そんな! 親友がライバル!?・3
突如、割って入るように、黒髪で白い服の痩せた少年が現れた。
一〇歳にも満たないであろうその少年にぶつかれば大変なことになる。
「……っ!」
私は必死でよけようとしたけど、勢いが付きすぎているし、空中ではもう打つ手がなかった。
振り下ろそうとしていた剣を止めるのが精いっぱいで、肩から突っ込んでしまう。
「!?」
しかし、感触がない。
私の体は、少年をすり抜けて、そのままバブイールに激突した。
「が……っ!?」
偶然、肘がみぞおちに入り、うめき声とともに吹っ飛ぶバブイール。
重力に引かれて斜めに落下していき鉄棒に衝突、反動で半回転して地面に叩きつけられた。
その衝撃で気を失ったらしく、だらりと床に落ちていく。
だが、今はそちらより先にさっきの少年だ。
私自身も落下しながら、辺りを見渡すけど、少年の姿はない。
……落下しながら?
おかしい。
あの少年は、空中に浮いていたことになる。
幻覚?
でも声も聞こえていた。
あれがバブイールの能力だとも思えない。
まるで“愚者”のように、目には見えるのに実体がない、そんなイメージ。
いくら考えても答えは出ないので、着地と同時にバブイールの方へ歩いていく。
太陽のアルカナを回収するのを優先しよう。
と――
バブイールを包み込むように、巨大な塔が現れた。
バウムクーヘンを内側から引っ張り上げたような、円の上により半径の小さい円が連続して乗っている。
「なに……これ?」
その一番下の階層、入り口らしき扉が開き、人影が現れた。
黒の短髪に黒縁眼鏡、燕尾服にも似たシックで、でもどこか喪服のような黒服に身を包んだ青年だった。
腕の中には気を失ったバブイールが抱きかかえられている。
青年は状況が飲み込めない私に、鋭い視線を向けてきた。
「“正義”のアルカナ使い、存外やる。だが、まだ手駒を減らされるわけにはいかないんでな」
「貴方は誰?」
「見てわかるだろう馬鹿か? “塔”のアルカナ使いに決まっている」
「名前を聞いているんだけど」
「そんなものに何の意味がある? 殺し合うだけだというのに」
いちいち見下した言い方しかできないのか。
「……まぁいい、俺様の名はマルドゥークだ」
「急にどうしたの?」
「フン、今から殺される相手の名前くらいは知らせてやるのも情けだと思い直してな」
マルドゥークがそう言うと、その背後の塔が雷を帯び始めた。
素人目に見ても、纏った雷の凄まじさがわかる。
空気を破裂させる音と共に、猛烈な熱量が生まれていく。
知らず知らず、汗が頬を流れる。
まずい。
あれは、まずい。
「そ、そんなもの使うなんて正気? この学校の生徒たちに私たちの正体がバレるよ?」
「駆け引きとしては四流だな。貴様らの戦いの最中、誰も反応していないことに気づかなかったのか?」
「え?」
言われてみれば、ヤミニストが消えてしばらく経っている。
ヤミ空間の現実停滞効果もとっくに消えて、みんな起きだしているはず。
それなのに、人影がまったくない……!
「気づいたか? 我が “塔”の力で一帯の人間たち全てを麻痺させた。ゆえに、俺様が何をしようが、露見することなどないわけだ」
「……っ」
“塔”のアルカナに描かれているのは「雷が落ちる塔」。
だから、雷を自在に操る力で、スタンガンのように全員を気絶させたんだろう。
つまり、奴は周囲なんか気にせず大技を放ってくる……!
「灰になれ」
バブイールを抱きかかえたままのマルドゥーク、そのひと睨みで巨大な雷の塊が落ち――
「ん? なんだ? 何やってるんだ?」
「!?」
突然、校庭に現れたのは、潮だった。
なんてこと……!
なんで戻ってきたの!!
「なんか雷が落ちたみたいでみんな倒れてるから、お前らも気を付けたほうがいいぞ」
カディンギルの銀の仮面のおかげで、私の正体に気づいていないらしい。
それはいい。
でも、こんな危険な場所にいたら巻き込まれてしまう!
「……チッ、俺様としたことが仕事に漏れがあったとはな……眠れ」
ギン、とマルドゥークがひと睨み。
すると雷が連続して一直線に落ちていき、ライブ会場のウェーブのように大地を走った。
雷のウェーブは潮を直撃する。
「ああっ!?」
止める暇もなかった。
あまりに一瞬の出来事。
真っ白な煙が潮の体から吹き上がる。
あんな稲妻、常人が食らったら……
「痛ってえな……」
「……は?」
マルドゥークがぽかんと口を開ける。
「なぜ……平然としている」
「なんだお前、どこの組織だ?」
潮はすたすたとマルドゥークに近づいていく。
「……チッ、不確定要素がある状況で戦うのは一流のやることではないか」
潮の余裕に気圧されたのかはわからないけど、マルドゥークは塔の中に下がった。
「今日は引き下がってやる。せいぜいこの幸運に感謝して残り少ない人生を噛み締めろ」
最後まで不遜な言葉を吐き、塔ごと大きく揺らぎ、すぅ、と消えてしまった。
もちろん、バブイール……小春の姿もない。
まるで砂漠の蜃気楼のように消えて行った。
後に残されたのは、私と、潮。
その潮が、怪訝な目でこちらを見ている。
「あんた……誰? 今の、何?」
「朝の光が見せた幻よ」
私は、それだけ言い残し、空に飛び上がった。
後ろは振り返らない。
自分の顔が真っ赤になっているのが、鏡を見なくたってわかる。
私、何言ってるんだろう。
なに、「朝の光が見せた幻」って……
恥ずかしい。
本当に。
恥ずかしい。




