燃えてヒーロー・1
戦いは激化の一途を辿って行く。
RE:ショックネスでは、新たな大幹部・世紀末元帥が着任。
幼稚園バスジャックや学校給食への毒物混入など、スケールが小さいのに洒落にならん作戦ばかり実行してくるため、街を大規模破壊する怪獣とどちらを優先すべきか、究極の決断ばかり追い込まれる。
ジャフウスイは大厄神なる魔王を召喚せんとし、その活動を活発化させていた。
また、折からの中国から飛んでくる大気汚染物質によって怪獣の出現が頻発化。
……いや、死ぬって。いい加減。
改造人間でも死ぬときゃ死ぬぞ。
そんな苦労なんて他の人が知るはずもなく。
知ったら知ったで死ぬけど。オレが。
ともあれ、破綻の足音は、すぐそこまで迫っていたのだ。
その日、国立の地震研究所が、声明を出した。
微細な振動が感知されているのだという。
それが規則的に振動しており――まるで心臓の鼓動のようであるらしい。
しかも、日に日に強くなっているという。
その震源こそヱゐモセズが墜落した地点。
TVでは隕石衝突で断層に負荷が加わったためではないかと報道しているが、そんなわけはない。
ヱゐモセズが復活しようとしていたのだ。
そして、それは最悪の形で実現する事になる。
日本どろどろ計画。
怪人ドロロキノコの「メソポタミアの宝石」。
それは虹色に輝くキノコであり、かつてメソポタミアが肥沃な草原であった頃、猛威を奮った毒キノコだという。
水に溶けやすいという性質を持ち、その毒性は極めて強力とされている。
その後、メソポタミア地方の砂漠化に伴い、ミイラ化していたものをRE:ショックネスが甦らせたのだ!
……って、全部世紀末元帥がぺらぺら説明してくれた。
流石説明に定評のある大幹部だ。
奴らは第三帝国の流れをくむ組織らしく、演説が好きな大幹部が多いからな。
問題はそれを、ダムに投げ込もうとしている事だ。
事態の発覚は、おやっさんの店に、RE:ショックネスのアジトから逃げ出してきた白衣の男が飛び込んできた事に端を発する。
ぼろぼろの姿で現れたその男は――
「北山田ダム……ショックネス……毒を……」
と言い残し、溶けてしまった。
そう、その場で溶けてしまったのだ。
あんな冗談みたいな組織であるのに、簡単に人を殺してしまうような残虐さも併せ持っている。
それが逆に怖い。
論理の通用しない相手ほど怖いものはない。
溶けてしまった白衣の男が誰だったのかはわからないが、おそらくRE:ショックネスに捕まった科学者だったんだろう。
この喫茶店は奴らにバレている。
何しろ、新装開店時に花輪が届いたからな。RE:ショックネスから。
オレが仮面ホッパーだとは知られていないが、その協力者だというのは知られてしまっている。
まだ直接的に何かをされていないのは、奴らからすれば、いつでも潰せるという事だろうか。
それより、男が命を懸けて情報をくれた以上、それに応えないわけにはいかない。
それに、ダムに毒など流されては、それを使う市民だけじゃなく、その地下に眠るヱゐモセズが有害物質を吸収して甦りかねない。
オレは、急ぎ北山田ダムへ向かった。
ゴリュウジャーの基地をこっそりと抜け出して――
「フハハハハハ! 遅かったな仮面ホッパー!」
世紀末元帥の高笑いが山奥のダムに響き渡る。
この全身装飾したファラオを日干しにしたような見た目のじいさんこそ、RE:ショックネスの最高幹部の一人であり、見た目に反して出身はポーランドだという。
ヨーロッパで破壊活動を続け、南欧のある国を崩壊させたほどの手腕を持ち、それを買われてオレが邪魔し続けている日本支部へ来たのだ。
なお、この辺も全て過去に奴がぺらぺら喋った事である。
「科学者は敢えて脱走させたのだ。貴様をおびき出すためにな!」
「何だと……!」
「何度も何度も作戦をジャマしてくれよって……貴様をこの手で倒さねば、吾輩のプライドが許さぬ!」
くだらねえ。
だが、知らないうちにやられる方が危険度は高い。
むしろ、今ここでコイツを倒すチャンス!
「だったら、倒してみろよ! 変……身!」
仮面ホッパーに変身。
一気に飛び掛かる。
「バカめ! やれいっ!」
世紀末元帥の号令で、戦闘員たちがわらわらと襲いかかる。
ダムの真上、それほど広くない通路にひしめく戦闘員たち。
それをいつものように蹴散らすと、地面を米印に引き裂いて巨大なキノコがせり出してきた。
キノコはきゅぽっと間抜けな音を立てると、四肢を生み出し直立した。
アミガサタケとベニテングタケをこねくり回し、粘土人形に張り付けたような醜悪な姿だ。
こいつこそ、怪人ドロロキノコに違いない。
「ドォーローァ!」
「丁度いい! 貴様をぶちのめす!」
破壊活動される前に倒せばいいのだ。
力の限り、殴る。殴る。
「ド……ドロァー……」
頭部に当たるキノコの形を歪め、よろめくドロロキノコ。
行ける。
こういった毒物系の怪人は、直接攻撃力は低い。
完全戦闘タイプのホッパーの敵じゃない。
これなら――
「ドロリーッチェ!」
ドロロキノコが口――とおぼしき亀裂――から、泡立つ液体を吹き出した。
「!」
反射的に身をかわすと、液が直前までいた場所を薙いでいった。
液が触れたコンクリートの床がじゅうじゅうと音を立て、溶けていく。
こいつはやばい。
いかなホッパーの強化外皮でも耐えられるかはわからない。
おそらく、科学者を溶かしたのは、カプセルか何かで時間を調整して漏れ出すようにしていたこの溶解液なのだろう。
人間を人間と思わないくそったれどもめ……!
「ククク……見たかホッパー!」
何時移動したやらダムの監視小屋らしき高台から勝ち誇る世紀末元帥。
確かに、いつ飛んでくるかわからないこの液体を前に、まともに格闘するのは危険だ。
ゴリュウジャーと違い、飛び道具を持たないホッパーではこの相手は難しい。
だが、やりようはある。
ギガントアイで奴の体内構造を透視するのだ。
そうすれば、いつ液体がせり上がってきているか見える。
来るのがわかっていればよけられる!
「ドロリーッチェ!」
ドロロキノコが溶解液を放つ。
しかし、承知の上だ。
オレは素早く身をかわし、ドロロキノコに殴りかかる。
小気味良い音と共にドロロキノコの頭が揺れる。あと二三発も殴れば内部機構を粉砕できるだろう。
が、それが油断だった。
「バカめが!」
「なっ……」
何者かに背後から羽交い絞めにされた。
それは高台に居たはずの世紀末元帥だった。
く……なんてパワーだ。
関節が耳障りな悲鳴を上げる。
とても振りほどけない。
流石は大幹部……くそっ。
「い、いいのか? あんたこそここに居たら、溶解液を浴びちまうぞ」
「ククク……だからバカめと言ったのだ。見るがいい!」
きゅぽっ、珍妙な音と共に、背後の世紀末元帥の姿が見る間に変貌していく。
輪郭すら溶かしつくす異様な変身。
現れた醜悪な姿は、まさにドロロキノコのそれだった。
「な、なんだと……!?」
「ククク、そこなドロロキノコなど吾輩のための実験材料に過ぎぬ。吾輩の正体はスーパードロロキノコ! そやつの一〇万倍の毒素と抵抗力を持ついわば吾輩こそが完成形よ! 当然溶解液など効かぬ!」
「く、くそっ……」
「やれいドロロキノコ!」
まずい。
こいつに回避不能の後ろから吐いてくる脳みそはないようだが、これではかわせない。
「ドォーロォ!」
――やむをえん!
こうなれば、ギガントマンのアレを使うほかない。
変身前にアレを使うのは猛烈に体力を使うし、何よりホッパーの姿で使ったらどうなるか……だがやるしかない!
テレポーテーション!
瞬間、肉体が粒子に分解され、次元を飛び越えた。
「な、ど、どこに消えた!?」
オレは真上にいた。
遥か上空にテレポートしたオレは、落下の風圧をベルトに受け、エネルギーを猛烈に蓄積。それを右足へと集中させる。
「ここだァッ!」
「なっ……」
風と重力を味方にしたホッパーキックが真上からドロロキノコに炸裂する。
ドロロキノコは咄嗟に両腕でブロックしたが、そんなものは関係ない。
「ホッパースクリューボルト!!」
全身をボルトの如く回転させ、相手にドリルの如きキックを叩き込むホッパー三十八の必殺技の一つ。
ブロックした両腕ごと蹴り砕き、その頭を叩き潰す。
「ドギュ……」
そして勢いそのままに三角飛び、スーパードロロキノコにキックを叩き込む。
「ぐあっ!!」
く、浅いか……!
背後でドロロキノコが爆発したが、正面に吹っ飛んだスーパードロロキノコは倒せていない。
「とどめだ!」
と、一歩踏み出した瞬間、全身に猛烈な倦怠感が広がった。
徹夜三日目と船酔いが同時に襲ってきたようなその感覚は、立っている事すら辛い。
「ぐ……ぐぬぬ……おのれホッパー……」
だが、奴も満身創痍。
体のあちこちから火花を散らしている。
ここで決める!
オレは無理を承知で駆け出した。
「か、かくなる上は、我が身をダムに投げ込み、汚染しつくしてくれるわ!」
スーパードロロキノコは、ダムに飛び込まんと走り出す。
「くっ! やめろ!」
奴の体内にはきわめて有害な溶解液が仕込まれている。
そんなものを満載した怪人がダムに飛び込めば、水源はおしまいだ。
悲鳴を上げる体にムチ打って走る。
直後、強化外皮の下に格納されているゴリュウブレスから緊急通信のコールが鳴り響いた。
「レッド! すぐに基地に戻れ! 緊急事態だ!」
博士の切迫した声。
だが無視する。
悪いがそんな場合じゃない。
「ピンクが危険だ!」
「なっ……!?」
「ククク! バカめ! スキを見せたな!」
直後、スーパードロロキノコがダムに身を躍らせた。
「しまっ……」
「RE:ショックネス……ばんざああああい!!」
スーパードロロキノコは空中で溶解液をまき散らしながら、そのまま着水。
そして水中で大爆発を起こした。
激しい水柱が噴き上がるが、その水は既に紫色に変色し、汚染のすさまじさを見せていた。霧のように散った毒気のせいで、近くのトンボが真下に落ちて水中に消えていく。
「ち、ちくしょう……!」
早くなんとかしないと、下流の人間は全滅だ。
「レッド応答しろよ! 何をしてんだ! このままじゃピンクが危ない!」
今度はブルーから、血を吐くような声。
……ぐうううう!
だが、ここで行くわけにはいかない。
すまん……ピンク!
こうなれば、ギガントマンに変身して冷凍光線でダムごと凍結させるしか……。
と、そのダムの水が、急激に減り始めた。
「な、なにが……」
ドクン!
直後、大地が脈動した。
「し、しまった……!」
みるみる内に水が減っていく。
遥か昔に沈んだ村や自動車が姿を現し、代わりに地面の揺れが激しくなる。それは大地震と言っていいレベルの揺れになり、ダムの壁面にひびが入っていく。
「ヱゐモセズが毒水を吸収している……!?」
まずい。
これは、極めてまずい。
有害物質を細胞の力とするヱゐモセズが、これだけ大量の毒を飲み込んだのだとすれば、いつ復活してもおかしくない……!
「くっそ……」
何をどうすればいいかもわからず、一歩を踏み出した瞬間、オレはその場に膝をついていた。
「あ、あれ……」
力が入らない。
気づかないうちにホッパーの変身も解けていた。
意識に斜がかかっていく。
「ここで……倒れるわけには……!」
残る力を振り絞り、内部通信機能を使って万能バイク・スーパーセルを呼ぶ。
やがて近くで待機していたスーパーセルが自動操縦で現れた。
「オレを……国立超科学アカデミーへ……」
何とかスーパーセルに体を預けると、オレの意識は途切れた――




