表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

第11章:沈黙の雨

「なら、あなたたちに渡すべき情報は、もっとある。私は、あなたたちのためにここへ来たわけじゃなかった。でも──今、考えが変わった」


ライナが微笑んだ。


「それでいい。彼女たちは……世界を変える人たちかもしれないから」


窓の外では、強い風が吹いていた。

時折、遠くで雷が閃き、クラディアの薄暗い空を照らしている。

この地域には、人工気象装置はない。

すべてが、自然のままだ。


ふと、セオが口を開く。


「今日はもう遅い。続きは明日にしよう。……今夜は、うちに泊まっていけ」


ノアが振り向く。

「えっ……泊まってもいいんですか?」


「部屋は狭いけど、雨風はしのげる。どうせ外は嵐だ。今から出発したら、風邪じゃすまない」


ジュリアンが立ち上がり、防寒着を手渡してきた。

「この時期の夜は冷えるからな。……傘も持ってけ。と言っても、布を張っただけの粗末なもんだが」


エレナは軽く笑って受け取る。

「ありがとう、ジュリアン」


外に出ると、すぐに雨の音が全身に降り注いだ。

空は黒く、雲は低く垂れ込め、人工光のない空間は、まるで世界が沈黙しているようだった。


セオが先を歩きながら、ふと振り返った。


「こっちだ。足元に気をつけろよ、ぬかるんでるからな」


ノアとエレナがうなずき、そのあとを歩いていく。

雨は次第に激しさを増し、遠くの空でまた雷が鳴った。


そして──


「……もう20年以上も前のことだ。俺にも、家族がいたんだよ。妻と、娘がひとり」


ノアが立ち止まり、エレナもその言葉に振り向く。


「第4構成区、ルクスで暮らしてた。環境管理局の技師をしてたんだ。空調システムや、気象データの調整とか。地味な仕事だったけど、それなりに……誇りはあった」


セオは、しばらく空を見上げた。雨が、静かに顔を叩く。


「あるとき、区域に汚染警報が出た。けど……事故は起きてなかった。ただの誤検知だった。でも、政府はそれを“口実”にした。封鎖して、住民ごと消した」


その声に、エレナは何も言えなかった。


「妻と娘は、その区域にいた。俺は仕事中だった。……戻らなかった。いや、“戻れなかった”じゃなく、“選べなかった”んだ」


セオの頬を一筋の水が流れる。


だが彼は、手でそれを拭いながら、いつもの調子で言った。


「……雨が、顔に当たっただけさ」


誰もその言葉を否定しなかった。

静かに、家の明かりが見えてきた。


セオは扉の鍵を開け、振り返った。


「ここが、今の俺の家だ。狭いけど、雨風はしのげる。……さ、入れ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ