かわいい執着
調達した食材と商品を手に持ち、私たちは聖堂に戻った。
中に入るとすぐ、デビトさんが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、ディアナ様。いかがでしたか?」
彼は私が手に持っていた袋を、何も言わずに受け取ってくれた。
「楽しかったです……でも、特に変わったことはありませんでしたよ?」
デビトさんは何も言わず、私を出かけさせようとしていた。だから、外に出れば何かあるのかもしれないと覚悟していたけど、結局何もなかった。
「そうですか」
しかし、デビトさんはやはり何も言わなかった。
いったいなぜ、私を出かけさせようとしたのだろう。
「あの、デビトさん——」
「では、次のお願いです」
理由を問おうとした私を遮り、デビトさんは次の言葉を言い放った。
「駄々をこねている誰かさんの機嫌を取ってあげてください」
そう言われて私は、魔族たちが使っている部屋に行かされた。
視界に入ったのは、窓辺に座り、窓の外を見つめているテオ様の姿だった。
夕陽に照らされ、黒い髪が赤みを帯びて見えた。
「……ただいま戻りました」
「……」
私はとりあえず挨拶を口にしたが、テオ様からの返事はなかった。
「……テオ様?」
「……」
もう一度呼びかけてみるも、やはり返事がない。
私は窓辺に近づき、テオ様のそばまで来ると、彼の顔を覗き込んだ。
「テオ様?」
頑なに目を合わせてくれない彼は、口元をムッとさせているように見えた。
「怒っていますか?」
「……何のことだ?」
彼は初めて口を聞いてくれた。
私は少し思考を巡らせる。
いったい私の何が、彼を不快にさせてしまったのだろうか。
(そういえば今日、全然テオ様と会って話せていない気がする)
魔王城にいる頃は、私たちは自然と行動を共にしていた。
何せ、私の行動範囲は魔王城内しかなく、テオ様と離れる理由なんて、彼の仕事以外になかった。
しかし今日、私の行動範囲は一気に広がった。
しかも、テオ様の同伴なしで。
「……勝手なことを、してしまったのでしょうか?」
私の外出を、テオ様はどう受け取っているのだろう。
私の質問を聞いて、彼は顔を動かさず、瞳だけを私に向けた。
「……はあ……」
しばらくじっと見つめられた後、なぜかため息をつかれた。
「……?」
テオ様の反応が理解できず、首をかしげると、突然手を引かれた。
バランスを崩した私は、テオ様の膝の上に座らされ、顔を彼の胸元に埋められた。
頭に手を添えられ、腰に腕を回され、まるで身動きを取らせないと言わんばかりだった。
服越しに感じる温もりと、漂ってくるテオ様の匂いに、心臓が徐々に速くなっていく。
「……どこに行っていた」
「デビトさんに言われて、村に……」
大人しく質問に答えると、頭に添えられた手が、ゆっくりと髪を梳くように撫で下ろしていくのを感じた。
それがまた、くすぐったかった。
「金色の髪……」
「村に降りる前に、デビトさんが染めてくださったのです」
国に帰ってきた時も同じように染められたというのに、未だにこの髪色には慣れない。
まるで、自分の髪ではないみたいだ。
ふと、テオ様に撫でられた箇所から、微かな熱を感じた。
すると、髪色が一瞬で深い紫色に戻った。
「俺は、こっちの方が気に入っている」
「っ!……わかり、ました」
テオ様の言葉に、顔が熱くなっていく。
それを悟られないように、私はさらにテオ様の胸元に顔を埋めた。
「……で?」
「……はい?」
頭上から、テオ様に責めるような口調で問われ、私はその意図がわからなかった。
すると、髪を撫でていた手がそのまま顎に添えられ、力ずくでテオ様と視線を合わせられた。
「俺がいないところで、何をして、何があったのか。一から説明してもらおうか」
赤い瞳から、不満がひしひしと伝わってきた。
これ以上テオ様を不機嫌にさせたらどうなるか、想像するだけで恐ろしい。私は慌てて、村での出来事を語り出した。
ライアンさんの提案で、いろいろな素材が置かれた店に入ったこと。
そこで、小さな女の子と少し話したこと。
「その女の子から、髪飾りを買ったんです」
私はドレスのポケットに入れていた、ドライフラワーがあしらわれた髪飾りを取り出した。
「私はお金を持っていないので、結局カイルさんに買ってもらいましたが……」
「ふーん」
テオ様はその髪飾りを持ち上げ、私の髪に飾った。
(そういえば、ステラには似合うって言われたけど……あの時の髪は金色だったし、今は似合わないかも——)
「悪くはないが……人間の男に買ってもらったという点は気に入らない」
テオ様に「悪くない」と言われて、嬉しくなった。
テオ様はあまり嘘をつかないから、素直に褒め言葉として受け取れた。
でも、彼は変わらずムッとしていた。
「楽しかったのか」
「……はい。初めての経験だらけで、新鮮でした」
お店に入るのも、普通の人や子供と言葉を交わすのも、買い物をするのも。
城や魔王城ではできない経験だった。
そう思うと、今日はかなり楽しかった気がする。
「ふーん」
しかし、その答えが気に入らなかったらしく、今度はテオ様が私の体を強く抱き寄せ、私の肩に顔を埋めた。
「テオ様?」
「俺のいないところで、楽しくされると……おもしろくない」
テオ様が喋るたびに髪が揺れ、吐息が首元にかかって、とてもくすぐったい。
「テオ様、ちょっと——」
「次は、俺も行く」
「えっ!」
テオ様が村にいる光景を想像する。
髪色はともかく、こんなにも体が大きく、人間離れした整った顔立ちの男の人が村にいれば——目立つに決まっている。
いろいろな人が暮らしている中心街でさえ注目を浴びたのだから、小さな村ならなおさらだ。
テオ様が目立ち、それが騒ぎになって他の場所にまで伝わってしまうと——非常に困る。
「そ、それは……考え直した方が……」
「嫌なのか」
「嫌というよりは……騒ぎを起こすのは……」
「じゃあ、お前が離れるな。俺の目の届かないところに行くな」
私は少し考える。
そもそも今回は、デビトさんに勧められたから村に降りただけだ。
言われなかったら、おそらく行くことはなかっただろう。
「まあ……誰かに言われない限り、私も外出する理由はないので——」
「言ったな」
テオ様は顔を上げ、私を真っ直ぐ見下ろした。
「言ったこと、忘れるなよ」
「は、はい!」
釘を刺すように強く言われ、私は思わず返事をした。
それを聞いて、テオ様はやっと少し目元を和らげた。
「……反故にしたら、魔王城に帰るのを待たず、番契約をさせてもらうぞ」
「えっ!」
テオ様にここへ来ることを許可してもらうための説得材料が、今ではなぜか私を脅す文句になっていた。
「わかったな」
テオ様に念を押され、私は大人しく頷くことにした。
そこでやっと、テオ様は私を解放してくれた。
(まあ、多分村に行く機会も、そんなにないでしょう)
その時の私は、どこか気楽に考えていた。
しかし予想とは裏腹に、私はすぐにまた村へ行くことになった。




