燃えてヒーロー・4
よし……。
腹は決まった。
……後はどうするか。
オレも、人命救助に改造人間の力を使うか……?
――いや、オレの能力はそれだけじゃない。
理龍戦隊ゴリュウジャーの力も、ギガントマンの力もある。
どれを使えば、よりたくさんの人を救えるか……。
……待てよ?
どれかに絞る必要は、あるのか?
組み合わせれば、よりたくさんの人を――
「あ」
……オレは、何て思い違いをしていたんだろう。
脳裏に閃いた「それ」は、心のモヤをかき消していく。
ここで一旦、整理しなくては。
ヱゐモセズの脅威は三つ。
一つ。圧倒的な弾幕による対空防御能力。
宇宙を超光速で飛べるギガントマンでも、大気圏内でそれをやれば大気との摩擦で燃え尽きる。
宇宙空間でヱゐモセズを追っていた際に優勢だったのは、超光速で攻撃できたからだ。
本来、その宇宙空間で戦うのが中心のギガントマンに大気圏内の戦闘は向いていない。
それは人間が水中で戦うのとよく似ている。
戦闘機のように、速度を緻密にコントロールしながら飛ぶ事が出来ないのだ。
かわそうと速度を上げれば、別の砲火に自ら体当たりしてしまう。
テレポーテーションして近づいたところで同じだ。
瞬間移動後は無防備。
テレポーテーションを知らない世紀末元帥だからこそ、その無防備な時間を上空で消せたが、ヱゐモセズ相手では攻撃に移るまでに倒されるだろう。
懐に入るのは不可能だ。
そこで二つ目。光線反射能力。
懐に入らないとすれば、光線技で遠距離攻撃しかない。
しかし、ヱゐモセズは光線を跳ね返す。
ギガントマンの遠距離攻撃は全て光線技。
打つ手がない。
三つ目。強靭な防御力。
光線の反射する表皮を破壊しなければならないが、表皮そのものが頑強だ。
ギガントマンが光線技なしで戦うとすれば、素手で破壊出来るまで殴り続けるしかない。
だが、むろんヱゐモセズは反撃してくるだろう。
つまり事実上、破壊しようがない。
光速で体当たりをすれば倒せるかもしれないが、守るべき街も世界もこの世から消えるだろう。
この三つの要因が、ギガントマンではヱゐモセズに勝てないという結果を生み出している。
だが――
だがもし――
弾幕をかいくぐり、光線を反射する外皮を破壊できたなら?
「……勝てる!」
拳を握る代わりに、鉄格子を掴む。
「ぬああああああっ!」
ぎぎぎ、と耳障りな音を立て、鉄格子が歪んでいく。
例え変身せずとも、この程度の鉄格子なら飴細工と同じだ。
オレは、独房を飛び出し、ホッパーイヤーに聞こえてくるかすかな声を頼りに、仲間たちのいる場所へ向かった。
*
「な、お前どうして……?」
指令室に入るなり、アオイが声を上げた。
簡易的に修理が済み、とりあえずの機能を回復したらしき指令室には、アオイだけでなく、エニシとチャンドラ、そして九頭竜博士の姿もあった。
「みんな、頼みがある!」
その面々の反応を待たずに、その場に土下座した。
「ヒリュウをオレに預けてくれ!」
ヒリュウとは、ゴリュウロボの変形したドラゴン形態だ。
五機のゴリュウマシンが直列合体した高速飛行形態でもある。
「ちょ、ちょっと待ってください」
チャンドラが慌ててオレを起こそうとする。
それを片手で制す。
「……頼む!」
再度下げた頭が床にぶつかり、鈍い音を立てた。
「オイ! 何やってんだ! 説明しろ!」
そんなオレの肩をアオイが掴む。
「言えない……!」
「は、ハァ?」
「言えないが信じてくれ!」
「バ、バカ言うな! 何の説明もせずにこっちには信じろだと?」
「それでもだ!」
「ふざけるな!」
アオイが襟首を掴み、オレの体を強引に吊り上げ、そのまま壁にぶつける。
「待ってアオイ兄ちゃん! ウシオ兄ちゃんの話を聞こうよ!」
エニシがアオイの腕を掴んだ。
「エニシ! そうじゃねえんだ! コイツは、その話すらしようとしねえんだよ!」
「そ、それは……」
「それも今日に始まった話じゃねえ! 何時だって、コイツは話そうとしちゃくれなかった! そうだろ!」
「う……」
エニシは言葉を飲み、その手を放す。
「……チッ」
アオイもまた、オレを吊り上げていた手を放した。
「クソがっ!」
そのまま拳を基地の壁に叩きつける。
激しい音がして、アオイの拳から一筋の血が流れた。
「……わかった。虫のいい話だったな。……本当にオレもそう思う」
オレはみんなに背を向け、歩き出した。
「ど、どこに行く気です?」
チャンドラの動揺は背後からかかる声からでも見て取れた。
「……一人で行く。迷惑はかけない」
「だからどこに!」
「……」
オレは歩き出し――
「……!」
そこで止まった。
指令室の入口に、オレを制すように両手を広げていたのは――
「すもも……!」
すももの姿は入院着そのもので、頭にも腕にも包帯が巻かれ、うっすら血すら滲んでいる。
「お前……なんで」
「バカっ!」
乾いた音が響いた。
「……え?」
それが、すももの平手がオレの頬を打った音だと気づくのに、数秒かかった。
更に遅れて、じわりと痛みが広がる。
だが、そんな事より、あのすももが平手打ちをして来た事に頭の回転が追いつかなかった。
「すもも……お前そんな体で……」
が、すももの目に映った意志の光に、言葉が続かない。
「事情は言えなくたっていい……」
すももは苦しそうに言う。
もしかしたら、内臓のどこかを痛めているのかもしれない。
「でも、一人で行くのは違うよ……!」
「うっ……」
「だって……私たち仲間でしょ……!」
「……!」
それは、とても月並みな言葉で――
いつも言っているような言葉で――
だけど――
「うあああああああああああ……!!」
目の奥から熱い何かがこみ上げて来て、オレはその場に膝をついていた。
そして子どものように泣きじゃくっていた。
「ああああああ……!」
わけが、わからない。
だけど、涙が止まらない。
そんなオレの頭を、すももの手が抱える。
「……一緒に、行こう?」
それから、すももはオレの背中ごしにみんなを見た。
「みんなも、いいよね?」
ガキのように泣き腫らした顔で振り向くと、そこには――
「ボクは行くよ! 何だかよくわかんないけど、でも兄ちゃんは助けが必要なんでしょ? じゃあ、やっぱりボクが行かなきゃ!」
エニシ。
「ワタシも行きますよ。ああ、カレー一週間おごりですからね?」
チャンドラ。
「チッ……仕方ねえな。泣く子と地頭には勝てねえって言うしな。……ああ、わかってんだよ! わかってんだ! てめえが裏切ってなんかねえのはな! いいぜ行ってやる! だから帰ってから俺を好きにぶん殴れ!」
アオイ。
「お前ら……」
「ね、みんな一緒だよ……」
理龍戦隊ゴリュウジャー。
五人の戦士。
きっと。
オレはこの時初めて――
「……ああ!」
ゴリュウジャーの真のメンバーになったんだ。
アオイが手を差し出し、オレはそれを握って立ち上がる。
すると、目の前には九頭竜博士。
「……ヒリュウの準備は出来ている。いつでも出動可能だ。……いや違うな」
すう、と息を吸う博士。
「ゴリュウジャー、直ちに出動せよ!!」
「!」
オレたちは、即座に敬礼の姿勢を取る。
「ラジャー!!」
そしてその場で変身ポーズをとる。
「行くぞ! 変身!」
五色の光が降り注ぎ、オレたちの姿を変えてゆく。
それ即ち、世界を象徴する龍の理をもって悪を討つ戦士。
「樹海の賢者・碧龍! ゴリュウグリーン!」
「砂海の覇者・黄龍! ゴリュウイエロー!」
「仙界の使者・桃龍! ゴリュウピンク!」
「大海の王者・青龍! ゴリュウブルー!」
「破壊の勇者・赤龍! ゴリュウレッド!」
理龍戦隊ゴリュウジャー!
出動だ!




