燃えてヒーロー・2
意識を取り戻した時、オレは国立超科学アカデミーの医務室のベッドに居た。
「う……」
体を起こす。
……倒れる前、ピンクがピンチだと言っていた。
あれはどうなったんだ。
まだ疲労感残る体を引きずり、指令室に向かう。
巨大な自動扉が開き、指令室の白亜の景色が飛び込む――はずだった。
だが、そこにあったのは、大きく破壊された指令室の姿だった。
並んでいたモニターというモニターが割れ、火花を散らしている。床天井もあちこち穴が開き、黒くすすけていた。
「何が……」
「……敵の襲撃だよ」
吐き捨てるような声がした。
「アオイ……」
振り返ると、辛そうに壁に体を預けているアオイの姿があった。
「馴れ馴れしく呼んでほしくないな。仲間みてえによ」
アオイは、あちこち怪我をし、包帯を巻いていた。
「何があったんだよ!」
「言ったろうが。お前がほっつき歩いている内に、ジャフウスイが攻めて来た。それは一大部隊だったよ……オレたちは必死で戦った。……けどリーダー不在で楽に勝てる相手なんかじゃなかった」
言葉の端々に皮肉を込めて言う。
「……それでどうなった」
「サゲール将軍の猛攻に、オレたちはピンチに陥った。だが、ピンクが自らを犠牲にして撃退したんだ……! ほとんど自爆だ……っ!」
あのアオイの目に、うっすらと涙が浮かんでいた。
「な……! すももはどうなったんだ!」
「ふざけんな! お前にアイツの心配する資格があんのかよ!」
激高したアオイが襟首を掴んでくる。
「アイツがピンチの時、お前なにしてたんだ! 言えよ!」
「……」
「何で言えねえんだよ! 仲間が死にかけてるんだぞ! すももだけじゃねえ! チャンドラもエニシも大怪我を負ってる!」
「……」
アオイの怒りはもっともだ。
だけど……。
言えない。
我が身かわいさじゃない。
今ここでオレがいなくなったら……ホッパーもギガントマンもいなくなったら……。
この世界はおしまいだ。
「……すももは無事なのか?」
もう一度聞く。
「……」
が、今度はアオイが答えない。
突き刺すような沈黙が、辺りを支配した。
と――
「すももは、今集中治療室だよ。チャンドラとエニシは自室で休んでいる頃だろう。彼らも満身創痍……疲労困憊だ」
答えたのは、背後から現れた九頭竜博士だった。
「博士……」
「今回ばかりは、君の独断行動を処罰しないわけにはいかない」
博士は、いつになく厳しい表情だった。
「……ええ。わかっています」
「ただ、その前に尋問をさせてもらう。今回は待機命令の無視、出頭命令の無視に加え、そのタイミングで敵による本部襲撃があったのだからね」
「……」
博士の言うとおりだ。
ぐうの音も出ない。
普通に考えたらスパイとしか思えない行動を取っている。
だが、尋問されても答えることは出来ない。
どんな処罰が出るかはわからないし、或いはクビになる事もあり得る。
「君には一旦、自室で謹慎を――」 直後、アラームが鳴り響いた。
壊れた機材もあって調子の外れた音を立て、それが混じり合って不協和音となった。
「敵襲か!?」
アオイが血相を変えて叫ぶ。
「違う……! これは怪獣警報だ!」
「何ですって!?」
今度はオレが思わず声を上げた。
「待っていたまえ。まだ生きている立体映像モニターを展開する」
九頭竜博士が腕時計型コンソールを叩くと、部屋の中央にスクリーンが投影された。
「……これは……」
博士も思わず息を飲む。
それもそのはずだ。
その怪獣は、あまりに巨大だった。
通常の怪獣がおよそ五〇メートル前後にもかかわらず、今回のそれは二〇〇メートルをゆうに超えている。
足元には粉砕されたダム――北山田ダムだろう――の破片。
古いティラノサウルスの想像図を思わせる二本足で直立した姿に、漆黒の体と淡く光るねじくれた角。
間違いない。
ヱゐモセズだ!
映像の中でヱゐモセズは、口から煮えたぎる隕石のような火球をばら撒いていた。
そのあまりに凄まじい威力に、怪獣の眼の前に土が溶け、ところどころガラス化した道が出来ている。
地球防衛軍のジェット戦闘機がその周りを旋回しつつ攻撃を加えているが、全く意に介さない。
羽虫を払うように腕を振りまわし、当たらないと見るや、全身からエネルギーを放出、その衝撃で全てを撃ち落とした。
恐るべき強さだ。
大量の有害物質を吸い込み、かつてより遥かに強化されたバケモノ……。
それは、このまま関東へ向かうだろう。
工業地帯こそ環境汚染物質の宝庫。
やつにとってはえさ場なのだ。
そんな事になれば、ガスタンクの爆発、重油の流出、なにより通り道の大都市が壊滅する。
日本は終わりだ。
いや、日本だけじゃない。
放置すれば間違いなく世界すら終わる。
もし世紀末元帥がこいつの存在を知っていたら、あそこで自爆していなかったかもしれない。
こいつが目覚めるという事は、征服すべき国や世界が滅ぶという事なのだから……。
オレは無意識に部屋を出ようとしていた。
「おい! どこへ行くんだ!」
肩をアオイが掴む。
「離してくれ」
「オレが『離す』んじゃねえ。お前が『話せ』!」
アオイの眼は、真剣だ。
だけど、オレはこの真剣さに返す言葉は、持ち合わせていなかった。
「……」
そんなオレの前に博士も立ちふさがる。
「待ちたまえ。君は何をするつもりだ? 怪獣は地球防衛軍の管轄だ。我々が動く事は出来ない」
「地球防衛軍は『地球環境の汚染による怪獣』に対処する組織だ。つまり宇宙怪獣に管轄は関係ない」
「……!」
滅多に感情を表に出さない博士が目をむく。
「君は……まさか……」
「おい! 何を言ってるんだ!」
「……すまん!」
オレはアオイの手を振り払った。
「どんな処罰も覚悟の上だ!」
「ちょ……ちょっと待て! 博士も何とか言ってくれ!」
「……」
博士はその場で顎に手を当て考え込み、アオイの言葉も耳に入らないようだ。
振り向かないように、走りだす。
「ふざけんな! オレたち仲間じゃ……仲間じゃねーのかよ!! ウシオーーーーーーーーーーーッ!!」
背中にアオイの声を浴び、気がつかないうちにオレは泣いていた。
泣きながら、走った。
その日、ギガントマンはヱゐモセズに向かって飛来した。
ヱゐモセズの周囲に、人々どころか一切の生命体はいない。
全て滅ぼしつくされていたからだ。
その破壊の権化が、台風のようにゆっくりしたスピードで東京に向かっていた。
今まさに、東京と埼玉の境にある山を火山の如き様相に変えながら踏破している。
それが、飛来した邪魔者を見つけ、電子音に似た唸り声を上げた。
『プルルルル……!!』
自身をこの地球まで追い詰めてきた存在に対し、激しく怒っているのがわかる。
それと対面して思う事は一つ。
(なんてデカさだ……)
二〇〇メートルと言えば、東京タワーに抱きつけるほどの巨大さだ。
四〇メートルのギガントマンのゆうに五倍。
それは、ギガントマンの記憶にあるかつて地球に墜落した際より、遥かに巨大化した事を意味する。
同時に、とてつもなく強大であるということを示していた。
たとえ、どれほど強大な相手だとしても、オレが退くわけにはいかない。
こいつに立ち向かえるのはオレしかいないんだ。
「ウェアッ!!」
浮遊している力を推進力に変え、全身を砲弾として力一杯パンチをヱゐモセズの腹に叩きこんだ。
しかし――
『プルルル……』
びくともしない。
むしろ、ゴムタイヤを角材で殴った時のような反発力に、こちらが吹き飛ばされる。
(くそ……!)
だったら光線技しかない。
飛びながら牽制技のレーザーバルカンを撃ちまくる。
それは掌大のレーザーを手裏剣のように次々放つ技だ。
破壊力は低く――と言っても戦車くらいなら吹き飛ばしてしまう威力があるが――怪獣に致命打とはならない。
特にヱゐモセズともなれば、表皮で弾かれ、まるでフライパンに水滴を落とした際のように爆ぜ飛ぶ。
それでも、ダメージが消せるわけではない以上、意識のかく乱にはなる。
ヱゐモセズが嫌そうに手を振り上げた隙に、両腕を交差、アンチナトリウム光線を撃ち放つ。
光線は文字通り光の速さで怪獣の胴体に命中。
大爆発を起こした。
(やった!)
……と思ったのがまずかった。
爆風を切り裂き、飛び出してきた光線がオレをまともに直撃した。
「ダァア!?」
全身を引き裂かれたような衝撃が走る。
飛ぶなど出来ず、そのまま山肌に激突した。
「ガ……ア……」
な、何をされたんだ。
激痛の中、オレの目に飛び込んできたのは、爆煙を押しのけて現れたヱゐモセズ。
この大怪獣は、その腹に金属質の光沢を見せていた。
くそ……あれで光線を反射したのか!?
光線そのものではなく、爆発エネルギーが跳ね返されたからまだよかったものの、激痛が収まらない。
細胞全体がダメージを受けて悲鳴を上げている。
しかも直接攻撃も効かず、光線技も効かない。
手詰まりだ……!
ギガントマンには多彩な能力があるが、攻撃のほとんどが光線技なのだ。
あるいは、あの金属質の部分を破壊できれば、打つ手もあるかもしれない。
こうなったら懐に入って、効果が出るまで肉弾攻撃しかない。
そう考え、起き上がると同時に宙に舞いあがった瞬間――
『プルルルル……!』
ヱゐモセズの全身から炎が放たれた!
「ア……!」
それは、いわば隕石弾のシャワーだった。
凄まじい数の炎が、塊となってまき散らされる。
飛行して避けようにもギガントマンの旋回能力を遥かに超えた攻撃の数だった。
「!」
隕石の雨が、全身に何度も叩きつけられ、きりもみして落ちていく。
そして、少しでも立ち上がろうとするたびに、煮え滾る隕石が叩きつけられた。
やがて、立ち上がることも出来なくなったオレは意識を失った……。




