マジキュアダーク
マジキュアダークはこれまでのヤミニストとは比較にならないほどの怪物だった。
反転したマジキュアの力を使うことができるうえ、巨大なん散漫に暴れる普通のヤミニストと違い、人間大で絶対の破壊意志に従っていたのだ。
誕生の瞬間に猛烈な闇の気を放った私は、周囲数キロにわたって人々を気絶させてしまったが、これも普通のヤミニストとは比べ物にならない規模だった。
信号機を引き抜き、棒切れで遊ぶ子どものように車を叩き割り、道路を引っぺがす。
バスをアコーディオンのように潰し、コンビニを真っ二つに断ち切る。
マジキュアだけではなく闇の力を得た私は、恐るべき破壊力をもって街を蹂躙した。
「ヤッチャエ、ヤッチャエ!」
囃し立てるダリーダリーさえ不快で。
「ヘブッ!?」
ぶん殴って吹っ飛ばした。
生きているかどうかもわからない。
幹部も、関係ない。
ただただ暴れまわるだけの猛威。
それがマジキュアダーク。
だけど私の理性は、どこか冷静だった。
体は勝手に動いて破壊を始めてしまう。
でも自分はそんな体の斜め後ろの空に浮いているような感覚。
止めることのできない悪逆を、傍観していた。
思考は冷静かもしれないが、私の胸にある破壊衝動は否定できなかった。
もう何もかも壊れてしまえ、そう思ってしまう己を、自覚できてしまう。
あれほど嫌悪した破壊を。
悪を。
他でもない自分が。
耐えられない。
気が狂いそう。
誰か、私を止めて。
出来ることならもう――
「コロシテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
絶叫、した。
きっとそれは、この理性と感情が一致した瞬間だった。
だけど。
「そういうわけにもいかんだろーよ」
それは、私の目の前に立った。
真っ赤なジャケットを羽織り、街じゅうの人間が倒れるなか、ただ一人立つもの。
それは私の相棒で――
「ピュアフルパワー、フィーリング!!」
赤井潮は叫び、変身した。
太陽の力をまとう、正義の化身・マジキュア・マジファイヤーに。
燃えるような赤が歩いてくる。
ああ、あれこそ、私が憧れたヒーローだ。
私が憧れてしまったものだ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
マジキュアダークが獲物を見つけて飛び掛かる。
マジファイヤーはよけようとせず、手四つに組み合った。
ヤミニストの力をプラスしたマジキュアダークの力は、圧倒的だ。
まともに組み合えば、ファイヤーでも敵う相手じゃない。
だというのに、ファイヤーは……潮は呑気だった。
「あー、まぁ、そういう気分になるときはあるよなぁ。ぜーんぶ投げ出したくなる時とかよ。ヒーローって大変だよなあ」
みしみしと掌の骨が音を立てているのに、なんでそんなに平然としていられるの?
「でもな、自分がヒーローなっちまったのは、もうどうしようもないんだよ」
「コロシテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
「どんなに死にたくったってよ、俺らは歯を食いしばらないといけないんだよ。泣いてわめいて、それでもいい。でも最後には、立ち上がって戦わないといけないんだな」
何で?
何で?
何で貴方はそう言える?
そう言いきれるだけの、自信を持てるの?
「だからな、諦めろ」
え?
「コロシテヨオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「死ぬのは諦めろ」
ぐっ、と潮の手に力が込められた。
その計り知れないパワーに、マジキュアダークの腕が内側に反って跳ね上げられる。
「コロシテエエエエエエエ!!!」
「死ねると思ってんのか? お前の目の前にいるのを誰だと思ってる」
私は。
ああ、そうだ。
私はこのとき、初めて見たのかもしれない。
「俺は正義の味方!! 拳闘魔法少女マジキュア!! 炎の戦士マジファイヤー!!」
マジキュアを。
本物の、マジキュアを。
「マジキュアが泣いてる女の子を見捨てるわけねえだろうが」
マジファイヤーが笑った。
あんまりにも自然で。
太陽のようで。
自然すぎて、私の動きが、マジキュアダークの動きすら一瞬止まった。
そして、私は、今自分が泣いていることに、初めて気がついた。
「ただ、ちょっと荒療治になるのは勘弁してくれよ」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」




