せって言われている。
なら、聖女にしか治せない病気……
(もしかして、瘴気?)
私達はブローチのおかげで大丈夫だったけど、もしかしたら瘴気に当てられると、今のディアナのようになるかもしれない。
(魔族の言うことに従いたくないけど……これはディアナのため)
私はディアナに向けて手をかざし、そこから浄化の光を放つ。
光に当てられたディアナから、黒いモヤが引き出され、宙へ消えていった。
5分くらい浄化を行い、ディアナから引き出されるモヤが明らかに減っていた。
(もう少し……もう少し耐えて)
体から力が抜かれていく。
初めて瘴気の浄化を行ったから、予想以上に力が消耗した。
視界がクラクラしてきた。
限界が近づいたその時、やっとディアナからすべてのモヤが消えた。
私は力を使い果たし、その場で足を崩した。
「皇女様!」
メイリーはすぐに私の体を支えた。
「……」
そんな私達を横に、魔王はベッドに近づき、ディアナへ手を伸ばした。
(ダメ!魔族なんかが、ディアナに触れないで!)
「ダ……メッ」
止めたいのに、震える体と本能が言うことを聞かない。
魔王はディアナの頬を指でなぞった。
(なに……これ?)
さっきまで突き刺すような威圧感が一瞬で消えた。
魔王はまるで、壊れ物に触れているかのように、優しく、慎重に。
その目はさっきまでの冷たさがなく、幾分柔らかくなった。
(彼は……魔族でしょう?なのに、なんで……)
私が教えられてきた魔族は、残忍で、冷酷で、自分の欲を発散させるだけのために人間を傷つける生き物なのに。
それなのに、目の前の魔族は人間のように、人間より、ディアナを大事そうに見ている。
(ディアナを残虐非道な魔族から助け出す……そう決心したのに――)
「魔王様。人間たちをどうなさいますか」
緑色の魔族の一言が、私の思考を遮って、一気に現実へ引き戻された。
「牢に入れろ。聖女の方は生かす」
「かしこまりました、もう1人はどうなさいますか?」
「もう片方は――闘技会の餌だ」
(闘技会?餌?どういうこと?メイリーは――)
「キャッ!」
頭がごちゃごちゃになってるのに関わらず、緑色の魔族は再び私達を抱き上げ、どこかへ連れて行った。




