正体不明! 摩天楼に消えた宝石・1
バブイールとの戦いから数日。
何事もなかったのはいいけれど、私の頭は真っ白なまま。
今日も朝練がないのをいいことに、寮で寝転がっていた。
マルドゥーク……一体何者なんだろう、そのことがずっとひっかかっている。
なんというか、肌から感じるアイツの実力が、明らかに他と隔絶していた……と思う。
大人と子ども、いや、大砲と豆鉄砲くらい差があった。
同じアルカナ使いのはずなのに……
じゃあ、なぜそんなに差があるのか。
それに、何か目的があるようだったし、小春がその部下……?
小春は私を……
いや、私は……
「ダメだ……」
考えれば考えるほどわからなくなる。
相談できればいいけれど、こんなこと、誰にも言えやしない。
……いや、私は自分で解決しないといけないんだ。
それがこの力を与えられた私の、使命だと思う。
と、携帯がブルブルと鳴った。
どれだろう。
のそりと体を起こしてみると、桜色のスマホが震えていた。
震えるだけにとどまらず、ファーンという神社の境内で聞こえるような音――笙だっけ?――がし始めた。
ああ、まずい。
安康狐が怒ってる時の反応だ。
そう思ってアステリフォンを取ると――
「遅い」
開口一発、不機嫌ボイス。
「……こっちにも事情があるのよ」
「知ったことか。座王院コレクションの邪念は待ってはくれぬ」
……ほんと、いい加減にしてほしいけど、こいつの言ってることも間違いじゃない。
気合を入れ直さないと。
「……で、どこ?」
「隣県の大斗市に最近完成した、スカイロウビルの祭木美術館だ」
「スカイロウ……って、あの60階建ての!?」
大斗市は地方にしては栄えている街だ。
あくまで地方都市の中では、だ。
ただ、どう考えてもローカルの身の丈に合っていない巨大建造物は、とはいえそのインパクトから地方ニュースでもさんざん報道されていた。
スカイ+摩天楼という、日本ならではの謎ネーミングについての街頭アンケートのようなどうでもいい企画がテレビを賑わせている。
テナントもあまり埋まってないらしいが、ランドマークとしては目立つしね。
幸い、宇宙怪獣の襲撃にあわなかった街であることもあって、これからそこを中心に発展していくかもしれない。
「そうだ。そのスカイロウビル祭木美術館のこけら落としの目玉として、座王院コレクションの「叢雲の雫」が展示される。これは、空への憧れを強化するサファイアだ。放置すると飛び降りの名所になるぞ」
「……!」
「わかったら準備しろ。もう予告状は送ってある」
「はぁ!?」
慌ててテレビをつけてみると、ニュースはその話題でもちきりだった。
「祭木美術館に今夜、叢雲の雫を頂戴すると予告状が届けられました。警察では悪質な悪戯の可能性も含め、現在調査中です」
警官がビルに十重二十重になっている様子が映っている。
パトカーも一台や二台じゃない。
「何をしてるの!?」
「よいか。これも儀式と考えよ。強力なコレクションは作法に則って回収をせねば、怪盗本人までその魔力に囚われてしまう」
「……せめて事前に説明はして」
「ほう、それはすまなんだ。夜に向けて準備をせよ。では」
ぶつん、と通話は切れた。
こっちの血管が切れたかと、一瞬思ったけど。
「……仕方ない。頑張りますか」
正直に言えば。
多少、ありがたくもあった。
怪盗について考えている間は、小春のことを考えなくてもいいから。




