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ごちゃまぜヒーロー  作者: がっかり亭
ごちゃまぜヒロイン編
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正体不明! 摩天楼に消えた宝石・4

 警備員がいない。見渡す範囲、屋上に人がいない。


 いや、そりゃ、空から飛んでくるなんて相手、まずいないだろうけど、一人もいないもの?

 困惑しつつも、懸垂の勢いで屋上に飛び乗る。

 姿勢を低くしながら、一気に出入口へ。


 ドアノブに手をかけてみたが、鍵がかかっているらしい。

 ここで幽玄七つ道具「秘密の花園」の出番だ。

 これは万能の鍵で、どんなロックも解除してしまう。


 本来は「心に閉じ込めるため」の道具。


 心にものを隠せるとなれば、ボディチェックもすり抜けられるから、これも反則的なモノだけど、その封印を解除するための力、そのおまけが鍵解放能力らしい。


 某狐によれば「心にものを封じるための鍵だ。心にカタチは無く、ならばその鍵穴にもカタチは無い。それを開けられるということは、どんなものでも開けられるということ」だとか。


 ただ、鍵穴がない、例えば金庫なんかは解除できないし、電子ロックも解除できないあたり、万能と言いつつも制限はある。


 ともあれ、屋上の鍵はあっさり開いた。

 ゆっくり音を立てないようにドアを開いて中をうかがうと――


「……!?」


 そこには意外な光景が広がっていた。


「警備員が……!?」


 出入口の階段を下った先の通路に、ばたばたと警備員が倒れていた。

 死んではいないみたいだし、警報が作動したりしている様子はない。


 見える範囲だけでも三人。

 ラガーマンを彷彿とさせる、屈強の男たちが床に倒れていた。


「どういうこと……?」


 こんなとき、安康狐が同行していないのが困る。

 何が起きているの?


 とにかく、通路はビルの共用部であって、まだ美術館の中じゃない。


 美術館の外周に沿うように通路は続いていて、角を曲がった先がちょうど美術館の正面側に出る。

 慎重に進み、美術館の正面入り口まで進む。

 正面には、警官も複数倒れていた。


「……」


 私も、マジキュアやカディンギルとしてそれなりに場数は踏んだつもりだ。

だから、ここで気後れはしない。


 ふぅ、と息を吸い込み、大きな自動ドアを開いて美術館に入る。


「――!」


 美術館のエントランスは正面に巨大な壁画があり、そこから左右に展示室が続いていた。

 その壁画は、夜の闇にぽっかり浮かぶ大きな月。

 湖面に反射でもう一つの月が浮かぶ……そんな絵だった。


 だが、月の黄金とは異なる、青い輝きが光を跳ね返していた。


「おや、遅い登場でしたね。怪盗サン」


 おどけて言ったのは、闇。

 いや、壁画の黒から抜け出したような黒マントの男。


 顔は真っ赤な仮面で、時代錯誤なシルクハットが目を引く。

 ちらちら見えるマントの裏地は、どうやら赤らしい。


「貴方は……誰?」

「私は……ランプ……とでも申しましょう。座王院コレクションの蒐集者(しゅうしゅうしゃ)ですよ」

「なっ……!」

「ふふっ……その反応、どうやら貴方も同じ目的らしい。まぁそうでしょう。わざわざこの叢雲の雫を指定するくらいですからね」


 きらりと光るのは、ランプの手の中にある、空の青を閉じ込めたようなサファイア。

 一緒に雲まで閉じ込めたのか、宝石としての純度は高くないようで曇っているが、それがより空をそのまま切り取ったような印象を与えていた。


 あまりの青さに、そのまま飛び込んでいきたくなる――


「おっと。あまり直視しないほうがいいですよ。飛び降りたくなったり、ここの会長みたいに、こんなビルを建ててしまうくらい空に魅入られますからね」

「……あなたいったい、何なの? なぜそこまで知ってるの?」

「そうですね、僕(・)が(・)正(・)当(・)な(・)持(・)ち(・)主(・)だ(・)か(・)ら(・)で(・)す(・)よ(・)」

「は?」

「それではまたお会いしましょう。幽玄怪盗さん」

「……!?」


 予告状に、幽(・)玄(・)怪(・)盗(・)ア(・)ル(・)セ(・)リ(・)オ(・)ン(・)の(・)名(・)前(・)は(・)書(・)い(・)て(・)い(・)な(・)い(・)!

 それを知ってるなんて何者!?


 ランプはひらりと身を翻し、私の横を抜けてそのまま自動ドアにぶつかった。

 普通なら割れるか跳ね返されるかのはずが、するりと抜けていく。


「なんなのもう!」


 私は慌ててその後を追いかける。

 ランプの黒い影は墨を引くようにたなびかせながら、ランプは屋上への通路を疾走。


 一方の私は、自動ドアが開くタイムラグでかなり距離をつけられてしまっていた。

 必死に追ってもその背が遠い。

 軽やかに非常階段を駆け上がると、そのまま闇夜に飛びだしてしまった。


「は?」


 まさか、叢雲の雫のせいで飛び降りたわけでもないと思う。

 でもあまりに自然に、ビルから飛び出していったのだ。


 目をこすってみたけど、姿はどこにも見えない。

 あの黒いマントは、闇に溶けて消えてしまっていた。


「なんなのよ……一体……」


 私は、屋上で呆然と立ち尽くした。


 これが、私とランプの出会いだった。

 そしてこれから何度も彼とは、座王院コレクションを奪い合うことになる――


 正直に言えば。

 私はランプの正体を「ある人間」だと疑っている。


 普段から言動が怪しい男。

 明らかに急に現れたりいなくなったり、不可解な男。

 異常に場慣れして、命の危機でも平然としている男。


 そして、ビルの屋上から飛び降りることができるだけの、特殊能力――たとえばマジキュアとか――を持っていてもおかしくない男……


 そう、ラ(・)ン(・)プ(・)の(・)正(・)体(・)は(・)、十(・)中(・)八(・)九(・)、赤(・)井(・)潮(・)だ(・)と(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。


 そう思って見れば見るほど、おかしな言動ばかり。

 いずれ、その正体を明らかにしたいと思う。

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