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ごちゃまぜヒーロー  作者: がっかり亭
ごちゃまぜヒロイン編
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28/62

拳闘魔法少女

 その日、私は剣道部の部活終わりに家に帰っていた。


 高校一年になって、最初のインターハイを控えて、練習はハード。

 去年、中体連で全国ベスト8までは行けたから、今年は優勝を目指したいし、私も全力で頑張ってへとへとだった。


 時刻は夜の8時半。

 山の上の学校から道路を挟んで向かいの寮に移動するだけだし、女一人でも別に危険を感じたことはないかな。

 寮と言っても、学校は全寮制じゃなくて、職員用の独身寮だったものを流用したもの。

 これは、大怪獣災害によって、家族を失った生徒向けの暫定対応。


 あのダムから突如現れた超巨大な怪獣――いわゆる怪獣13号――が暴れまわったあとは、甚大な被害が発生した。

 あれから数か月経っても、まだまだ事後処理は終わらない。


 行く先のない生徒はいくらでもいるし、私もその一人だった。

 私の故郷、白黒群中白町も壊滅して、もう人の住める場所じゃなくなった。


 そこで、国と県は身寄りのない学生に、寮を用意して提供。

 教育の空白期間を防ぐため、という話だったけど、どっちにしても住処があるのは嬉しかった。

 実家が無くなってからは、ずっと体育館暮らしだったしね。


 この高校を選んだのも、その体育館があったのがここだったから。

 中白町は完全に壊滅して機能していなかったから、近隣で一番大きな麻座利市にみんな集められた。

 そのまま麻座利市に移った人も少なくない。


 ええと、何の話だっけ?

 そうそう、寮の話だった。


 うちは親戚一同中白町の出身だったから、よほどの遠縁しか生き残っていなくて、私は寮で一人暮らしを希望した。

 友達は他県の親戚の元に身を寄せたり、施設に入ったりしたので、入寮者の学生は他にはいない。

 構造としては二階建てのアパートそのもので、共用の風呂やキッチンなどはなく、全部自室に設置されているタイプ。


 担任の鬼熊独五郎先生をはじめとして、何人かの先生が住んでいる。

 女性の先生は誰も住んでおらず、先生たちも気を使ってか、私の部屋だけは二階の一番奥で、隣にも下にも入寮者はいない。


 そもそも社会人向けだから、寮長みたいな人もいないので、身の回りのことは全部自分でやる必要があるわけで……。

 というわけで、部活後には自室に戻ってシャワーを浴びて、洗濯機を回して、晩御飯を作って、食べて、片付けて、洗濯物を干して――と、なかなか大変……。


 今日はもう疲れている事もあって、晩御飯はカップラーメンでいいか……なんて考えながら、学校前の横断歩道を渡っていると、街灯の下に小さな影が見えた。


「ねこ?」


 疲れている時にねこは最高だ。

 ねこはジャスティス。


 でも、近づいてみると、どうやらねこではないみたいだった。

 というか、思い当たる動物がいない。

 ねことねずみとうさぎを足して3で割ったような、もふもふした何かだった。


「やあ、君はボクが見えるんだね?」

「は?」


 思わず出たのは間の抜けた声。

 明らかに、この動物から人語が出ていた。


 気のせいかと思ってあたりを見渡しても、人影はない。

 何かドッキリ的なものかとも思ったけど、私を引っかけるにしては手が込みすぎている。

 それだったら、ねこのぬいぐるみで済むし……。


 などと考えていると、その動物がニコっと笑った。


「ボクはラビ太。ボクと契約してマジキュアになってくれないかい?」


 マジキュア?

 契約?


 言っている意味がわからず、混乱する。


 ただでさえ疲労で脳内の糖分が足りないのに、そんな事言われても困る。

 せめてシュークリームでも食べていたら違うのに。


「マジキュアは、悪の魔の手から世界を守る魔法少女だよ」


 魔法少女……女児向けのアニメなんかでよく聞く名前だけど……。

 少なくとも、この時は本気でそれが実在するなんて夢にも思っていなかった。

 たとえ、よくわかんない動物が勧誘してきているとしても、それとこれとは話が別。


 でも――


「世界を……守る?」


 それだけは、引っかかった。


「そうだよ。今、この世界は、ヤミニストによる侵略の危機にさらされているんだ」

「ヤミニスト? 怪獣じゃなくて?」

「それは別件だけど無関係でもないかもしれない。ヤミニストは人の心の闇に由来するんだ。だから、大災害の後に活発になる」

「……」


 正直、ラビ太の言っていることを信じたわけじゃなかった。

 でも、もしそれが0.01%でも真実なら……?


「……いま、本当に世界が危機なのね?」

「うん。それは間違いない。ボクら光の妖精が、こちらの世界に出て来れるようになっていること自体、この世のバランスが崩れているってことだからね。早くバランスを取り戻さないと、世界が闇に染まってしまうんだ」

「闇に染まるとどうなるの?」

「人々が欲望のままに暴れまわり、少なくとも文明は終わってしまうだろうね」

「……そう」


 この時、心は決まった。


 話を受けてみよう。

 違ったら……その時はそのとき。

 肩にかけた竹刀袋をぎゅっと握る。


「わかった。魔法少女に、なる」


 その答えに、飛び上がって喜ぶラビ太。


「ありがとう! それじゃ、ピュアフルパワーをキミに……キミの名前は?」

「真白」

「そう、真白にあげる!」


 ラビ太がそう言うと、光が広がり、それがあたかも薄い布のように体にまとわりついた。

 いや、感触も見た目も、布そのものだ。


 だけど、光でできているからなのか、ほとんど重さを感じない。

 白いフリルが多層に連なった、お姫様のドレスを動きやすく縮めたような服を、私は纏っていた。

 そして、心臓から送られる血液に乗って全身に、鉄板すらたやすく引き裂けそうにすら思えるすさまじいパワーがあふれ出す。


 つまり――


「本当に……変身した?」

「そうだよ。キミは今日から、拳闘魔法少女マジキュアのマジホワイトさ!」


 その時、私はどう思っていただろう。

 震えていた。


 それは、はっきり覚えている。

 正確な心理までは思い出せないけれど……きっとあれは、驚愕ではなく。


 そう、歓(・)喜(・)だ(・)っ(・)た(・)。

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