愛の戦士マジキュア
マジキュアダークは絶叫し、両手を放した。
そして、拳を握り直してファイヤーの顔面に叩き込んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ファイヤーは頬に拳が突き刺さったまま、一気に前進した。
その勢いに吹っ飛ばされるダーク。
「ダークネスハイエナジーチャージドパーティクルズ!!」
「マジカルハイエナジーチャージドパーティクルズ!!」
距離が開いた瞬間、二人は同時にエネルギーを全開にした。
燃え上がるは、命の輝き。
太陽の戦士、マジファイヤー。
吹き上がるは、死の呪い。
暗黒の戦士、マジキュアダーク。
真逆のベクトルが、ぶつかり合う。
「ダークネス崩拳!!!」
「マジカル崩拳!!!」
拳が正面衝突し、正負の熱量が炸裂。
膨大な余波がまき散らされた。
闇の全エネルギーをつぎ込んだ一撃をまともに受けたマジファイヤーの肘から肩から血が噴き出す。
だけど――
「うあああああああああああああああああああ!!!!」
ファイヤーは止まらない。
拳を更にえぐりこんで、腕をはじき飛ばす。
そしてがら空きの胴体を抱きしめた。
ロマンチックさの欠片もない抱擁。
むしろ、それはベアハッグに近かった。
「マジカルサンフラウア!!」
ファイヤーは足元にひまわりを生み出すと、それを蹴ってマジキュアダークごと飛び上がった。
「いい加減、もう目は覚めてんだろ!!」
はるか上空まで打ち上がると、関節を極めるとエビ反りのように体をロックして、そのまま一気に地面に落下した。
「マジカルメテオバスターアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
強烈な断熱圧縮で体が赤熱し、まさに隕石のように燃え上がる。
そのまま、第一宇宙速度にも匹敵するスピードで地面に叩きつけられる。
「ガハアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
余りの衝撃に、落下地点の道路が消し飛び、四方八方のアスファルトがめくれ上がる。
そうして生まれた巨大なクレーターの中央に、私は突き刺さっていた。
マジキュアの攻撃は全て浄化のエネルギー。
破壊力=浄化力。
ぐうの音も出ないほど、私は浄化されていた。
されてしまって、いた。
もうマジキュアの姿ですらない。
私は、その場に倒れこんだ。
「殺して……」
正気に戻った私の願いは変わらなかった。
「なんでだ?」
潮も、すでにマジキュアの姿ではない。
「……私は取り返せないことを……してしまったから」
「そんなもんはないさ」
「貴方には……わからないわ」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないぞ」
「誤魔化さないで……私は、ダメなの。貴方のように、ホンモノのマジキュアじゃなかった。深く考えもしないでヒーローの席に飛びついただけのミーハー……」
「違うな」
「え?」
「ヒーローってのは、その席に座ったやつが、そうなるしかないものさ。そこにホンモノもニセモノもない。真白は、マジキュアだよ」
なぜか、その言葉は体の細胞じゅうに染み渡った。
言葉に、言い知れない重さがあった。
だからこそ、振り払う。
「……違う。違う。私がなりたかったのは……私を救ってくれたヒーローだったのよ。きっと。ずっと救われたいと思ってたんだ……あの地獄の焼野原で私を救ってくれたヒーローに……そのヒーローになることで、私を救いたかったんだ……! 最低だ! 私……!」
「そのヒーローっていうのが誰だかわからんが、そんな大層なもんじゃないと思うぜ? そいつだって俺たちみたいに悩んで、その中で真白を助けたのかもしれない」
いいじゃないか、と潮は言う。
「……え?」
「まず自分を救ってしまえばいいんだよ。そしたら誰かを救う余裕もできるさ」
「自分を……救ってもいい?」
「ああ、そうさ。もういいだろ。真白はがむしゃらに戦ってきたし、そのことで救われたやつだっていっぱいいる。それは認めても、いいんじゃないか?」
「……もう……!」
なんで。
なんでそんなに……
「優しすぎるよ……貴方……」
「ああ、愛の戦士マジキュアだからな」
「ははっ」
笑ってしまった。
そうなったら、もう私の負けだ。
笑っちゃったら、仕方ない。
全身から力が抜けていくのがわかる。
「暴れたし、すっきりしただろ?」
「……そうかもね」
潮の差し出した手を掴んで起き上がる。
「じゃあ、残る問題は、アレだな」
「アレ?」
「ほらアレだよ。とんでもない闇のパワーが集まってる」
潮が指さしたのは、空に浮かぶ雲の塊。
それは、“世界”がアルカナの力で生み出したもの……のはずだった。
「なにあれ……」
雲は、マジキュアダークのまき散らした闇を、ヤミニストの力すら巻き込んで肥大化していた。
とんでもなく巨大な黒の領域が、空を食いちぎり始めている。
あれは、形を持った暗黒だ。
一つの街を丸ごと飲み込むくらいに肥大化した「地獄の窓」だ……!!
人が触れてはいけないものだ。
だというのに――
「行くだろ?」
それをまた貴方があんまりにも簡単に言うものだから。
「そうね。私も、ヒーローだものね」
行くしかない、か。




