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人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい  作者: シン
第四章~新な世界に~

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かわいい執着

 調達した食材と商品を手に持ち、私たちは聖堂に戻った。

 中に入るとすぐ、デビトさんが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、ディアナ様。いかがでしたか?」

 彼は私が手に持っていた袋を、何も言わずに受け取ってくれた。

「楽しかったです……でも、特に変わったことはありませんでしたよ?」


 デビトさんは何も言わず、私を出かけさせようとしていた。だから、外に出れば何かあるのかもしれないと覚悟していたけど、結局何もなかった。


「そうですか」

 しかし、デビトさんはやはり何も言わなかった。

 いったいなぜ、私を出かけさせようとしたのだろう。


「あの、デビトさん——」

「では、次のお願いです」

 理由を問おうとした私を遮り、デビトさんは次の言葉を言い放った。

「駄々をこねている誰かさんの機嫌を取ってあげてください」


 そう言われて私は、魔族たちが使っている部屋に行かされた。

 

 視界に入ったのは、窓辺に座り、窓の外を見つめているテオ様の姿だった。

 夕陽に照らされ、黒い髪が赤みを帯びて見えた。


「……ただいま戻りました」

「……」

 私はとりあえず挨拶を口にしたが、テオ様からの返事はなかった。


「……テオ様?」

「……」

 もう一度呼びかけてみるも、やはり返事がない。


 私は窓辺に近づき、テオ様のそばまで来ると、彼の顔を覗き込んだ。

「テオ様?」

 

 頑なに目を合わせてくれない彼は、口元をムッとさせているように見えた。

「怒っていますか?」

「……何のことだ?」


 彼は初めて口を聞いてくれた。

 私は少し思考を巡らせる。

 いったい私の何が、彼を不快にさせてしまったのだろうか。


(そういえば今日、全然テオ様と会って話せていない気がする)

 

 魔王城にいる頃は、私たちは自然と行動を共にしていた。

 何せ、私の行動範囲は魔王城内しかなく、テオ様と離れる理由なんて、彼の仕事以外になかった。


 しかし今日、私の行動範囲は一気に広がった。

 しかも、テオ様の同伴なしで。


「……勝手なことを、してしまったのでしょうか?」

 私の外出を、テオ様はどう受け取っているのだろう。


 私の質問を聞いて、彼は顔を動かさず、瞳だけを私に向けた。

「……はあ……」

 しばらくじっと見つめられた後、なぜかため息をつかれた。


「……?」

 テオ様の反応が理解できず、首をかしげると、突然手を引かれた。

 バランスを崩した私は、テオ様の膝の上に座らされ、顔を彼の胸元に埋められた。

 頭に手を添えられ、腰に腕を回され、まるで身動きを取らせないと言わんばかりだった。


 服越しに感じる温もりと、漂ってくるテオ様の匂いに、心臓が徐々に速くなっていく。


「……どこに行っていた」

「デビトさんに言われて、村に……」

 大人しく質問に答えると、頭に添えられた手が、ゆっくりと髪を梳くように撫で下ろしていくのを感じた。

 それがまた、くすぐったかった。


「金色の髪……」

「村に降りる前に、デビトさんが染めてくださったのです」

 国に帰ってきた時も同じように染められたというのに、未だにこの髪色には慣れない。

 まるで、自分の髪ではないみたいだ。


 ふと、テオ様に撫でられた箇所から、微かな熱を感じた。

 すると、髪色が一瞬で深い紫色に戻った。


「俺は、こっちの方が気に入っている」

「っ!……わかり、ました」

 テオ様の言葉に、顔が熱くなっていく。

 それを悟られないように、私はさらにテオ様の胸元に顔を埋めた。


「……で?」

「……はい?」

 頭上から、テオ様に責めるような口調で問われ、私はその意図がわからなかった。

 

 すると、髪を撫でていた手がそのまま顎に添えられ、力ずくでテオ様と視線を合わせられた。

「俺がいないところで、何をして、何があったのか。一から説明してもらおうか」

 赤い瞳から、不満がひしひしと伝わってきた。

 

 これ以上テオ様を不機嫌にさせたらどうなるか、想像するだけで恐ろしい。私は慌てて、村での出来事を語り出した。

 ライアンさんの提案で、いろいろな素材が置かれた店に入ったこと。

 そこで、小さな女の子と少し話したこと。


「その女の子から、髪飾りを買ったんです」

 私はドレスのポケットに入れていた、ドライフラワーがあしらわれた髪飾りを取り出した。

「私はお金を持っていないので、結局カイルさんに買ってもらいましたが……」

「ふーん」


 テオ様はその髪飾りを持ち上げ、私の髪に飾った。


(そういえば、ステラには似合うって言われたけど……あの時の髪は金色だったし、今は似合わないかも——)

「悪くはないが……人間の男に買ってもらったという点は気に入らない」

 

 テオ様に「悪くない」と言われて、嬉しくなった。

 テオ様はあまり嘘をつかないから、素直に褒め言葉として受け取れた。


 でも、彼は変わらずムッとしていた。

「楽しかったのか」

「……はい。初めての経験だらけで、新鮮でした」

 お店に入るのも、普通の人や子供と言葉を交わすのも、買い物をするのも。

 城や魔王城ではできない経験だった。


 そう思うと、今日はかなり楽しかった気がする。


「ふーん」

 しかし、その答えが気に入らなかったらしく、今度はテオ様が私の体を強く抱き寄せ、私の肩に顔を埋めた。

 

「テオ様?」

「俺のいないところで、楽しくされると……おもしろくない」


 テオ様が喋るたびに髪が揺れ、吐息が首元にかかって、とてもくすぐったい。

「テオ様、ちょっと——」

「次は、俺も行く」

「えっ!」

 

 テオ様が村にいる光景を想像する。

 髪色はともかく、こんなにも体が大きく、人間離れした整った顔立ちの男の人が村にいれば——目立つに決まっている。

 いろいろな人が暮らしている中心街でさえ注目を浴びたのだから、小さな村ならなおさらだ。

 テオ様が目立ち、それが騒ぎになって他の場所にまで伝わってしまうと——非常に困る。


「そ、それは……考え直した方が……」

「嫌なのか」

「嫌というよりは……騒ぎを起こすのは……」

「じゃあ、お前が離れるな。俺の目の届かないところに行くな」


 私は少し考える。

 そもそも今回は、デビトさんに勧められたから村に降りただけだ。

 言われなかったら、おそらく行くことはなかっただろう。


「まあ……誰かに言われない限り、私も外出する理由はないので——」

「言ったな」

 

 テオ様は顔を上げ、私を真っ直ぐ見下ろした。

「言ったこと、忘れるなよ」

「は、はい!」

 釘を刺すように強く言われ、私は思わず返事をした。


 それを聞いて、テオ様はやっと少し目元を和らげた。

「……反故にしたら、魔王城に帰るのを待たず、番契約をさせてもらうぞ」

「えっ!」


 テオ様にここへ来ることを許可してもらうための説得材料が、今ではなぜか私を脅す文句になっていた。


「わかったな」

 テオ様に念を押され、私は大人しく頷くことにした。

 そこでやっと、テオ様は私を解放してくれた。

 

(まあ、多分村に行く機会も、そんなにないでしょう)


 その時の私は、どこか気楽に考えていた。

 しかし予想とは裏腹に、私はすぐにまた村へ行くことになった。


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