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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
第四章~新な世界に~

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逃げた先は......

「いやあああああ!!!速い!怖い!降ろしてー!!」

「うるせえ人間!耳元で喚くな!」


 隣で悲鳴をあげるステラとレオードさんの苛立ち声が聞こえる。

 でも私も、2人を宥める余裕はなかった。


 (怖い怖い怖い怖いー!!)

 私は恐怖を消すため、目を閉じて必死にアイセルにしがみつく。


「……犬、ここまで来ればいいんじゃない?追ってくる人間もいないし」

「そうだな。俺もそろそろ耳がギーんってなってきた」


 走るスピードが徐々に落ち、やがて2人は完全に歩みを止めた。


「ほらよっ」

「よっと」

「きゃっ!」

 レオードさんはカイルさんとステラから手を離し、カイルさんは余裕そうに両足を着地させた。

 ステラはバランスが取れず、尻餅をついてしまった。


「ディアナ、大丈夫?」

「ええ……そろそろ降ろしてもいいけど」

 傍らでアイセルは、いつもの笑みを浮かべながら私の状況を確認するけど、降ろしてくれる気配がまったくない。

 むしろ喜んでいるように見える。


「おい、アホ猫!いつまでディアナを抱えているんだ?降ろせ!」

「嫌だな、嫉妬かい?僕が走っている時、ずっとディアナに抱きつかれたからって、嫉妬は見苦しいよ」

「なっ!テメェ、喧嘩売っているのか——」


 隙あれば喧嘩を始めようとする2人に、私は少し辟易していた。

「喧嘩はいいから……早く降ろして〜……」


 やっとアイセルが手を離してくれて、私はふらつきながらもなんとか立ち、周囲を確認する。


 周りには木の小屋が一軒しかなく、その周りには雑草が生え茂っていた。

 そしてその小屋のすぐ前に、井戸があった。


「ここは……」

「この村の水汲み場だな。山のもう少し上のところにきれいな川もあったが、村からだと行くのは面倒だから、井戸の水を使っていたのだろう」

 

 私とカイルさんは、井戸の底を覗き込んだ。

 底が深く、かろうじて水位が確認できるほどの暗さだった。

 落ちるのか怖くて、私はすぐ井戸から離れた。


「とりあえずここには追手がいないけど……井戸がある以上、誰かいつ来るかわかんねぇから、すぐ移動したほうがいい」

「ええ……ステラ、大丈夫?」


 ステラは痛そうにお尻をさすっていた。

「っ……ええ。痛いけど大丈夫みたい。歩けるわ」

「よかった。じゃあさっそく——」


「おや」

 すぐにでも移動しようとした時、掠れた老人の声が聞こえた。

 私たちは一瞬、体が強張った。


「この前来てくれた男前さんたちじゃないか。」

 なんとなく聞き覚えのある声に、私たちは思わずその人の姿を確認した。

 そして驚くことに、彼はまさに2日前に訪れた店のオーナーだった。

 彼は、大きな樽を手に持っていた。水を汲みに来たらしい。


「こんなどこにいて、どうしたんじゃ?水でも汲みに来たのか?」


 その口振りからすると、オーナーはまだ市場での騒ぎが知らないらしい。

 どう答えるべきか思考を巡らせると、カイルさんが率先して前に出た。


「いやー、市場のどこでしくじってな。今追われているんだよ」

 カイルさんはうまく詳細を誤魔化しながら、私たちの状況を説明した。

 でも、その説明だと、変な方向に勘ぐられそうで、ハラハラしてしまう。


「そうかい、それは大変じゃのー」

 幸い、オーナーは軽く聞き流しながら、水汲み作業を始めた。


「よいっしょ……来る時に、少し騒がしいと思ったんじゃが、君たちだったのじゃな」

「いやー、恥ずかしい。お騒がせしたな」


 こんな状況でも、軽い口振りで話せるカイルさんが、とても頼もしく見える。

 

「それにしてもじいさん。そんなに大きい樽、1人で持てるか?手伝おうか?」

「おお、いいのか?」

「ああ、いいぜ!その代わりと言ってばなんだか……少しの間匿ってくれるか?」

 (えっ!)


 思わぬ提案に、私はひどく驚いた。

「カイルさん、それはさすがに——」

「いいぞ」


 またまた予測不能の返事に、目を見開いた。

「サリーもお嬢ちゃんたちに会いたかっているしのう。狭苦しい家じゃが、君らが良ければ」

「まじか!助かる!その代わり、水汲みくらいは俺にやらせてくれ」

「それは助かるのー」


 そうしてカイルさんは水の入った樽を担ぎ、私たちは人の多い場所を避けながら再びお店に訪れた。


「おかえりなさい、おじいちゃん!……ああ!この前のお姉ちゃんたちだ!」

 店の奥には、生活部屋になっていた。

 中央に小さめの四角いテーブルが置かれていて、サリーはそこに座っていた。


 彼女は私たちを見るなり、すぐ駆け寄ってきた。

 マントを被っているはずなのに、なぜ一目でわかったのだろう。

 (マントは目立つからかな……)

 旅人も訪れないような小さな村ではなおさら、マントは悪目立ちするかもしれない。

 そう考えれば、髪色を隠す他の方法も考えた方がいいかもしれない。


「なんでお姉ちゃんたちがいるの?」

「お嬢ちゃんたちが困っていたから、少しの間ここに連れてきたのじゃよ」


 オーナーはサリーの質問に答えながら、カイルさんに樽を置く位置を手で指示した。

「どうもね」

「いいってことよ」


 オーナーは、引き出しからあるものを取り出して、樽の中に入れた。

「ん?何を入れたんだ、じいさん?」

「ああ、これは水をきれいにする石でね。大丈夫だとは思っているけど、うちは一応入れているのじゃよ」


 全員が落ち着いた後、私たちはお互い顔を合わせた。

「少しの間世話になるから、一応名乗っておく。俺はカイルだ。んで、このお姫様たちの世話役みてえなもんだ」

 カイルさんに続き私とステラはマントを外した。

「ディアナと申します」

「ステラです」

 感謝の気持ちを示すため、感謝の気持ちを示すため、私はマントを外した。髪色を染めたとはいえ、誰かに見せるのはやはり一瞬戸惑う。

 ステラがついさっき、髪色で身分がバレたこともあって、なおさら落ち着かない。

(まあ、前回も見られたし。いまさらよね)


 しかし、サリーは相変わらず目を輝かせながら私たちを見ていた。

「ディアナお姉ちゃん……ステラお姉ちゃん……サリーはサリーというの!」

 先日、少し恥ずかしがっていたとはまったく違い、サリーは興奮しているように見える。


 その後ろで、オーナーは優しい笑みを浮かべていた。

「オーディじゃ、よろしくな。そこのお2人さんは——」

 オーディと名乗ったオーナーは、私の後ろに控えているアイセルとレオードさんに視線を向ける。


 アイセルはともかく、レオードさんには会ったことあるはずなのにと、一瞬戸惑ってしまった。

 (そういえば前回、レオードさんはオーナーと話すことなく、始終マントを羽織っていたわね)


 2人を見やると、彼らはつまらなさそうに宙を見ていた。

 2人は魔族だから、人間の礼儀を知らないし、礼儀を尽くすという考えもない。

 ならばと、私は前に出た。


「2人は私の付き添いです。白い髪の彼はアイセルで、マントを羽織っているのがレオードと言います」

 私はレオードさんのマントを小さくつまむ。そして彼の耳元で囁く。

「マントを外してください」


 レオードさんは大人しくマントを外してくれた。

 彼の黒に近かった灰色の髪が、今や白みがかって見えるほど淡い。

 一方で、そもそも髪色を隠す必要のないアイセルは、ただ無表情でサリーとオーディを見下ろしていた。


 2人とも、どう話しかければいいのかわからないのか、それとも単に話すことがないのか、一言も発さなかった。


 そんな2人を、特にアイセルを、サリーはまだキラキラした目を向けた。

 彼女は、私のマントを掴んだ。

「ねえねえ……アイセルはお姉ちゃん?お兄ちゃん?」

「えっ……お兄ちゃん、かな?」


 私はその質問に、少し戸惑っていた。

 そして改めてアイセルを観察する。

 (確かに、アイセルの容姿はどちらかというと中性的ね。体型はとても男性的だけど)


「そっか……アイセルお兄ちゃんも、きれいな人……」

 それを聞いてアイセルは、目を細めて笑った。


「人間にしてはいい目をしているんじゃないか。有望だね、君」

「……うっぜ」

 満足気に笑うアイセルと、その隣で悪態をつくレオードさん。

 2人がここで喧嘩を始めないかハラハラしながら、私たちはしばらくここに隠れることにした。

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