選ばれすぎし者・後
……そう、とにかく、私は今3つのヒーローを兼任している。
それぞれの関係者にバレようものなら、一つに集中しろ、なんて言い出すに決まっている。
だから、私は誰にもそのことを言っていない。
“愚者”もラビ太も安康狐も、さほど干渉してこないからバッティングはいまのところ大丈夫。
ああ、もちろん、一般人に正体をバラすのはもってのほか。
どれも露見した時点で、力が没収されるって話だった。
……正義を守るために、そんなことになったら困る。
細心の注意を払わないと……って、今はそんな場合じゃなかった。
アルカナ使いが近くに来ているのだ。
周囲の気配に感覚を研ぎ澄ませて今は動きを待つ。
窓の外から見える電柱の上と“愚者”は言っていたけど、そこには朝日があるだけで、敵の姿はない。
太陽の光の中に隠れているのか、全く動きがない。
しばらくして、“愚者”は大げさにため息をついた。
「……おっと、アルカナ使いは逃げたみたいだね。ただの偵察だったようだ」
「そう」
どこか、物足りなさを感じつつ。
「じゃあ、またね」
笑う“道化師”の顔は、どうにも好きになれない。
上手く言葉にできないけれど、胸の奥がモヤモヤする。
すぐに消えてくれて、正直助かった。
そう感じている自分自身が不思議だった。
……こんなにイヤなことを考える人間だったっけ……?
「ふぅ……」
一息をついて、スマートデッキからカードを抜いて変身を解く。
自室の中だから、そう気負うこともない。
……でも少し気になるのは、寮や学校の近くでアルカナ使いの反応があったってこと。
……まさか、学校の生徒ってことはないと思うけど……。
実際、“隠者”は中年男性だった。
考えすぎだろう。
でも、どこかいてもたってもいられず、早朝から寮を出てきてしまった。
体操服を適当に着てきたけど、まぁこれなら人が見ても朝練だと思うでしょ。
「え?」
寮の前の道路で、私は意外な人物に出会った。
真っ赤なジャケットを着た、青年。
「……なぜあなたがこんなところにいるの?」
「おい、普通はまず挨拶だろ」
げんなりした顔でそう答えたのは、赤井潮。
「そ、そうね。ごめんなさい」
彼の言うとおりだ。
転生者が近くにいたからと言って、彼だけはありえない。
だって――
「それで、あなたがここに来たってことは、アレの件?」
「え? たまたまこの辺りの波動関数……い、いや、なんでもない」
「……?」
彼はときどき、わけのわからないことを言う。
大学生だって聞いたけど、まだ中二病が抜けてないんだと思う。
「まぁ、とにかくマジキュアとは無関係だよ」
言い忘れていたけど、彼はマジキュアの関係者だ。
もっと正確に言えば、マジキュアの一人。
……魔法少女なのに、なんで青年がやっているのかは、本当に謎。
ラビ太は適合率が異常に高かったとかなんとか言っていたけど、ともあれ、彼は変身すると中性的な見た目の魔法少女、マジファイヤーに変身する、私の相棒だ。
どんな敵にも臆することない、頼りになる相棒なんだけど……
「外で軽々しくその名前を出さないで」
「す、すまん。つい……」
「ついじゃありません。死ぬわけじゃないにせよ、大変なことになるんですよ?」
「あ、ああ。死なないだけマシ……いや、ごめんごめん」
どうにも、軽い気がする……。
年上だけど、この人の責任感の薄さは気になってしょうがない。
正義のヒーローの力を預かっている自覚をもっと持ってほしい。
私だって3つも掛け持ちしてる中、頑張ってるんだから、彼にも頑張ってもらわなくちゃ……
「……もういいです。ところでこの辺りで他に人は見ませんでした?」
「ん? いや、いなかったぞ。500メートル四方、どんな物音もしてなかったし」
「どういう耳よ……冗談はいいから」
こういう悪ふざけは、私を子どもだと思ってるんだろうな……もう。
「とにかくいなかったのね?」
「ああ。絶対に間違いない」
その自信はどこから来るの……?
「っていうか何かあったのか? 例えばこう、黒タイツの集団が怪しい儀式をしてるとか」
「そんなわけないでしょ。……不審者に注意しろって先生が言ってたらちょっと聞いてみただけ」
「そ、そうか。まぁ、変なヤツ見かけたらオレに言ってくれ」
「それで言えば寮の前にいるあなたということになるけど」
「て、手厳しいな」
そのしょんぼりした顔は、嫌いじゃなかった。
「ふふっ……」
思わず、笑ってしまう。
何にせよ、彼がアルカナ使いなんてことはないだろう。
だってそうだとすると、彼はマジキュアとアルカナ使いの2つの力を持っていることになる。
私に3つ力が集まったのだって奇跡的だと思う。
そんな偶然、そうポンポン有り得ないでしょう。
「……とにかく、あなたもヒーローとしての自覚をもってくださいね。あの、ギガントマン様を見習って」
「お、おう……」
この生返事。
ほんとに、自覚が足りないんだから……!




