混乱に陥る魔王城、そして白猫の目的
《テオボロス目線》
最近、魔族が続々と殺されていると聞き、俺とデビトはそのことを確認するために、魔王城から出た。
「そこらへんの魔族から聞くに、5人ほどの人間が魔族を討伐しているらしいです」
「……そうか」
「どうしましょう?先に捕らえますか?」
「……いや、必要ない」
魔族が多く殺される分は問題ない。
そもそも魔族は弱肉強食の世界、人間に殺されたのなら自業自得だ。
「しかし5人がパーティーを組んで魔族の森に入り、魔族を殺せたということは、勇者の可能性もあると思われます」
「勇者か……初めてになるな」
俺が魔王になったのは100年ほど前、その時にはすでに『調和協定』が存在しているから、人間側から何かしてくることはなかった。
我々も、特に人間に関わることはなかった。
だからその5人が勇者パーティーというなら……対策が必要になるかもしれない。
「デビト、お前は勇者にも会ったことがあるんだろう。知っていることを教えろ」
「ええ。では魔王城で、対策するとしましょう」
俺たちは転移魔法を使い、魔王城に帰った。
魔王城の謁見室にたどり着いた瞬間、ディアナの召使いが青ざめた顔で走ってきて、跪いた。
「っ、も、申し訳、ありません、魔王様」
「……何があった?」
嫌な予感がする。
「ディアナ様が……連れ去られました」
「……は?」
体の奥の魔力が暴れまわり始める。
それを抑えきれず、黒い何かになって、外に漏れていくのを感じる。
「相手は誰だ」
「っ……白い、猫がおりました……レオード様と同等の、魔力を感じました」
召使いの彼は体を震わせ、頬から冷や汗が次々と流れ落ちた。
「魔王様、少し抑えてください」
「……」
体の中で暴れている魔力を、蓋をするように、強引に抑え込む。
「白い猫……白の魔族ですか、面倒ですね」
「知ってるのか」
「ええ。白の魔族は魔族の中でも謎に満ちた存在ですから。前代の魔王でも、白の魔族だけには、手も足も出ませんでした」
何かを知っている様子のデビトに、さらに迫る。
「そいつは強いのか?」
「……いいえ。戦うこと自体はあまりしない奴らですが、彼らの能力がかなり面倒で」
デビトにしては、珍しく言い淀んでいた。
彼の次の言葉を聞き、俺はすぐに次の行動を取った。
「レオード!」
駄犬が魔法陣から出てきたのを確認すると、続けて言い放った。
「ディアナが攫われた。ここにいる全員で探しに出る。特に駄犬、お前は匂いをたどれ。すぐにでも見つけ出せ!」
――――――――――――
《ディアナ目線》
夢を見た。
大きな月を背に、美しい女の人が崖の上で座っていた。
彼女は悲しそうに、崖の下を見下ろした。
「ああ、かわいそう。ごめんなさい、ごめんなさい」
彼女は、謝罪の言葉を口にしていた。
「あたしのせいだわ、ごめんなさい」
彼女の目から一滴の涙がこぼれた。
彼女はその涙を手で拭き、崖の下へ落とす。
「愛しい子らにやすらぎを……あたしの、せめての贖罪を」
そこで視界がぼやけていった。
「あなたが、あの子らの救いになれますように」
最後に、この一言が聞こえた気がした。
徐々に意識が戻り、私は目を開ける。
周りは暗く、洞窟の中にいるようだった。
「こ、ここは……」
「やっと、目を覚ましてくれた!」
私をここまで連れて来た男の人が、ベッドの傍に座り、私の顔を覗き込んだ。
「あなたは、確か……アイセルさん」
「さん付けなんてよそよそしい、どうか僕のこと、ただのアイセルと呼んで」
彼は目に熱を籠らせ、甘く笑いかけた。
「……ここはどこですか?」
「僕の今の住処だよ。ぜひ僕の女神を招きたいと思って、連れて来た」
私は上半身を起こし、アイセルさんに視線を向ける。
「どうして、私をここに?」
「僕の女神を、魔王城のような野蛮な場所にいさせるわけにはいかないから」
彼の目から悪意が感じ取れず、本当に善意で行動しているように感じる。
「私を、魔王城に帰していただけますか?」
長い間いないと、テオ様達が不機嫌になる気がする。
それにテオ様は強い嗜虐心を抑えるために、私を傍に置いている。
すぐにでも帰らないと。
「……理解できない。女神もあの日でわかったんだろう。魔王城の魔族は、人間を発散の道具にし、暴れ回る野蛮な奴らだって」
彼は心底不可解そうに首を傾げた。
「あの日?やはりあなたは、闘技会の日にあった白猫さん?どうしてあんなこと?」
「覚えてくれたんだね!」
彼はすぐぱっと嬉しそうに笑った。
「あの日は、僕と女神が出会った運命の日!僕は気まぐれに魔王城に入り、有象無象の魔族たちを眺めてやろうと思い、木の上に登った時!女神の美しい姿を見つけたんだ」
うっとりした表情を浮かび、彼はあの日のことを語り出した。
「一目で、僕は君の虜になったんだ。しかし君はかわいそうに、魔王城に閉じ込められている。ここは僕が救い出さなければと思い、あなたを闘技会まで導いたんだ。彼らの正体を知れば、君はきっと目を覚まして、彼らから離れようとすると思って……でも、君は彼らを捨てなかった」
嬉しそうだった彼の顔は、少し暗くなった。
「わかっている。女神は心が広いから、あの者たちから離れられないんだ。だから、僕が囚われた女神を救うんだ」
彼は私の両手を強く掴んだ。
「もう心配いらない。あなたを、二度とあそこに帰さないから」
困った。
話からして、彼は良かれと思って、私を連れだしたんだ。
なら、簡単に帰してくれなさそうだ。
「女神よ。僕と2人で、ここで暮らそう。大丈夫、誰も僕らを見つけることができない。魔王でさえも」
彼の声はとても甘く、思わず聞き惚れそうだ。
しかし、彼の言葉を聞き、私の心は不安で蝕まれていく。




