塔が落ちるとき・2
「!?」
「がふっ……!」
サーベルは、小春……バブイールの背中をばっさりと切り裂いていた。
「えっ……なんで……」
その体は炎に包まれていて。
きっと、自分の体を炎の矢として撃ち出して無理やり割り込んできたんだと、頭ではわかる。
でも、何が何だかわからない。
何で私は小春を斬っている……!?
「勝ってください……昇葉くん……」
血を吐きながら、小春は笑った。
そのまま意識を失ってマルドゥークにしなだれかかる小春。
それがやけにスローモーションに見えた気がした。
「……ああ」
マルドゥークは小春の体を抱えると、私に向けて手を振り下ろした。
私の周りで、これまでにないほど激しく静電気が暴れ――
『よけてーーっ!!』
直後、凄まじい熱量の稲妻が、柱となって降り注いだ。
もし。
もし、男の子の声が聞こえていなかったら。
私は黒焦げだっただろう。
だけど。
だけど、その声に反応してしまって。
私は攻撃をかわすのと同時に、半ば反射的にサーベルを突き出していた。
それは小春の脇を抜けて、マルドゥークの腹に突き刺さった。
「……お前の……」
マルドゥークが血を吐く。
血を吐きながら口を開く。
「お前の望みはなんだ……? アルカナを集めて……何がしたい……?」
「……私に望みなんてない。アルカナが悪用されないようにしたかっただけ……」
「……だろうな……だから……そんなお前だけには……負けたくなかったんだがな……」
まぁいい、と続ける。
「……お前の勝ちだ。俺様の集めた……アルカナも……持っていけ」
呆然とする私の手に、無理やりアルカナの束を押し付けるマルドゥーク。
そして彼は小春を抱えたまま、ふらふらと塔へと向かっていく。
私はそれを止めることもできず、アルカナの力を失って崩落していく塔に巻き込まれる二人を、ただ見つめていた。
何で助けに入らなかったのか、今でもわからない。
私は糸の切れた人形のように、そこにいるだけだった。
「すまん……葛葉……兄ちゃんは……お前を救えなかった……」
マルドゥークがつぶやいたその最後の言葉だけ、耳に焼き付いていた。
この世ならざる塔は崩れ落ち、残骸すらもこの世界から消えてなくなった。
後には、何も残っていなかった。
小春も、マルドゥークも、やせぎすの少年さえ……
ああ、私はまた何かを間違えた。
考えるべきことを考えずに突っ走って。
取り返しのつかないことが、起こしてしまった。
これは、私のなりたかった姿なんだろうか。
あの絶望の中、街を救ってくれたギガントマンと、あまりにも違わないか。
「もう……わからないよ……」
アルカナは、むかし失われたというアルカナ1枚と、それから“愚者”を除いた全てが揃っているはずだ。
“愚者”は、“世界”をはじめとする残りのアルカナは全てマルドゥークが持っているって言っていた。
なら手の中のこれは世界の縮図。
もうすぐ、世界を書き換えるだけの力を発揮するだろう。
だけど、今はもう忌まわしいものにしか見えなかった。
ほとんど反射的に、私は幽玄七つ道具の「秘密の花園」を取り出すと、その鍵を自分の胸に向ける。
こんなもの、「秘密の花園」の力で、封じ込めてしまいたかった。
だけど、上手くいかない。
胸に押し込もうとしても、何かに押し返されるように入って行かない。
どうなってるんだと文句を言いたくても安康狐はもういない。
結局、アルカナの束は私の手の中。
掌中に収まる程度の世界は、全然思うようにならなかった。




