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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
第四章~新な世界に~

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拭えない不安、そして…

初めての外出から二日が経った。


 相変わらず現状に大きな変化はなく、私はアイセルとの練習に励んでいる。

 しかし、その練習にも大きな進展はなく、いつまでこのままでいればいいのか、やはり不安は拭えない。


「デビトさん、あの——」


 私は勇気を出して、もう一度デビトさんに作戦について聞こうとした。

 しかし——


「ディアナ様、ちょうどよかった。もう一度、村に行っていただけませんか?」

「えっ?」


 思わぬ頼み事に、私は呆気に取られた。

 しかし、先日テオ様と交わした約束を思い出し、すぐに断ろうとしたが、なぜかデビトさんにうまく丸め込まれてしまった。


「まあまあ、いつまでも室内に籠もっていると、人間は精神的に不安定になりやすいといいますし、ディアナ様はこれを機にもっと外出してください。魔王様はこちらで誤魔化しますので」


 もっともらしい理由を並べつつ、妙に有無を言わせない強引さで、私は再びカイルさんとレオードさんの外出に同伴することになった。

 そして、同じくステラも戸惑いながら、一緒に出かけることになったらしい。

 ライアンさんは他に調べ物があるらしく、今回は一緒に来なかったが、その代わり、なぜかアイセルが同行することになった。


「けっ、くそ猫も一緒かよ」

「君ばかりディアナと出かけさせるわけにはいかないだろう。大人しく番犬でいることだね」


 テオ様にバレないか、不快にさせてしまわないかと内心ハラハラしながら、後方から聞こえてくるレオードさんとアイセルの言い争いを耳に、私たちは再び村へと降りた。


 入口の木製アーチをくぐり抜け、私たちは真っ直ぐ村の市場へ向かおうとした。

 その途中、大きな掲示板を見かけた。


 普段は紙が数枚、散漫に貼られているだけの掲示板だが、今日は中央に大きな新聞が貼り出されていた。

 その張り紙の存在感があまりにも大きく、私たちはなんとなく近づいた。


 そこには、大きくこう書かれていた。


『オーランド国 国王・皇女兼元聖女 共に失踪』


「っ!」


 文字が視界に入っただけで、体が大きく跳ねた。

 隣にいるステラを見ると、彼女も顔を青ざめさせていた。


 しかし、なぜかカイルさんはあまり動じていなかった。


「おお、ようやくここまで届いたのか」

「カイルさん……私たち、聖堂に帰った方がいいでしょうか?」


 聖女がいなくなったと知られた今、ステラは迂闊に出歩かない方がいい。

 さらに文字を追っていくと、記事には、二人とも何者かによって攫われたと書かれていた。

 その文章の下には、お父様の似顔絵が大きく描かれていた。


 攫った者の特徴やステラの姿絵こそ載っていないが、ステラの姿を知っている人がいつ現れるかはわからない。

 なら、私たちは聖堂で大人しくしていた方が安全に決まっている。


「そうだな……今後はもう少し気をつけなければならないが、今日はせっかく出てきたんだ。皇女さんたちは思いっきり羽を伸ばして——」


 言葉が不自然に途切れ、カイルさんはなぜか、何もないところに視線を向けた。


「どうしましたか?」

「いや、なんだか視線を感じる気がするが……気のせいだろう。とにかく、今日は俺が見ているから、二人はちゃんと楽しんでな」

「……はい」


 カイルさんは私たちを安心させるように笑ってみせた。

 私とステラは不安を残しつつも、頷いた。


「ディアナ、安心しろ! 何かあったら、俺が守るぜ!」

「番犬じゃ心許ないと思うけど、僕もいるから、ディアナは安心していいよ」


 後ろでレオードさんとアイセルが、我先にと私に話しかける。


「うん、ありがとうございます。だけど、ステラの方を守ってくれた方が嬉しいです」


(どちらかというと、ステラの方が危ない状況にいる気がする)


 しかし、二人は特に返事をすることなく、ただ意味深な笑みを浮かべていた。


 そして、私たちは市場にたどり着いた。

 二日前に来た時も、賑やかとは言えなかったけれど、今日の市場はさらに人が少なかった。


 開いている店や屋台も、以前の半分くらいしかない。

 市場を歩く人も、私たちを除けば片手で数えられるほどしかいなかった。


(これは、いったい……)


 一度しか村に降りていない私ですら、どこか違和感を覚えた。


 カイルさんは野菜の屋台の前に行き、そこの店主に話しかけた。


「よ、ばあちゃん。今日はえらく人が少ないな」

「あら、カイルさん。いらっしゃい。そうなのよ。この数日、客がどんどん減っていてね。そのせいで生活が苦しくなってきたわ」

「そりゃご愁傷様……だけど、またどうしてこんなに人が少ないんだ?」


 カイルさんの直球な質問に、屋台のおばさんは首を傾げた。


「そうね……前に、子供たちの間で病気が流行っているって話したじゃない? それが、大人にもかかるようになったのよ」

「それはまた……心配だな」


 カイルさんは心配そうに眉尻を下げた。


「ばあちゃんの体調はどうだ?」

「私はまだ大丈夫だけど……うちの夫がね、最近、息が苦しいと言っているのよ。だから私も、そろそろ不安になってきてね」


 話しているおばさんの目の下には、微かに隈が見える。

 そこから、彼女の苦労と不安が感じ取れた。


 ここでふと、私は気になることに気づいた。


「あの……聞いてもいいですか?」


 私はマントを深く被りながら、カイルさんとおばさんの会話に入った。


「あら、カイルさんのお連れさん? 女の子の知り合いもいたのね」

「おいおい、それは心外だなー。カイルさんにだって、女の知り合いの一人や二人くらいいますよ」


 カイルさんは冗談を口にしながら、私に場所を譲った。


「えっと、旦那様の症状について、もう少し詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

「えっ? ええ、いいわよ」


 おばさんは最初こそ戸惑いを見せたものの、記憶を辿るように、少しずつ話してくれた。


「そうね……ちょうど三日前くらいからかしら。夫がね、体がだるくなってきたと言い始めたの。彼もいい歳だから、時々腰を痛めたり、足が動かしづらくなったりすることがあったから、あまり気にしていなかったんだけど……昨日、急に体が重い、息が苦しいって言い出したのよ。だからすぐお医者さんに診てもらったけど、お医者さんにも原因がわからないって言われてね。今日も夫は起き上がれなくて。本当は私も、彼の傍についていたいけど、生活費が——」


 一度話し出すと、おばさんは堰を切ったように、次々と言葉をこぼした。


 でも、私はその話を聞いて、さらに強い違和感を覚えた。


(体が重い……息が苦しい……)


 気のせいかもしれない。

 他の病気かもしれない。


 でも、それらの症状には、あまりにも身に覚えがありすぎるのだ。


 だから私は思わず、おばさんの話を遮った。


「すみません、旦那様って——」


「だ、誰か! 助けて!」


 しかし私の言葉を遮るように、市場のそう遠くない場所から、助けを求める声が聞こえた。


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