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ごちゃまぜヒーロー  作者: がっかり亭
ごちゃまぜヒロイン編
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52/60

塔が落ちるとき・1

 その日麻座利市には、激しい雨が降っていた。

 記録的短時間豪雨の予報通りに、街を染めるさながら大瀑布の如き雨のカーテンを、雷の轟音が切り裂いた。


 いよいよ最後の勝負に、マルドゥークが打って出たのだ。


 私はセーラー服が濡れるのも構わず、豪雨の中、河川敷を駆けていた。

 こんな時、一番近寄ってはいけない場所だが、だからこそ一般人がいない。


 私たちにはおあつらえ向きのバトルフィールドだった。


 水しぶきを上げて加速。

 正面に塔を生み出したマルドゥークをにらむ。


 これまでの戦いでわかっている。

 マルドゥークの雷は、発生してしまえばもう人間が避けられるスピードじゃない。


 だけど、着弾地点はマルドゥークが見る必要がある。

 そして、発生前には誘導となる静電気がその位置の大気を走り、パリッと音を立てる。


 なら、避けられる。

 次々降り注ぐ雷をかわし、マルドゥークへ迫る。

 ぎりぎりでかわしたので髪が焦げる匂いがしたが、そんなのはどうでもいい。


 腰のサーベルに手をかけて、走る。走る。

 自分の間合いまであと少し。


 その時、私の周囲を円形に取り囲むように静電気が走った。


 にやりと笑うマルドゥーク。

 ハメられた……!


 なら……!


 ラガシュを倒して手に入れていたアルカナX“運命の輪”を、スマートデッキから引き抜く。

 それを剣に読み込ませ、刀身を地面に突き刺す。


 直後、雷が爆ぜた。

 円形の檻のように降り注ぐ稲妻。

 猛烈な熱量が体を駆け抜けていく。

 衝撃と痺れが脳天からつま先まで貫いて、猛烈な不快感と激痛が脳を焼く。

 全身にしみ込んだ水分が一瞬にして蒸発し、水蒸気と煙となって吹き上がる。


 だけど、耐えられる。

 私の様子に気づいたマルドゥークが、初めて余裕の表情を崩した。


「貴様……! “運命の輪”の大地の力を避雷針代わりにしたな……!」

「あああああああっ!」


 答える代わりに更に踏み込む。

 痛みが消せたわけじゃない。

 筋肉と神経が悲鳴を上げるが、無理やり我慢してサーベルを抜き打つ。


「ちっ……!」


 マルドゥークは過去に奪った“魔術師”の力で正面の雨を固定。

 それを盾にしようとするが、それごと私の剣が断ち切った。


「はあっ!」

「ぐっ……!」


 浅い……!

 胸を軽く切り裂いただけだ。

 追撃の手を緩めるわけにはいかない!

 返す刀で斬撃。


 マルドゥークは雷を剣の形に握りこんだものを振り回して、私の剣を跳ね返す。

 だけど、間合いは完全にこちらのもの。

 遠距離が得意な彼には不利な距離。


 いける……!

 でも、その前に……確認しないといけないことがある!


「貴方は、アルカナを集めて何がしたい!」

「前にも言わなかったか! 世界の破壊だ! アルカナは世界の縮図! ならばその破壊は世界へ波及する! 俺様はこの世界を、粉砕する!」

「それはなぜ! 貴方の理由は聞いたことがない!」

「貴様には関係ない!」

「だったら、私は貴方を斬る!」

「斬れるものなら斬ってみろ! お前のような甘ちゃんに出来るものか!」


 斬(・)れ(・)る(・)。

 私には、出来る。


 あ(・)の(・)地(・)獄(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)光(・)景(・)を(・)見(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)。


 世界の破壊?

 簡単に口にしないでほしい。


 宇宙怪獣のもたらしたあの燃える街を知らないくせに。

 飴のように溶けたガラスが降ってくるなか逃げ回ったことは?

 息を吸うだけで肺が焼け付く痛みを味わったことが?

 一緒に逃げていた人の数がどんどん減っていった経験は?


 世界の終わりの縮図というなら、あれこそがそうだ。

 だから、それをもたらすと言うなら。


「私は、斬れる!!」


 裂帛の気合と共に、サーベルを振り下ろし――


『ダメーッ! やめて! お兄ちゃんを殺さないで!!』


 マルドゥークの肩越しに見えた、やせこけた黒髪の少年のその叫びごと――

 私は切り裂いた。


 小(・)春(・)の(・)体(・)を。

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